東京大学、企業の製造現場を取材するビジネススクール、ま…

◆東京大学、企業の製造現場を取材するビジネススクール、まずホンダが協力
1、2年生が対象でビジネス教育に製造現場の調査・研究を取り入れる

<2004年09月06日号掲載記事>
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日本の大企業で「経営職」と言われる人間は、一般的に大きく分けると二つのルートのうちのどちらかを経ていることが多い。

一つは、現場を通じたルートである(叩き上げとも言う)。

これは、営業現場なり製造現場なりで個々の優秀な実績を示した人間が、結果として経営職に至るケースである。

もう一つは、財務や人事畑といった管理部隊ルートである。

こちらは、全社横断的な情報を把握することで(財務や人事といった情報は、全ての部署・領域を横串にする)各種調整などに才能を発揮し、結果として全社的に必要不可欠な人材となり、経営職に至るようなケースである。

「現場出身経営者」と「管理部隊出身経営者」はそれぞれ「個別最適化の積み上げ」、「数字 and/or 結果追求」の何れかに力点をおく傾向があることは想像するに難しくないが、企業によってはそれぞれを交互に選出することで長い目でみたバランスを取る試みをしているところもある(勿論、実際にはどちら出身の経営者であっても、ある程度両方を把握しているのは事実であるが)。

それでは、「現場と管理」の主従を考えた際、どちらが主でどちらが従となるべきであろうか?

当たり前の話だが、これは現場が主、管理が従でなくてはならない。

何故なら財務数値は企業が取り組む各種活動を数値として表した結果でしかなく、人的資源の配分にしても収益獲得の為の最適配置を実施するという行為でしかないからだ。即ち、数字を上げることは目的ではなく、飽くまでも「お客様への価値提供をどの程度実現したかを表す結果としての指標」でしかない。

しかし、現場で培われるノウハウを元に会社全体を見回す能力を身に付けるに至るよりも、財務的な観点から会社全体を見渡すほうが安易であることから(財務そのものの性質が全体を定量的に捉えることを目的にツールとして開発されたコンセプトであるが故に、これは必然である)、現場の人間が現実を把握して対応策も認識しているにも関わらず、「踊る大走査線」よろしく「現場で生じている事件を全社課題とする」ことには困難が伴うことがある。

こうした際に、経営陣の中の現場出身者と管理出身者の間で、巧い調整が出来ればベストであるが、これが必ずしも可能でない場合もある(コミュニケーションの問題や、政治的な問題があることも少なくないだろう)。

よって、理想的な「経営者」になる為には、現場をしっかり把握した上で財務的・管理的な観点をも兼ね備えることで、個別観と全体観を両立させ、「木を見て森を見ず」でも「森を見て木を見ず」でもなく、「木も森も同時に見る」必要がある。

欧米系の企業が MBA などのプログラムを通じた人材を経営者に据えているのは、これら両方を融合させようという試みであるのは間違い無いが、果たしてこれだけでもまだ充分でないのも事実である。

その意味で、今回東京大学が授業の一貫として行う、「ホンダの製造現場を借りながら工場の技術者を取材し、実際の生産活動の現場から問題点や解決策を引き出す実務的な教育を目指す」という試みは、未来の経営者を育成するという意味で非常に有意義であると考える。

勿論、学部生のうちにこうした授業を受講するだけで経営者が生まれるわけではないが、こうした地道な取り組みの積み重ねが、最終的に日本を支える経営者を生み出すことにどこかで繋がるはずである。

これは、当社(住商アビーム)の設立の目的である「現場と経営の融合」にも通じる話である。

<長谷川 博史>