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挑戦する」ということと、「支援する」ということ
<Business 2.0誌 2004年12月号より>
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昨今の日本産業界では「経済発展にはイノベーションが必要、その為には新しい産業を担う新興企業の挑戦が重要である」として、当初は小さなマーケットの芽をしっかり育成しながら成長していくベンチャーの台頭に期待が集まっている。しかし、現実を見ると IT 業界を中心に一部ベンチャー企業からの卒業生に注目が集まる以外、大きな動きが見えるようには思えない。
【ベンチャーの重要性】
この「ベンチャー」という言葉、早速辞書で調べてみると、
・冒険(的事業)
・危険にさらす、かける
・思い切ってする〔述べる〕
・大胆にも・・・する
・危険を冒してやって見る(on, upon)
・思い切って行く〔来る、進む〕
といった意味があるらしい。
纏めると「危険に晒されながらも、冒険的に、大胆に挑戦する」といったところだろうか。
「日本人はこうした挑戦が苦手だ」などという声も聞こえてきそうだが、このたび筆者のコラムで以前から何度も紹介している Business 2.0 誌(米国でビジネスと IT のコラボレーションを模索・新しいビジネスモデルや技術を中心に紹介している雑誌)の 最新号である 2004年 12月号に、野茂、イチロー、松井といった日本人野球選手の米国での活躍を上回る、米国での日本人ベンチャーの挑戦ストーリーが掲載されていたので、紹介したい。
【米国での日本人挑戦者紹介】
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“Rise of the Sushi King” (Damon Darlin)
石井龍二氏は 1977年に英語を学ぶために渡米。米国での大学卒業後、公認会計士となり食品会社を経由して、1986年に独立した。
1986年には AFC 社(Advanced Fresh Concepts)を設立。スーパーでの寿司の実演販売を開始し Southern Tsunami ブランドを全米に展開。現在、スーパー内を中心とする全米 1,700 箇所で年間 2.5 億ドルの売上を誇る(現在円高に振れている為、日本円換算年間売上高、約 250 億円強)までに成長している(記事では、2.5 億ドルの売上を「鮮魚 300 トン、20 百万枚の海苔、1.9 百万ポンドの米」と説明している)。
石井氏の AFC 社の米国における成長軌跡は、導入した商品をもじった見出しと共に以下のように紹介されている。
1985年 Idea Inari(アイデア段階)
この頃、石井氏は日本からの移民で公認会計士。米国には安い寿司は無かったことから、新しいアイデアを募らせていた。
1986年 Test Market Tuna(テストマーケット期)
L.A.の Vons というスーパーで 6 ヶ月のトライアル販売を実施。生の魚を食べるという発想自体がまだ一般化していなかったことから、食中毒といった問題が生じないことを米国人に証明する必要があった。スタートした当時、まだ AFC社は設立されていなかった(同年設立)。
1987年 Demographic Roll(デモグラフィック展開)
銀行借入の実施と複数直営店のスーパー内での展開を複数エリアにて開始。当時、寿司は一部のヤッピーが食すものでしかなかった。
2002年 Franchise Temaki(フラインチャイズ化)
直営 1,400 スタンド(スーパー内なので、店ではなく、スタンドという数え方をしている)に達した為、フランチャイズ制へと移行。日本からの移民を中心に、加盟料 2,400 ドル(アウトレットと 1 週間の研修)で、業績トップのスタンド(店舗)は 1 週間の売上が 2 万ドルにもなった。
2003年 Innovation Inside-Out(イノベーション実施)
海苔を Sea-weed(海の雑草)と英語では表現することもあり、米国人の中には海苔嫌いも多いことから、ペーパーライスを用いたサマーロールなどのメニューを考案。
2004年 Expansion Ebi(拡大期)
1,700 のスーパーなどでの販売を実現していることに加え、大学、スタジアム、アミューズメントパークなど、月間平均 50 スタンドの新規開店のペースを維持している。
(長谷川超訳)
———————–<記事紹介終わり>—————————-
【挑戦というレベルを超えたロマン】
筆者自身、石井氏が米国で店舗展開を開始した 1986年は米国に在住していたが、この 1986年の時点で「米国で寿司を広めるビジネスをスタートする」ことに乗り出した石井氏は「危険に晒されながらも、冒険的に、大胆に挑戦」しており、間違いなくベンチャースピリットを感じる。個人的には、単なるベンチャースピリットを超えて、日本の象徴である寿司を米国で展開する、というところに、壮大なるロマンすら感じる。
【自動車業界では?】
さて、こうしたベンチャービジネスに自動車業界も無縁ではない。当然、日々技術革新に大量のリソースをつぎ込んでいる自動車メーカーをはじめ各社の取り組みは半端でないが、自動車業界にもベンチャー企業が勝負出来るフィールドは存在する。
同 Business 2.0 誌のページを数枚めくると、今度は自動車業界における「カーシェアリング」に関連する在米ベンチャーについて紹介されている。
———————<記事紹介開始>——————————-
“Car-Sharing Moves Into the Fast Lane”, (Matt Palmquist)
大都市で自動車を保有するのは、何かと大変である。カーシェアリングはこの点に注目することで、保有を代替する手段として月間 50 ドル程度の基本料を元に、時間当り若しくは 1日単位で車を貸し出している。基本料にガソリン代や保険料も含まれている。
最近までカーシェアリングは地域密着型の NPO などにより運営されていたが、徐々に利益追求型へと移行しつつある。
代表的なベンチャー企業としてのトップ 2 は、Zipcar 社と Flexcar である。ABI リサーチ社によると現在の全米カーシェアリング市場の規模は 15 百万ドルのレベルだが、2009年までには 10 倍の市場規模に成長するとしている。現在、両社で同市場をほぼ寡占している。
Zipcar はボストンで 2000年に設立された。主に東海岸の都市で現在 400台の車を操業している。同社はベンチャーキャピタルから 10 百万ドル以上の資金を調達しており、会員数は年間 90 %増と成長著しく、つい最近黒字化を達成している。スコットグリフィス CEO は駐車スペースを探すのが難しい都市を中心に対象エリアを拡大していくことを意図している。
一方、ライバルの Flexcar (Mobility Inc.社)は西海岸での事業展開となっており、既に LA、ポートランド、シアトル、ワシントンで展開をしている。ホンダの協力 * もあり、2005年には黒字化を予想している。
両社はそれぞれ 2 万会員以上を有しており、会員の中心は主にタクシーやレンタカー費用を削減したい法人である。
(長谷川超訳)
———————–<記事紹介終わり>—————————-
【日本でのカーシェアリング】
丁度、11月 22日の日経新聞社会面に「広がるカーシェアリング」という記事が掲載されていた。しかしその内容は住民主導型でありながらも、普及の速度が上がっていない実情を示すものになっている。
記事では、特に、点検や保管といった領域における問題点を指摘しているが、普通に考えれば自動車業界の食物連鎖頂点に立つ自動車メーカーがこのカーシェアリングに積極的に取り組むかというと、1台の車を複数人がシェアすることにより販売台数の減少を導くのであればディスインセンティブが働きやすい。
事実、日経の記事には「米大の研究ではカーシェアリンググループ会員の 30%がマイカーを売却し、走行距離が 47 %減少した報告もある」とある。 よって、筆者は上記カーシェアリングマーケットに関しては公的なサポートの必要性を感じると同時にベンチャーの活躍余地があると考える。少なくとも、メーカーが積極的にこのカーシェアリングに参画するとは考えにくく、大資本による競争に対峙する必要が無いことだけでも、面白い領域と言えよう。
しかし一方で、上記 Flexcar (Mobility Inc.) の翻訳文の * に「ホンダの協力もあり」とあるが、実はホンダは Mobility Inc.社に 18.4 %出資している。
http://www.honda.co.jp/news/2002/c020313.html
これは既に述べた通り、メーカー自らが積極的にカーシェアリングを推進しようという意欲が働くとは考えにくいものの、無視できない領域でもあるが故に米国のホンダはベンチャーに一部資本参画していると考えられる。
つまり日本でもベンチャーが各種経営リソースの供給源として自動車メーカーをも視野に入れながら展開することもあながち無理な話ではなかろう。
【当社による挑戦者支援】
残念ながら大企業はイノベーションを自ら発生させることが得意ではないことは以下筆者の過去のコラムに詳しいが、
https://www.sc-abeam.com/library/hase/hase0020-1.htmlその代わり社会に対して貢献できるファンクションとしては、その「支援」にあると言い切れるだろう。
大企業とコンサルティング会社の合弁企業である当社の存在意義は、まさに自動車業界において新たなイノベーションを生み出そうとするベンチャーやベンチャースピリットを持った中小規模の企業群のサポートにある。
そのサポート領域は上のカーシェアリングに限定されず全ての自動車事業にあり、内容としてもマーケティング分析や必要資金の算定と斡旋、事業パートナーの選定・紹介や、大企業(自動車メーカーを含む)とのアライアンスのサポートなど多岐に渡る。
「挑戦する人を支援する」
今後ともこの心を忘れずに、「挑戦者」と共に成長していく企業でありたい。
<長谷川 博史>