トヨタ、「レクサス」店でETC活用、入店時に顧客情報を瞬時に・・・

◆トヨタ、「レクサス」店でETC活用、入店時に顧客情報を瞬時に確認
来店者への迅速な対応に繋げる。レクサス車にはETC車載器を標準装備する

<2005年05月09日号掲載記事>

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トヨタ自動車は 8月から国内展開する高級車ブランド「レクサス」の販売店で、ETC を活用し、来店者への迅速な対応につなげるサービスを導入する。今後レクサスブランドの車には ETC 車載器を標準装備するとのことだ。

販売店ではレクサスユーザー(車)が駐車場に入ると、車載器と無線通信を実施し、店内で顧客情報を把握。担当者が店頭で待機するとともに、整備記録などから修理や点検の準備を整える。

【一見さんではない、というプレミアム】
高級なお店で食事を定期的にすると、店長に顔を名前を覚えられたりする。同伴の異性に自慢できたり、食事のオーダーの内容を「いつもの」といった形でお願いすることに喜びを覚えたりするわけだ。

特に商品がコモディティではなくプレミアム性の高いものであればあるほど、商品に付帯して「お店が提供する雰囲気や細やかなサービス」といったことが重要になる。

【飲食(高級レストラン)と自動車(高級車ディーラー)の違い】
レクサスの試みは、この「貴方だけ」という心をくすぐる為のツールであると言えるが、高級レストランとの違いはどこにあるだろうか。

それは、飲食は高頻度で定期的に需要が発生するのに対して、自動車は一般的には 3年~ 5年に 1度買い換えを実施する「スパイク需要」であるという点であろう。つまり、自動車ディーラーの場合、3年に一度の客単価の高い大勝負であり、来店時のちょっとした対応の違いで既納客に逃げられてしまうことは絶対に避けなければならない。

【販売面・タッチポイント以降のプロセス管理】
来客の属性を素早くキャッチして、整備履歴などの関連情報を駆使しながら顧客満足度を最大化していく試みは重要でありこれを ETC を使って自動化することの効果は高いと考えるが、実際には来店時以降の来店客へのフォローが、成約に結びつける為には更に重要である。即ち、顧客との接点を自動化した後にどのようにして同情報を所謂「ホットリスト」に反映して、それを営業マンが如何にして定期的にフォローするか、というプロセスがポイントとなる。こうした定期的なフォローの体制も IT 化による管理が可能な領域と言えよう。

【販売後のタッチポイント確保】
上では、買い換え顧客来店時とその後のフォローに関して述べているが、自動車販売の場合、初めて車を購入した瞬間からのアフターセールス活動が代替率には大きく影響してくる。

即ち、買い換え検討のために来店するよりももっと早いタイミングである、まだ既納客が車に乗っているステージから積極的にお客様に新商品に関する説明などの情報を発信するすることで、代替率を高めるという施策が重要ということである。

既に、チラシなどの領域ではこうした試みは一般的ではある。因みに筆者の知っている中古車小売業者では、1台販売する毎に 6 ヶ月、12 ヶ月点検、お客様の誕生日、車検、ローン返済時などのお知らせ(DM)を纏めて営業マンが車を販売した当日に手書きして、月ごとの郵送ボックスに入れておき、翌月初からは事務担当者が単純にボックスに纏まったはがきを郵送するといったプロセスを導入しているところもある。

こうしたお客様との定期的な接点を維持する方法として、例えば、家庭のインターネット環境・インフラという意味ではブロードバンド導入率世界でトップクラスである日本発のアイデアとして、お客様専用のマイカーページを提供するというアイデアはどうだろうか。ただ、ここで提供する情報が新商品情報やメーカーリコール情報といった通り一遍のものでは、ユーザーは web の閲覧を止めてしまうだろう。

筆者が考えるキラーコンテンツは、ユーザーの保有する車の推定現在価値(中古車相場から自動算出のうえ、買取価格を提示)やローン残高との差、その他諸々の付帯サービスに関連する情報(保険や ETC の使用料金など)をユーザー専用ページにアップしたうえで、買い換えたい自社ブランド製品の設定をユーザーが行うと、代替の目安としての購入車両価格と下取り価格との差額、必要諸経費などが自動的に算出されるような仕組みである。
言い換えれば、車両資産管理の仕組みとも言えよう。これであれば、買い換え検討の際には常にサイトを見れば最適な買い換え時期などを把握することが出来るし、場合によっては当該ユーザー専用サイトに掲載されている情報を限定的に関連事業者に開示することにより、顧客が必要な情報がプッシュ型のマーケティングに基づき自動的に提供されるといったことも可能になるだろう(サイトの運営者は、こうした事業者に例月+成功報酬で課金することも考えられる)。

【サービス面・テスターとの通信と GPS 誘導の可能性】
「車両本体」の代替需要は既述の通り 3~ 5年に 1度であるが、点検、車検、メンテナンス・故障に伴う修理といった所謂「サービス」需要は、もう少し短い頻度で発生する。
レクサスの ETC 対応は、こうしたメンテナンスのために来店した顧客も当然対象にしているが、こうした試みの行き着く先は凡そテレマティクスとの融合であろう。

即ち、現在は来店客の自動車にテスターを繋ぎ、不具合箇所をチェックするという作業を行っているところを、近い将来には車自身の不具合を車自らが情報としてディーラーに発信することで、ディーラーからすれば来店前に不具合箇所を把握のうえ、必要な交換部品の発注手配などが可能となる。

これにより、来店客は必要以上に待たされることが無くなる一方、ディーラーからしても事前に来店タイミングの把握が可能になることからサービス業務の平準化(これに伴うサービスベイなどの設備投資や整備士の数の最小化)や代車手配コストの削減なども可能になる。

また更に進んで GPS ・カーナビによる、ユーザーの店舗への誘導といったことも実現するだろう。

【顧客接点時の情報把握自動化による差別化方法】
さて、こうした形で ETC (厳密には DSRC) による顧客情報把握を始めとする形の各種 IT ツール 導入により、対顧客の対応がやりやすくなっていくと、「営業マンの役割」はどう変化するであろうか?
答えは「これまで以上に人間系が重要になっていく」というものではないだろうか。

各種情報が自動的に取得可能になったとすると、お客様の情報を覚えておくといった所作での差別化は不可能になり、寧ろ不測の事態に如何に対応するかが差別化の手法になっていく。

来店時の対応も「ETC 搭載しているから自分のことを認識しているんだな」とお客様に思われるレベルではダメ。ピザ屋に電話をして電話番号を教えたら、名前と住所を読み上げられるのに感動する人は居ないだろう。

「カーナビを積んだら道を覚えない」というのではなく、道の裏にある各種情報をも覚える。即ち、日々の気配りや業務の内容そのものの更なるレベルアップが求められていくことが、ディーラー営業マンにとっての今後の加速度的な流れであろう。

<長谷川 博史>