グローバル企業に求められる情報開示と説明責任

(現代自動車、米国完成車工場の開所式典にブッシュ元大統領も出席)

ブッシュ元大統領は「工場の稼働で、米韓の関係は緊密になる」と祝辞を述べ、米韓の国旗が縫い込まれた背広の裏地を披露し、会場をわかせた。ライリー・アラバマ州知事は「州政府をはじめ市民全員が、現代自動車への支援を惜しまないだろう」と祝した。

崔在国社長は「韓米関係が過去の日米間の摩擦の轍を踏むことを懸念している」、「工場開設は米国市場と米国民へのコミットメントだ」と語った。鄭夢九現代・起亜自動車会長は、「現代自動車はアラバマ工場の稼動をきっかけに真のグローバル自動車メーカーになる」と語った。

<2005年05月23日号掲載記事>
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「現代自動車はアラバマ工場の稼動をきっかけに真のグローバル自動車メーカーになる」とのことだが、はたして「グローバル」とはどういう意味だろうか。辞書で引いてみると、グローバルとは「世界的な規模であるさま。地球全体にかかわるさま」となっている。

【米国はグローバル?】

当たり前の話だが、米国は全世界の中の一つの国でしかない。よってこれをグローバルとするのは明らかに妥当ではない。しかし、(昨今の政治面における米国のあり方に各種意見はあるだろうが)、少し角度を変えた考え方をしてみると、以下に述べる「国の成り立ち」や「特徴」などの要因から、米国には「各国が流動的な資源の再配分を行う為の器」という位置付けあることが分かる。

1)新世界

もともと、欧州を中心に拡大しつつあった西洋文明は既存の枠組みで行き詰まりつつある中、新大陸発見にフロンティアを求めた。キリスト教におけるカトリック(旧教徒)に対するプロテスタント(新教徒)、政治体制における王制に対する共和制・民主制という意味でも(両者ともに旧世界での誕生ではあったが)、米国は旧世界に対する新世界であったのは事実である。

土着の人間が自然に集い組織化し、政府や軍隊をはじめとする諸制度を整備していったという旧世界と異なり、正に人工的に(嘗ては)志を基に創造された実験国家の中で最も成功したモデルである米国は、少なくとも 20 世紀を通じて世界のフロンティアであり続けたといっても過言ではないだろう。

2)経営資源の多様性

こうした歴史的背景に基づき、今でも米国には世界中の人材(人種)、モノ、カネといった経営資源などが集まり、少なくとも現大統領が票を獲得出来なかった東西海岸沿いの主要都市では人種的多様性に裏づけされた各経営資源の多様性(人材の価値観も含めて)が存在する。筆者自身の米国在住経験からして、米国固有の閉鎖性(米国人として振舞うことが求められるなど)は存在するにしても、例えば日本若しくは欧州と比較するとこれは一目瞭然な事実であろう。

3)優勝劣敗の仕組み

新しい産業・ビジネスが産み出されては、不要なものは滅びていくといった優勝劣敗が、直接金融のもとダイナミックに行われてきた仕組みは米国式資本主義の特徴である。多くの挑戦に基づく一握りの勝者と弱者に対する複数回数の再挑戦権の付与。(最近、こうした辺りが難しくなるという方向性ではあるが)。こうしたダイナミックなマーケット構造では需給バランスの崩壊やスペキュレーションなどによりマーケットのボラティリティは高くなりがちであるが、実際には GDP が一番安定的に右肩上がりなのが米国であるのもまた事実である。(米ドルが基軸通貨だということによる指標の歪みはある。)

【将来性を元にエクイティファイナンスを続ける米国】

世界中の国々の優秀な人たちがアメリカに集まり、世界中の富の多くがアメリカで運用されている。よく言われるように、例えば日本国内及び海外からのリスクマネーが米国企業の株式・政府の債券といった形で貿易赤字でばら撒かれたドルが還流するというのが今までの仕組み。

米国経済全体を企業として乱暴に表せば、商品仕入れを株主に頼っている企業が、現金決済で商品を仕入れたものの、支払ったキャッシュを新株発行で同額以上に資金調達している状況といえるである。

ここで、この米国のやり方が未来永劫続くか否かという議論をするつもりはない。昨今の同国の状況からすると間違いなくどこかで行き詰まるとは思われるが、とはいえ投資家たる他国が他のどこにファイナンス先を見出すかという質問への明確な答えも無い。

ただ、継続的に資金調達をしつづけることが出来るかは、投資対象として、の魅力度次第であるが、世界のマネーや人材(留学先やベースボール、NBA などなどのスポーツ選手を含む)が米国に集中している状態は今もみられる現象である。

これはあたかも、将来性を示すことが出来る魅力的な企業が継続的なマネーや人材を獲得し、株式発行総数が増えて一株当りの純資産や利益が希薄化しても、将来価値を先取りすることで、株価も高く推移するという好循環を築いていることに似ている。

【米国のアキレス腱と企業にとっての情報開示】

つまり筆者は米国がイコールグローバルであるという考え方には賛同していないものの、凡そ、米国という各種経営資源の坩堝・その再分配の器の仕組みに関しては、他に無い仕組みであると考え、自由な資本や人材の移動が実現する時代(日本もこうした時代になりつつあるのは、その是非は別にして否定できない)の成長企業は、そのやり方を十二分に参考にすべきであると考える。

例えば「エンロン事件」などの開示不十分を逸脱した詐欺的行為が発覚した際の米当局の迅速且つ果断な反応は、「信用」というものを重視している姿勢の表れであった。ここに米国のような資金調達を行う国にとってのアキレス腱がある。

【グローバル企業とは】

一方、企業にとっても継続的な魅力の提供と資金調達に基づく成長の前提になるのは、ステークホルダーに対する実態と事業計画の開示に基づく「信用」であり、信用無くして、今後の企業の成長はありえないということだ。

鄭夢九現代・起亜自動車会長はここまで考えた結果として「グローバル」と語ったわけではないと思うが、真のグローバル企業は、経営資源が流動化しつつある今後の世の中で、具体的なビジョンを掲げながらそのビジョン実現のために必要とされるリソースを「信用」に基づいてステークホルダーから継続的に調達可能な企業のことを指すのであろう。

<長谷川 博史>