自動車業界ライブラリ > コラム > 自動車業界特化型バリューチェーン会計制度に関する考察
自動車業界特化型バリューチェーン会計制度に関する考察
(三菱自動車、新車販売の1割が『自社登録』、昨年度は1万7300~2万台にも)
同社の昨年度の国内販売台数22万7000台のうち、販売会社が自社登録した車が1万7300~2万台と1割近くを占めている事がわかった。他の大手メーカーでの自社登録車は「全体の1%程度ではないか」(業界筋)とみられている。
<2005年06月10日号掲載記事>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自動車ニュース&コラムにある内容によると、三菱自工の自社登録の内訳は「試乗車」が 4325台、「サービス代車」が 1 万 2975~ 1 万 5570台程度。一連のリコール隠し問題で、ユーザーに貸し出す「代車」の需要が高かったとのことだ。また、同社の昨年度の販売目標は 22 万台、国内販売台数は 22.7 万台だった為、「自社登録」がなければ、目標は達成できなかったとしている。
【おさらい・自社登録とは】
通常 日本の場合、新車の在庫販売は少ない。
即ち、自動車販売会社(ディーラー)から見れば、消費者から注文を取り付けたうえでメーカーから車を取り寄せて販売する、所謂受注販売方式となっている。
この受注販売方式に基づく通常の消費者向け販売・登録と自社登録の差を、以下に併記してみた。
1)消費者向け登録
ディーラーが一旦メーカーから仕入れた車両を、消費者の名義で陸運局に登録して、ナンバープレートを取り付ける
2)自社登録
ディーラーがメーカーから車両を仕入れて、ディーラーの名前で陸運局に登録し、ナンバープレートを取り付ける
上記では両方、自動車メーカーから見れば新車の売上が計上される。しかし、2) の自社登録の場合、正確には車両はディーラーの店頭に留保され、消費者の手には渡っていないことになる。
しかし、自動車メーカーの販売台数カウントは、消費者に販売した台数ではなく、陸運局に登録してナンバープレートを取得した台数でカウントされる。
ディーラーが自動車メーカーの連結対象子会社であれば、連結会計上は売上は内部取引として消去されるはずであるし、台数についても、知っている人間からすれば、「自社登録込みの数字ですよね」ということになるが、知らない人間からすれば、少し分かり難い。
【簿外に存在するリスクファクター】
一度登録された車は、まったく走っていなくても、中古車としてしか販売できない。ナンバープレートが付いている為、新規登録扱いにはならないからだ。
通常、新車で 100 の価格が付いている車両でも中古車になった瞬間に 2 割程度は減価する。しかもこの 2 割は小売価格ベースのものであり、実際に小売出来ずオートオークションなどで転売しようとなると、実額で最低 10 万円、割合にして 1 割程度は減価してしまう。
この減価分の一部はメーカーからの値引きで補填されることから、メーカーから見ると自社登録車は収益性の低い売上となるわけだが、本当に怖いのはその後である。
時価が低下した自社登録車が、小売を前提にディーラーの在庫として店頭に置かれた後に、耐え切れず大量にオークション市場・自動車流通市場に出回るということは、走行距離がゼロに近い新品同様の車が中古車市場で新車より圧倒的に安い価格で手に入るということになる。
即ち、
1) ディーラーの膨らんだバランスシート上の在庫が売上原価計上される際には、通常想定されるマージンが期待できなくなる。
2) メーカー・ディーラー双方で、今後の新車の売上に確実にボディーブローのように効いてくる。
という結果が待っているのである。
これらは、会計監査済みの財務諸表を見ても把握できない。
【連結会計からバリューチェーン会計へ】
三菱自工に限らず、自動車メーカーのように 12 社合計で 47 兆円という巨大な売上高を誇る産業においては、その仕入先や販売先は網目のように入り組みながらもピラミッド構造になっていることから、資本系列を前提とした連結のみを行いステークホルダーに開示するだけでは説明しきれないケースが多い。
以下は弊社篠崎が 2004年 12月に執筆した『連結会計』からの引用であるが、『これからの連結会計は今の連結会計を一歩進めた「自動車メーカーが関係するバリューチェーンに参加している企業群」を連結するような手法にすべき』であろう。
(全文は以下 URL を参照。)
https://www.sc-abeam.com/mailmagazine/shino/shino0043.html
これからの連結会計は今の連結会計を一歩進めた「自動車メーカーが関係するバリューチェーンに参加している企業群」を連結するような手法にすべきであろう。
親会社を中心とした単体重視の会計が徐々に連結会計へと移行していったように、会計制度はビジネスの仕組みに追いついていく必要がある。
今回のディーラー(更に言えば、資本関係がないディーラー)のような企業向けの自社登録についても、もしグループの範囲に含めた会計制度、連結会計ならぬ、バリューチェーン会計が導入されれば、そのバリューチェーンの価値を正しく会計数値に反映することができるのではないだろうか。
具体的にどういった形でこうした会計基準を構築していくべきかについては更なる検討が必要であるが、一般的に公正妥当と認められる会計基準と並行して、こうした開示を行うといった義務付けをすることも一案であろう。
<長谷川 博史>