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インターネット自動車販売の変遷とBTO時代のディーラー機能
◆ネット利用の「ビルド・ツー・オーダー(BTO)」、ロードスターでは約1割に
<2005年7月4日号掲載記事>
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BTO とは車体の色やスペック、オプション、エンジンに至るまでをユーザーがインターネット上で独自にカスタマイズしたうえで発注することが出来る、カスタマイズ型の受注生産方式である。
パソコンではデルコンピューターがこの方式を元に直販を行うことで、世界最大のパソコンメーカーとなっているが、車は根本的にその成り立ちが異なることから、自動車業界にデルのような存在が近未来に登場するとは考え難い。
しかし、徐々にではあるが BTO 方式が一部の車種には浸透しつつあるようだ。
自動車業界における BTO で先行するのはマツダだが、記事によるとロードスター(モデルチェンジ前の状態と思われる)で、全販売台数の約 1 割が BTO となっているらしい。
【本コラムの目的】
本コラムでは、インターネットが自動車販売に与えた影響を振り返りながら、その最新形であるBTO が流通業界にどのような影響を与えるかを考察する。
【インターネット自動車販売の変遷】
これまでの日本における車のネット販売を大胆に分類すると、凡そ以下の 4つに大別されると考える。
1)新車見積モデル
オートバイテル、カーポイント(カービュー)に代表される、新車ディーラーを加盟店化しながらユーザーからの見積もりを斡旋するモデル。課金はディーラーに対して月額若しくは見積もり単位で行う。
2)新車直売モデル
嘗て Quick.go.to という会社があった。業販で車をディーラーから仕入れて直接顧客に販売するというモデルだったが、実際に仕入れを起すことから運転資金が膨らみ、売掛債権の不良化などが発生したことから残念ながら事業が立ち行かなくなった経緯有り。但し、直販といってもディーラーからの直仕入れ・直接販売という意味で、自動車メーカーによる新車の直接販売というルートは日本を含め世界でも殆ど事例は無いと言って良いだろう。
3)中古車在庫検索・見積モデル
カーセンサーや Goo、カッチャオなど、既存の雑誌媒体が中心となり雑誌掲載用に撮影した中古車在庫情報をネットに掲載することで、雑誌とセットでディーラーから掲載料を徴収するモデル。更に各社とも在庫を画像で確認したうえで、売約済か否かの確認と見積もりをオンラインで実施する形となっている。
4)中古車買取モデル
自分の乗っている車の売却価格見積もりをモデル・年式・走行距離などにより取得することが可能。パワーのあるサイトが顧客からの売却希望情報を買取専門店に斡旋することで、1 件x円という手数料を徴収するモデル。
日本のインターネット自動車販売ビジネスモデルは、ほぼこの 1)4)の順番で変遷してきたと考えて良いが、現在では全てのモデルがほぼ相互に乗り入れを行っており、どこのサイトにアクセスしても何らかの形で全てのサービスにアクセスが可能となっている(一部例外有り)。
【インターネット販売におけるハードル】
上記 1)~ 2)の新車販売モデルには、実は共通のハードルが存在する。
それは、「日本の自動車産業における自動車ディーラーの位置付けが、「独立したビジネス単位」という立場ではなく、どちらかと言うとメーカー商品戦略・バリューチェーン戦略の延長線という位置付けである」ということに起因する。
事実、商品設計及びその割り当て、並びに価格決定力についてもインセンティブを通じて間接的に影響下にある状態で、ディーラー経営陣自身の判断により能動的にビジネスへの影響を与えることが可能なエリアは限られている。また、複数ブランドの商品を取り扱いディーラーの数は多くなく、仮に複数商品を扱っていても、殆どの場合は日本車+輸入車となっている。
こうした背景から、一部大手自動車メーカー系のディーラーはインターネット事業者への情報開示を積極的に進めておらず、新車販売のインターネット活用状況は、所謂「カタログスペック情報」の伝達というレベルに留まっており、「見積取得モデル」単体で採算が取れるレベルにはなかなか達しない。
また、自動車の直販モデルについては、自動車メーカーが自ら立ち上げない限り、ディーラーの仕入れ価格プラスアルファがサイト運営会社の仕入れ価格となる以上、価格競争力の面で困難が生じる。(個別のインセンティブ対象モデルのみを大量に仕入れるといったゲリラ戦法はあるだろうが)
一方、3)~ 4)についてはメーカーに気兼ねをすることなく展開している独立系の事業者が多いことから、自由なモデル設計が可能となっており、活発な取引、乃至は取引斡旋が行われている。個々のディーラー店頭にある在庫情報の効率的且つ迅速なサーバへのアップが課題となっていることから、在庫検索・見積モデルは既存の雑誌媒体が一歩リードしており、中古車買取モデルについては、ドットコム時代にエクイティファイナンスを得てネット上での認知度を得た新車見積サイトなどが斡旋事業者としてリードしている。
【BTOの可能性・ゲームを通じた擬似BTO経験】
上記 4 つのモデルの先にあり、且つメーカー自らが手掛けるのが BTO である。
筆者は日本の自動車ユーザーは BTO のような「自分だけの一台へのこだわり」に価値を感じることが多いと考えるが、その根拠として「ゲーム」を通じた経験を例として挙げたい。
例えば、ソニーのプレーステーション用ソフトに、グランツーリスモという自動車レースのゲームがある。
最新作は、2004年 12月 28日に発売された『グランツーリスモ 4』であるが、画面には複数のメーカーがスポンサーを冠するコースなども設定されており、全世界 80 のメーカーの 650 車種以上をバーチャル試乗可能となっていることから、自動車メーカーでもこのゲームを無視できない状況である。(勿論、日本車メーカーはほぼ全メーカー・車種が対象となっている)。
このゲームの特徴は、レースに勝った賞金を元手に、市販車をベースにハンドリングやパワー、スタイルをバーチャルにカスタマイズすることが可能なことにあるが、その手法はマツダの BTO インターネットサイトである Web TuneFactory と酷似しており、 このゲームの経験者は、BTO の潜在利用者であると考える。
因みに、ソニー ・ コンピュータエンタテインメントによると、『グランツーリスモ』シリーズの全世界での累計生産出荷本数は 今年の 3月末日時点で 4,300 万本に到達したとのことだ。これはプレイステーション用ソフト『グランツーリスモ』が`97年 12月 23日に発売されて以来、約 7年間での達成であるが、最新作『グランツーリスモ 4』の全世界での累計生産出荷本数は、625 万本と発表されている。
世界GT生産出荷本数 (単位:万台)
日本 北米 欧州 東南 韓国 全世界
アジア
845 1,677 1,804 24 18 4,367
ゲームソフトの地域毎生産出荷比率を地域毎の自動車販売台数比率と比較すると、ゲーム大国「日本」(それも最近米国などに押されつつあるが)のゲームソフト販売比率が高いことが分かる。(勿論、日本製のソフトであるというそもそもの背景は差し引くべきだろうが)
即ち、日本のユーザーは特に、ゲームを通じた擬似 BTO の経験比率が高いと言っても過言ではないだろう。
【BTO時代のディーラー機能】
全ての車が BTO となる時代はまだ到来しないであろうが、少なくとも一部の「嗜好性の高い車」=「事業者からすると採算の良い車」については徐々に BTOに移管していく可能性はある。
また、メーカーの本音を覗き見れば、前述のメーカーとディーラーの間の主従関係とも言える状態を、何らかの切欠を得て見直したいと考えている可能性も高い。
というのも、過去においてメーカーが複数ディーラーチャネルを維持してきた理由は、自らモデルチェンジを通じて市場に複数の商品を提供する度に既存モデルとの差別化を図ることにあり、また、ディーラーに対しては、計画的に異なるモデルを配分することで、ディーラーの有する限られた経営資源を、与えられたモデルに集中投下することを求めていたことにあるからだ。しかし、昨今の新車市場の成熟化に伴う販売台数増加率の低下・販売台数減は、メーカーが複数ディーラーチャネルを維持するために必要としていた研究開発費(複数ディーラーチャネル向けの複数商品設計)や各種マーケティング関連コストへの見直しを迫っている。
よって、各社は国内販売網の整理統合に手をつけており、この傾向は今後も続くであろう。
こうした背景から、BTO 導入を切欠にメーカーがディーラーに期待する「ディーラー機能」そのものが徐々に変わっていく可能性がある。パソコンのような「直販」という激しい中抜きが実現することは考え難いが、少なくとも従来型のディーラーオペレーションとは異なる形になるだろう。
パソコンのケースを見ると、デルはこれまでの小売店がサービスサポートを行う形を改め、 24時間 365日体制でサービスマンが指定先に訪問して修理を行うサービス体制を敷いている。
自動車の場合でも、BTO の発展に伴い、カスタマイズ方法のアドバイスを行うといった、今までと異なる機能の提供に留まらず、これまで縮小・削減の方向であった日本独自の訪問販売・車両引取りサービス実施、自宅での納車といった方法が、意外と見直される可能性も否定できない。
<長谷川 博史>