自動車業界ライブラリ > コラム > 点在する車両データの統一運用による、効果的な政策・戦略立案の可能性
点在する車両データの統一運用による、効果的な政策・戦略立案の可能性
(◆国内での乗用車の「平均車齢」、6.77年に。13年連続で伸び、過去最高に 1992年に比べると 2.24年長くなった。トラックは 8.36年、バスは 9.53年に。)
<2005年11月14日号掲載記事>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日本における乗用車購入の 92 %が既存顧客の買い換え若しくは増車によるものであると言われる。
即ち、新車乗用車の登録台数の 4.8 百万台(2004年)、中古車推定小売台数 3.5 ~ 4.0 百万台*の殆どが、既に車を保有しているユーザーが買い換えるか(こちらが殆ど)、買い増すかの何れかである。
* 中古車の正確な小売台数を把握することは、現時点では難しい。
【自動車需要をフローとストックで見る】
一方、自動車保有台数は、’05.8.末現在 78.8 百万台(内、乗用車 56.7百万台)となっており、56.7 百万台は、新中合計小売台数 8.3 百万台の約6.8 倍となる。
即ち、現在の年間新中合計小売台数=フローの 6.8 年分の台数がユーザーの手元にストックされているということになり、乗用車購入の殆どが既存顧客の買い換えということは、フロー(=小売台数)の主な発生源が、ストック(保有台数)の入れ替えによるものということになる。
【平均車齢とは】
今回コラムで取り上げる自検協発表の平均車齢とは、現在使用されている乗用車の初年度登録から各年度末までの経過年数の平均を取っているが、発表数字である 6.77年は上記計算上の保有台数の販売台数比である 6.8 年分と酷似している。
平均車齢の 6.77 年が、全保有車両の新規登録~現在までの経過年数の平均であるのに対して、保有台数÷小売台数の 6.8 年分は最新の小売台数比で見たときのストックが 6.8年分溜まっているというものであることから、両者が近似値になるのは納得できる。
【回転数増による、乗用車需要増】
乗用車需要とは、年間の小売台数、即ちフローであるが、フローの主な発生源がストックである保有台数であることを勘案すると、需要増加の為に大切なのは回転数となる。
即ち、現在は年間販売台数の 6.8年分である 保有台数 56.7 百万台がストックとして市場に滞留しているわけだが、例えば 6.8 年というこの年数が短くなれば、分母の 56.7 百万台を少ない年数で回転させることにより 1年当り発生する需要も増加することになるわけだ。
回転数を確保する為の施策としては、結果的に買い換えを促進する効果を持つ車検制度に手を加え、現時点での 初回 3年、2 回目以降は 2年という頻度を上げるといったことが考えられる。しかし、規制緩和の方向性としては車検期間を長くする議論は聞いても、短くする議論は聞こえてこないし、その方向性としては正しいと思われる。
その他の施策としては、リースや残価設定型ローンの導入により一定期間保有後の買い換えを促進するといったことも考えられるが、日本では個人向け商品としてはようやく最近スタートしたといったところである。
よって、統計数値である平均車齢は 93年から 13年連続で過去最長を更新続けており(92年に比べると 2.24年長くなっている)結果として国内自動車小売市場も横這いとなっている。
【下取・買取・廃車の重要性】
小売を増やすには、ストックである保有状況からフローに繋げるべく、一旦ストックを流動化する必要がある。即ち、ユーザーの手元から車を引き上げる必要があるわけで、これが下取・買取・廃車といった手段となる。
間接的ではあるが、ストックのフロー化には先ずストックを吸い上げるこれら手段が存在して初めて途中で詰まることなく、全体のパイプラインが流れる形となる。
【中古車在庫水準】
更にその先を見ると、下取った車両・買い取った車両・廃車になる車両は業者が有する流通在庫となるわけだが、ここでの詰まりも需要を抑制するファクターとなりうる。
一般的に新車ディーラーでの新車在庫は、受注販売という性格上、長くても約 20日程度であるが、中古車在庫は 40日と比較的長く、中古車専業店での中古車在庫は 60日、買取店における中古車在庫(オークションへの売却前の繋ぎ期間)は 14日と言われる。
【オートオークション市場も流通在庫である】
オートオークションでの中古車出品台数合計は 7 百万台にも達する勢いだが、事業者間で最適な車両のマッチングを求める市場(いちば)に出品されている台数も、広義の流通在庫である。特に、複数回出品される車両の存在がどの程度の影響を市場に与えているか、ということも考慮すべきであろう。
【中古車輸出と廃車】
比較的低年式の車両を中心に日本国内から外に出されることで中古の供給過多を解消する要因となっている中古車輸出台数は年間 80 万台程度と推定されるが、近いタイミングで 100 万台に達する勢いである。中古車輸出は、ストックの動きに大きな影響を与える要因になりつつある。
また、廃車についてもストックを減らす要因として要ウォッチである。
【保有台数(ストック)と販売台数(フロー)の関係式】
つまり、極めて単純化した式で表すと、ストックとフローの関係は以下の通りとなる。
今年度保有台数(ストック)
= 前年度保有台数(ストック)+今年度登録台数(フロー(新車・中古車))-下取り・買取台数 -廃車台数-その他(輸出、他)
また、流通在庫である事業者の在庫水準やオークション市場での出品・落札台数は、より間接的ではあるが、下取・買取台数や輸出台数、若しくはフロー内での新車・中古車の比率に大きな影響を与える。
即ち、現状の把握と今後の予測を少なくともロジカルに実施したうえで、実態と予測との間の差異を分析していくためには、上記全てのデータを把握することが必要になる。
【全体整合性確保が大切】
しかし、政策立案レベル若しくは個別企業の戦略立案レベルで今後こうした全体感を持ちながら経営判断を行おうと思ったときに問題になるのが、各種情報・統計の分散である。
自検協では、車齢のみならず、平均寿命(新規登録から登録抹消までの年数)や、初年度登録までの期間の統計などを有している。
また、自工会、自販連などは生産や販売、在庫といった数字を有しているし、輸出統計は通関統計という形で存在する。オークション市場の統計も(正確性には疑問がある場合もあるが)存在はしている。
しかし、それぞれはバラバラで管理されており、統一感を持った形での連動は見られていない。
どちらかといえば海外市場での好調により牽引されている感のある現在の自動車業界の成功を今後もより確実にする為にはマザー市場である国内市場の活発化が必須であるが、このためにも複数機関で保有する各種データの共有による車両の流れを正確に把握することが、更なる IT 化が進む社会では大切である。
<長谷川 博史>