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場所喰い自動車ビジネスの、都会 vs 田舎比較
JAA、葛西会場を拡張。1回あたりの出品台数を1.5倍の7000台以上に現在4階建ての立体駐車場を、7階まで建て増す考え。
<2006年 4月26日号掲載記事>
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自動車オークションの大手の一社である JAA が、同社の基幹会場のひとつである東京・葛西会場を拡張するとのことだ。現在 4 階建ての立体駐車場を 7 階まで建て増す考えとのことで、1 回あたりの出品台数を 1.5 倍の 7000台以上にすることを目指すという。
◆場所喰い自動車ビジネスとは
JAA は中古車オークション事業者だが、その中でも自動車現物を見た上で売買を成立させる「現車オークション」である。これは競りの開催日に、会場にある駐車場に大量のクルマが並び、競り参加者に見てもらう必要のある典型的な「場所喰いビジネス」である。
筆者としては中古車オークション以外にも、以下のような自動車関連ビジネス(流通領域)を「場所喰いビジネス」と分類したい。
●自動車小売業(新車、中古車):少なからず、車両を展示(在庫)のうえプライスボードを付ける必要が生じること、更にディーラーであれば整備工場を併設するところも多く、サービスベイもそれなりの数を揃える必要がある。
●自動車用品店:各種アクセサリーやタイヤ、ナビといった商品を店舗に置く必要が生じ、また在庫スペースも必要になる。最近ではスーパーオートバックスなど店舗の大型化の傾向もある。
●SS (ガソリンスタンド):油を貯蔵する場所は地下になるが、給油機、洗車機、待合スペースなどに加え、クルマそのものが滞留する場所が必要となる。
●レンタカー:一見貸し出している間はスペースが不要なようだが、実際にはレンタカー会社自らが車庫証明を取る必要があることから、スペースの確保が必要となる。
●駐車場ビジネス:クルマを物理的に駐車させることで、駐車料金を徴収するモデルであることから、有無を言わさずスペースが必要である。
●車検、整備、板金ビジネス:車検を通すためのライン、もしくは整備に必要なベイ、未整備車両、整備済み車両をプールするスペースなど、場所をそれなりに必要とする。
こうした事業は、場所を前提に何らかの付加価値を顧客に提供する代わりに、収益を獲得するというモデルになっていることから、コストの大きな部分を「賃料」が占めることになる。
◆場所をあまり喰わない自動車ビジネスとは
一方、場所をあまり使用しない自動車関連ビジネスはどのようなものであろうか ? 筆者は、以下のようなビジネスを「場所をあまり使用しない自動車ビジネス」と分類したい。
●自動車買取店:個人からクルマを買い取って自動車オークションに出品することを基本モデルとしているが(一部、買い取り車両の小売有り)、必要なスペースは買い取った車を 10日-2 週間程度置いておく為に必要な台数の駐車スペース+事務所のスペースくらいであり、必要最小限である。
●画像販売拠点:いわゆる、オークションなどで仕入れる予定のクルマを画像でユーザー向けに見せて、その発注を経てからオークションで指値をする事業者も存在する。この場合、発注車両がユーザーに届けられるまでの間、どうしても当該車両のオークションなどからの納入以降ユーザー向け納車までの時間は自社スペースに車両を駐車しておく必要は生じるものの、必要なスペースを最小化することが可能。
●割賦販売事業:自動車ローンを提供することによる金利及び手数料収入を獲得するビジネスであり、間接的には自動車小売事業者などが土地を構えながら収益を獲得する過程で、当該小売事業者向け及び最終ユーザー向け便益を提供しながら利益を獲得する事業である。
●自動車リース事業:一般的な貸与期間が長いことと、細かな点が異なる以外は根本的には自動車レンタカーと同一の事業ではあるが、事業者としては土地の獲得もしくは賃借は不要となる。
●損害保険事業:割賦販売事業と同様に、最終ユーザー向けに主たる事業を営むプレーヤーを経由して最終プレーヤー向けに便益を提供する事業者であり、特段自前の場所を必要としない。
ここに述べた事業は、全般的に、前に述べた「土地喰いビジネス」よりも収益性の高いビジネスを展開していて、土地の制約に縛られず 1 社当たり取り扱うことが可能な資産を集約することにより(特に後半 3 つの金融関係事業)規模の利益を獲っている事業者が多い。
◆都会と田舎の土地喰い自動車ビジネスの比較
一方、「都会」における「土地喰いビジネス」と「田舎」におけるそれを比較した場合、以下のようになると筆者は考える。
[物件]都会:そもそも土地・建物そのものの物件が不足している
[物件]田舎:物件は豊富
[土地値段]都会:高い
[土地値段]田舎:安い
[人口・顧客]都会:多い
[人口・顧客]田舎:少ない
つまり、都会で土地喰いビジネスを成功させるには、(コストの高い)店舗を前提に収益を獲得する必要が生じることから、当該企業の活動範囲(自社商品販売エリア)に存在する相対的多数の顧客に確実にアクセスすることによる(より多くの)売上獲得が重要であり、「スタートアップ企業の都会での挑戦」や新たな「都会での新店展開」などの場合、既存の「一定のブランドを確立した Established 企業」との戦いにおいては(コスト面から見ると)難しいということになるだろう。
◆JAAの場合
同じことを既存の一定のブランドを確立した Established 企業の側から見れば、もともと取得した土地や建物(賃借しているもので長期固定契約・賃料が相対的に安くなっている場合を含む)が安価である場合は別にして、当然「一定以上の顧客へのアクセスに伴う、一定以上の売上高確保」が重要である。
今回取り上げた JAA は、オークション事業者としては老舗であり、またその立地も葛西(その他にも会場はあるが)という「都会型 Established 企業」と言えるが、出品台数を増やそうにも、「駐車スペースの制約」が存在するが故に、競りの手数料収入が増えないという読みをしている、逆にスペースさえ確保できれば売上は伸びる、という読みをしているのであろう。
ただ、上記都会 vs 田舎比較の最初に取り上げた「物件のアベイラビリティ」の制約が存在することから、上に伸びる、つまりさらなる立体駐車場化を図っているが、地方で広大な土地を確保することとの比較で言えば、立体駐車場のコストは相対的に高いことが想像される。
この高いコストを前提にエリア内に多く存在する顧客(JAA の場合は自動車小売事業者や買取事業者、輸出事業者などと特定できるであろう)へ継続的にアクセスすることが肝要である。
果たして、立体駐車場化によるコスト増を上回る出品台数・成約、落札台数の増加(に伴う売上増)につなげることが出来るであろうか、という単純なポイントが要ウォッチとなる。
◆有利か不利か
さて、ここまで述べてきた内容を振り返って見ると、
(1)「土地をあまり喰わない事業を営む企業」と、(2)「もともと取得した土地や建物が安い Established 企業(賃借しているもので長期固定契約・賃料が相対的に安くなっている場合を含む)」の 2 つは有利だが、それぞれの逆である「土地喰い新興企業」は不利である、「特に都会では」という話として読めるのではないだろうか。自動車流通事業における一般論として、これは必ずしも否定は出来ないだろう。
しかし、(1)に分類される企業も、よくよく見てみると「土地を有する企業」向け事業であったり、土地を有する企業の拠点を活用することで、収益を獲得している事業であったりするケースが多く、そもそも土地喰い事業者の利潤が無くなってしまうと自らのビジネスが立脚する基盤を失ってしまうケースが多い。
また、(2)に分類される企業も、あたかも自社では利潤を獲得しているように見えるが、実はオーナーが契約に縛られず、時価ベースで賃貸可能な状態にあれば、事業収益が圧迫されるようなケースも多い(つまり、時価ベースで貸せれば、本当は土地建物のオーナーが儲かるはず、というケース)。
(1)、(2)ともに、自らのビジネスが立脚する基盤を無視して一時の利益を得ることは出来たとしても、それだけでは自ずと限界が到来するだろう。
◆利潤獲得行動の原則
結果、当たり前のことに帰結する。利潤を獲得するには、「余っているものを使って」、「足りないものを提供する」ことが重要、ということに。土地をあまり活用しないビジネスを行っている企業でも、Established な土地喰いビジネスを行っている企業であっても、これは共通である。
一般的に都会で土地は余っていないが、田舎ではまだ余裕がある。都会で「余っていない」土地を活用するからには、よほど「足りないもの」をしっかり厳選して、顧客に提供する必要がある。
「足りないもの」、つまり顧客のニーズさえ明確に出来て、そこから上がる期待収益を合理的に見積もることさえ出来れば、「相対的に余っていない、都会の土地」を活用することでも十二分に利潤を獲得することが出来る。ただそれだけのことである。
道理で都市周辺の地域(完全な田舎ではない)にある土地を活用する自動車流通事業者(小売、卸売ほか)が儲かっているケースが多いわけである。「余っている土地」を使って、「足りない自動車」を、人口の多いエリアで展開出来るのだから。
<長谷川 博史>