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経営資源を預かるからには、資産管理だけではなく資源の積極的活用を
◆米企業改革法・内部統制ルール緩和へ
◆販売会社の働き方の変革・トヨタは350万台市場を前提に
<2006年12月21日付日刊自動車新聞掲載記事>
<2006年12月22日付日系金融新聞掲載記事>
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資本主義経済における企業の存在理由・設立目的は「貨幣の獲得である」と言うのは簡単であり、間違いではない。
しかし、貨幣を獲得するためには「顧客に価値を感じてもらえる何らかのモノやサービス」を自らが生み出したり調達 ・ 供給することにより、充足させる必要がある。
この「世の中に存在しないもの・不足していて顧客に価値を感じてもらえるものを生み出したり充足させたい」ということ念頭に置いて、その手段として法人(企業)は設立されるわけだ *。
*個人では資金的にも人的資源という面でも限界がある為、法人という器を設けて、各種経営資源を調達しながら、これらを活かして顧客への価値提供活動を行っていく。
そして、その結果として貨幣を獲得していく。
貨幣獲得活動については、少し前になるが以下コラムに書いたことがあるので、興味のある方は参照されたい。
『 JH、経理部長に日産社員迎える。民営化を前に「民間の財…』
但し、こうした企業の設立目的に基づく価値提供活動・貨幣獲得活動には幾つかの阻害要因が存在する。
【自由な市場における貨幣の流れと価値創造の関係】
阻害要因の一つは不健全な取引であると考える。
例えば、商品とそれに付帯するサービスなど、顧客が価値・便益を感じる範囲内で売買契約が締結され、代金支払いが為されると、移転された価値を表象する貨幣が流通し、「より提供できる価値の高い」ところへと自然に流れる形となる。
自由な市場における、健全な取引、といったところだろうか。
しかし、例えば取引先に金品やその他便益を与えて取引成立させているようなケース、これは昨今「コンプライアンス(法令順守)という言葉で表され、コンプライアンス違反はやめよう、といった風潮となっているが、筆者はこれを単なる「法律違反」以前の話と考える。
所謂違法取引というものが法律で特定され禁止されているのは、貨幣の流れと価値創造との関係性で説明すれば *、「より多くの価値を提供するもの(自然人や法人)のところへ貨幣が集中し、この価値提供者が集めた貨幣を元に、更なる価値創造を進める」ことを阻害することになるからであると考える。
* 根本にはモラルや人間固有の価値観が存在するであろう
自分が提供するサービスや商品の価値が低下しているにも関わらず、価値提供に付帯する範囲を超えた所謂接待などを前提に貨幣を受け取る行為が蔓延ってしまうと、価値創造者に資源が集まらなくなり、結果、社会全体の最適化が実現できず、経済成長率も低迷するということになる。
【資産管理と資産運用】
企業の価値提供活動を阻害するもう一つの大きな要因は、社会からの預かり物である経営資源(上では貨幣のみについて述べていたが、ここではヒト、モノ、カネの全て)の活用よりも、管理・保全のみを実施することをよしとする風土である。
確かに預かった資産をしっかり管理・保全することは大切な行為である。
しかし管理することは、目的ではなく手段である。
上記繰り返し述べている通り、本来の目的は預かった経営資源を最適に活用し、世のため人のためになること(より具体的には顧客に価値を感じてもらうこと)を創造・提供することにある。
【より多くの資産を預かると、資産管理が中心となる】
人の集まりをベースにした組織が形成される理由は分業を実現することにあるわけだが、この分業が進むと、日々の従業員の活動の多くが顧客への価値提供ではなく、リスクの計算や作文(カネの管理)、人(ヒト)の管理や 商品やIT 機器などの管理(モノの管理)などにシフトしていく。
こうした作業は、継続すると実行しているだけで仕事をしている気持ちになる。確かに仕える事はしているだろうが、営業部や企画部、マーケティング部といった部署が、こうした資産管理作業や経営陣への報告レポート作成、予算作成、各種書類作成などに終始してしまうような実態はどこの大きな会社にもあるだろう(勿論、審査部や資産管理部といったそれ専用の部署がこうした仕事に従事することは大切なことである)。
これを別名「大企業病」と言う。
【内部統制ブーム】
また、昨今の内部統制・インターナルコントロールブームを見ていると、大企業の経営者が価値創造活動に従事する時間は益々限定的になっていることを憂う。
筆者が取締役を兼任する、大企業と資本的関係にある A 社にもこのブームはやってきた。
非常に限定的な資本金で、ビジネスモデルは単純極まりないこの会社に対して 300 を超えるアンケート項目を提示され、回答を作成するだけで、2 名の従業員が 2 週間に渡って工数を投入することになった。
筆者は米国の公認会計士資格を有しており、企業の内部統制に関連するチェックや、統制リスク把握の重要性について異議を唱えるものでは決して無いが、重要性の観点並びに効率性の観点から見て、この内部統制ブームそのものがいつまで続くのか、否、続きうるのかには興味がある。
例えば米国の事例を見ると、今月 19日に「不必要な監査を排除し、煩雑な作業を軽減し、企業が強いられる過剰対応を軽減する」ことを目的に内部統制ルールが緩和された。
記事によると、内部統制ルールは「米国の国際競争力をそいだ」とのことだ。
また、SEC(米証券取引委員会)は中小企業の内部統制ルール適用を当初予定より 5 ヶ月~ 1年 5 ヶ月延期する方針を発表した。中小企業向けの適用延期を決めるのは実に 4度目とのことだ。
所謂ベンチャー企業が形式的な書類作成に終始していては、価値創造活動に着手することは出来ないということだろう。
【働き方の変革】
更に、12月 21日付日刊自動車新聞では、トヨタが販売会社の経営体質強化を実施する一環として、来年度からスタートする販売部門の 3 ヵ年目標である GNT 計画パート II において、「報告書の作成など営業活動とは直接関係無い業務が増加し、肝心の顧客との接点が減っている点などに着目し、効率的で顧客志向の高い業務の進め方を求めていく」とのことだ。
顧客に対する価値提供諸活動や、それを実現させために調達する各種経営資源の管理と保全活動、その運用状況を説明する活動、説明する手段として用いられる財務諸表を正しく作成するための環境整備であり活動(インターナルコントロール)などなど、企業経営者・従業員が会社を経営するに際しては様々な活動が存在する。
これら全てが重要であることは間違い無いが、どれか一番重要なものを選ぶとすれば、それは顧客に対する価値提供活動であろう。これ以外の活動は価値提供を支える活動である。
世の中に存在する資源は有限であり、この資源を自社で預かっているということは、他社・他人は活用できないわけである。
調達する資源は、何らかの目的のために調達しているわけで、この目的を実現する最適な形で活用 (運用)しないと、社会に対して申し訳ないし、結果としての貨幣獲得も出来ない。
資産管理者をマネージャー、資産運用者・活用者のことをリーダーと呼びたいが、世の通説である「リーダーが不足している」というのは、積極的な「価値提供者・資産運用者」が少ないことの表れであろう。
その意味で、米国の内部統制ルールの見直しとトヨタの販売部門 3 ヵ年目標は、顧客向け価値創造という本来の原点へと回帰させ「企業競争力」をアップさせる重要な施策であるといえるだろう。
<長谷川 博史>