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メーカーの国内販売担当へ・国内事業の採算向上にはレッカー事業
◆全国規模の「全日本レッカー事業協同組合連合会(仮)」設立へ
東京レッカー事業協同組合の下沢昭安・専務理事(下沢自動車代表)を中心として、各都道府県のレッカー事業協同組合が大規模な全国組織の連合会設立に向け、取り組みを進めている。現在すでに約200社以上が加盟、「今年中の設立を目指す」、「全国一律の質とサービスを展開していく」、「正式に設立すれば、JHR(全日本高速道路レッカー事業協同組合)の規模をはるかにしのぐ団体となる。今後、JHRも交えレッカー事業としての団体の一本化を進め、共存共栄で話を進めていく」としている。
<2008年2月14日号掲載記事>
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レッカー事業は、事故や故障、乃至は駐車違反の際などに自走不能な車をユーザーの代わりに移動させることにより、移動距離や内容に応じて課金をする事業である。
また、所謂ロードサービス事業者と言われる会社は、固定的な会費を保険会社やカード会社など(を通じて、最終的には顧客から)事前に徴収し、ネットワーク化した整備工場などが保有するレッカー車の出動を管理しながら、一部スポットベースの従量課金を掛け合わせている。
今回取り上げた記事は、東京を中心としたレッカー事業者が全国規模での組織化を進めていくという内容である。
こうした動きは、新車販売が伸び悩む国内ディーラーの立場から見るとどのような意味があるだろうか。
【ディーラー粗利の最大構成要素は整備事業】
今や当たり前のことになりつつあるが、新車ディーラーにとっての最大の収益源は最早新車販売ではない。サービス部品、即ち整備関連の売上総利益のほうが新車の売上総利益よりも多くなっている。
また、毎年新車の粗利は減少を続けている(ご案内の通りの市場環境であり、販売台数が落ち込んでいることが主因)のに対して、サービス部品の粗利は保有台数の伸びに合わせて微増しているため、今後この傾向が逆転する気配は無い。
【最大単価獲得可能で、粗利率が最も高いのが事故整備】
ディーラーでは 1 拠点平均で月間約 9 百万円の固定費がかかっており、これを 5.5 百万円のサービス・部品粗利でまかなっている。月間平均の入庫台数は 400台程度であることから、1台当りの粗利は約 1.4 万円となっている。
上記平均入庫台数の 400台のうち、所謂事故整備での入庫は極めて少なく 18台程度である(全体の 4 %程度)。 一方、事故の場合は修理するための単価は 18 万円と高いレベルとなるため(サービスの平均単価は 4 万円 /台なので、これの 4.5 倍の単価となる)、サービス部品売上に占める事故関連の売上の割合は実に 22 %と高水準となっている。
つまり、事故や故障は発生予測が不可能なものの、発生したタイミングで確実に自社ネットワーク内に取り込むことができれば、貴重な収益源を内部留保することが可能となる。
よって、今後自動車ディーラーの基礎収益をテクノロジー面から支えるひとつの施策としては、電子的に故障や事故を認識し、テレマティクスなどを用いることでこれをコールセンターなどへ接続のうえ、自社ネットワーク内の最適なサービス工場に誘導するといった仕組みがある。
しかし、国土交通省自動車交通局がまとめた平成 18年度自動車分解整備行実態調査報告書によれば、事故整備は全国入庫台数ベースで、8.5 百万台発生しているものの、自動車ディーラーが囲い込めている台数は 3.6 百万台と 42 %しかない。金額ベースで見るとディーラーの囲い込み度は 50 %を超えることからまだ「まし」ではあるが、それでも半分は一般の整備工場に流出している。
この流出を抑制する為に考えられるのがレッカー・ロードサービス事業者との提携である。
【ロードサービス事業者の展開】
ロードサービスを提供する事業者を大きく分けると、以下の 3 つに分類される。
1)JAF
市場最大のプレーヤー。ロードサービス関連売上高、600 億円強。
2)損保系
あいおい系の安心ダイヤルやミレア系のミレア・モンディアル、三井住友系のインターパートナーなど。売上高合計は単純合算で 120 億円程度。
3)独立系
プレステージ・インターナショナルや日本ロードサービス、レスキューネットワークなど。売上高は 合計で100 億円強。
傾向としては、JAF の個人会員数やロードサービス実施件数が右肩下がりであるのに対して、損保系や独立系が売上高を伸ばしている。
各社では自社で車輌を資産として抱えながら事業を行っていたり、車のロードサービスに付帯するサービスも提供しているといった差別化を図っているものの、行っている事業の中身は事故・故障へ対応する車輌の手配と決済の管理などとほぼ共通である。
ロードサービス事業者では自動車保険やクレジットカード会社、石油の元売、レンタカー、オートリース会社などに営業をかけて、それぞれの事業者のカード加入者や会員、乃至はリース先など向けのロードサービス業務受託拡販につなげている。
【損保の取組】
東京海上日動では、5月スタートの新商品にロードサービスを組み込む予定とのことだ。例えば事故が発生した場合、1 事故 10 万円を保険金として支払うといった形である。
ユーザーから見れば、保険料の中にロードサービスが含まれる形となる。
グループ会社のミレア・モンディアル㈱の 06/12 期売上高は 30 億円程度であるが、親会社の保険商品に組み込まれることで、これまで親会社経由一部得てきていたはずの固定収益がどういった配分になるか、という問題はあるかと思うものの、より包括的に保険加入者をカバーする形になることから、出動の依頼件数は増加するかもしれない。
保険金対応することにより損保本体での採算悪化は伴うかもしれない為、長期的な採算は見てみないと分からないとはいえ、事故・故障発生率など次第ではあるものの、エリアやブランドによっては自動車ディーラー(メーカー)から見ても一定の脅威と解釈できるだろう。
【JAFの現状と今後】
一方、自動車メーカーやディーラーを中心としたプレーヤーをバックに有すJAF だが、損益及び法人体力的には余裕がある。経常増減額(一般企業の経常利益のほぼ相当)は 17 億円、正味財産(企業の場合の純資産に相当)は 500億円。ただ、前述の通り平成 12年度に 13.2 百万人居た個人会員は平成 19年度には 12.1 百万人と 1.1 百万人も減少(その他分類である、家族会員という名の会員と法人会員数は増加しているが)、ロードサービス実施件数も同平成12年度は 3.14 百万件であったものが、平成 19年度は 2.96 百万件と減少している。
これは、クレジットカード取得時や保険加入時に自動的にロードサービスが付帯されていることを認知しつつある個人ユーザーが増えていることが原因であると思われるが、長い歴史により培われた経験と、自らが 30 億円弱の車輌運搬具を有しながらサービスを提供する当該法人には依然競争力があるはずだ。
特に一定年齢以上においては「何かあったら JAF に連絡」というのは身に染み付いたものになっているはずだ。
【今後の戦い】
こうして考えてみると、
1)ロードサービス会社
複数のカード会社や自らがネットワークを有さない保険会社、オートリース会社などとの提携により、整備工場との繋ぎを確保・拡大することで事故・故障整備の囲い込みを模索。
2)保険会社
保険商品にロードサービスを織り込むことにより、自らの提携する整備工場への入庫を促進。
3)自動車メーカー(ディーラー)
ディーラー店頭での顧客との接点、並びに車そのものに搭載する通信機器を用いて、自分のネットワークへの入庫を促進。但し、JAF は加入者数・ロードサービス実施件数共に少し元気が無い。
4)レッカー事業者
1) 乃至は 2) の傘下に一部入りながらも、自らが連合体を形成することでサービスの均一化を図る。
といった動きにより、保有に伴う整備需要(特に事故・故障車輌)の取り込みを各プレーヤーが行おうとしていることがわかる。
自動車メーカーとしてはインセンティブをはじめ、様々な形で自らの流通チャネルを維持するべくコストを払っている。
「売れる商品を出す」という行動が一番大切ではあるものの、流通領域を支える仕組みの面でも出来ることはあるのではないだろうか?
現在の JAF には色々な考え方があるものの、例えばロードサービス事業のみをスピンオフさせて、複数メーカーが出資者となる形の株式会社へと転換するなどの施策も、機動的に収益を確保するためには効果的かもしれない。
また、全ての整備需要を自社ネットワークのディーラー併設サービス工場で処理するにはキャパの問題があるし、JAF で全ての事故・故障関連の入庫をカバーすることも難しい。
その意味では、既存の整備工場やロードサービス会社・レッカー事業者の団体との提携というのも視野に入れる必要もあるだろう。
繰り返しになるが、ディーラーにとっての粗利の最大の構成要素は最早新車ではなくサービス粗利である。
如何にこのサービス粗利を更に伸ばしていくかは、自動車メーカーにとって大きな課題であるし、収益の確保が困難な国内市場おけるひとつの切り口である。
<長谷川 博史>