有形の資産情報のデジタル化・電子的流通によるイノベーションの可能性

◆動産担保融資の資産実在性確認に携帯電話を活用・三菱電機がシステム開発

既に岡崎信用金庫が試験的に導入・自動車部品メーカーなど4社向けに5億円の ABL。GPS による位置情報と気象衛星による写真を組み合わせる。

<2008年2月29日号日経産業新聞掲載記事>
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【融資とは】

簡単におさらいしたいと思うが、融資とはお金を貸すということである。

「金は天下の回りもの」という言葉があるが、融資という観点で考えると、例えば銀行の場合は、個人や法人からの預金という形で金を調達し、これを企業などに対して提供(融資)する。

銀行は個人や法人に対して金利を支払いながら、これを上回る金利を融資先の企業などから受け取る。

一方、融資を受けた企業などは、この資金を元に事業活動を行い、ここから得られる利益の一部を金利として銀行に対して支払う*。

* (更に、企業は利益の一部を雇用している個人に給与という形で支払い、これの一部が銀行預金などに充てられる、という基本的な流れにより、「金は天下の回りもの」となる)

1.個人・法人 → 2.銀行 → 3.法人など
(預入れ) (融資)
金利  金利

1.では、銀行の信用状態などを元に個人や法人は相手を選ぶ。特に昨今はペイオフなどの議論もあり、銀行の選別などを行う個人は多い。

一方、2.で銀行は融資先の法人などの経営状態や業務内容、信用情報などを元に審査を行い、融資として資金を提供する。

【不動産担保融資とは】

銀行などの金融機関が法人などに融資を実行する際には、(審査の結果次第ではあるものの)、通常は「担保」という概念が入ってくる。これは返済原資である融資先法人のキャッシュフローが期待した水準に達せず、万が一融資額の回収が出来ない場合に備えた二次的な返済財源である。

特に日本の場合、担保権の設定は物的担保という面では「不動産」を対象とすることを基本としている。

(因みに人的担保という観点では「個人保証」が一般的である)。

【動産担保融資とは】

一方、不動産ではなく動産を担保とした融資を動産担保有、いわゆるアセットベーストレンディング(ABL) という。

これは、一般的な借入れにおける不動産担保融資とは異なる。

ABL では、融資する際の審査を、借り手の経営状況等に基づくキャッシュフローの予測ではなく、売掛金や在庫などのアセット(資産)の価値に基づいて判断する。

つまり ABL では、担保の価値が優先的な返済財源となるという観点では、担保の価値に基づく貸付であり、融資の回収条件が例えば売掛金の回収を待って返済といった形になっているケースも多い。

よって、将来的返済財源であるキャッシュフローを予測することが困難であり、且つ担保として差し出す不動産を有していない中小企業やベンチャー企業、不動産担保融資の枠を最大限に活用しているにも関わらず運転資金が必要な企業などに適していると言える。

【三菱電機によるソリューション】

動産が不動産よりも担保物件として難しい最大の理由は、何と言っても言葉通り「不動ではない」ということであろう。

「不動」産=動かすことが出来ないのであれば、担保物件の所在は明確であるが、「動」産=動かすことが出来るわけで、担保物件の実在性及び使用状況を把握することは困難である。

今回取り上げる新聞報道によると、三菱電機では、携帯電話を活用する形で担保として供した資産の実在性と場所の特定を行うという。

具体的には、カメラ付き携帯電話で撮影→これにより、携帯電話内蔵の GPSで撮影場所を認識のうえ、気象衛星から同じ場所の写真を入手。資産の現物写真、GPS での場所情報、気象衛星から撮影した写真による時間情報の特定という 3 つを組み合わせて、データサーバ経由で金融機関に送信する。

【自動車部品メーカーにとっての在庫】

こうした方法を用いて、既に一部の自動車部品メーカーでは資金調達を実施しているとのことだ。

自動車部品会社にとっての動産(流動資産)である売掛金や在庫は、最終的な納入先企業が日本を代表する企業である自動車メーカーであることが多い。即ち、過剰在庫相当額以外は最終的にはメーカーから対価としての現金が支払われると合理的には予想される。しかし、部品会社と自動車会社の間や、部品会社の中のレイヤーの異なる企業間の決済条件は、通常納品後数ヶ月後の支払というケースが多い。

よって、今回取り上げたようなシステムにより実在性を把握することが出来れば、ABL との親和性は高いといえる。

但し、所謂 Tier-1 サプライヤと言われるような直接自動車メーカーへの納入を行う企業の場合は、それなりの財務体力を有している場合も多い為、需要としては Tier-2 サプライヤを対象として、例えば最終納入先自動車メーカー別に部品を選別したうえで ABL を適用するといったことは十二分に考えられるだろう。

【自動車販売会社にとっての在庫】

一方、自動車メーカーから新車を仕入れて主に個人に販売する「販売会社(以下、ディーラーという)」の場合、少しケースは異なる。

先ず、納入先が複数個人ということで最終的に圧倒的な購買力を有する自動車メーカーに納入する部品メーカーとは異なる。また、決済条件についても基本的には自動車を登録するタイミングでは代金を回収しているケースが殆どである(一部、自社割賦を実施している企業も依然存在する)ことから、売掛金としてはニーズは多くないだろう。

また、在庫という観点で言えば個人向け販売台数は予測し難いことから、需要の変動次第で在庫化するリスクが高い。

一部、メーカー系ファイナンス会社などで車検証を担保に融資を提供しているケースや、メーカーからディーラーに販売された車輌の売掛債権をファイナンス会社が譲り受ける代わりにローンを提供するといったプログラムは存在するものの、動産の中でも一番モビリティの高い、自走可能な資産である車輌は担保設定して現物を確認・確保する手段が難しい。

【自動車登録情報とナンバー認識カメラ】

読者のなかでは、
①複合施設やデパート・スーパーなどの駐車場に車を停めて
②ショッピングを終えた後に
③店内で駐車料金の精算をして
④車に乗り込み駐車場出口に差し掛かったら、自動的にバーが上がる
という現象に「どうやったら車と精算した事実とが紐付くのだろう?」と疑
問を持たれたことがある方もいるだろう。

ご存知な方には当たり前の話であるが、これは車が駐車場に入るタイミングで自動的にナンバープレートをカメラで撮影・これをデータ化したうえで駐車券に当該データを持たせて発券。

その後、この券で精算すると「券と紐ついているナンバーが精算済みである」というデータが出庫ゲートに飛び、車が出庫ゲートのバーに近づいたタイミングでカメラが再度車のナンバーを撮影し、データ化、このデータと精算済みデータが照合された場合は自動的にバーが開く、という仕組みである。

筆者はこの仕組みと本日の記事内容、更には 4月から導入される自動車検査登録情報協会による登録情報の電子的提供制度を組み合わせれば、車輌在庫についても よりスムーズにABL の対象となり得るのではないか?と考える。

【車輌在庫での活用アイデア】

例えば自動車ディーラー店頭における新車・中古車在庫の情報であれば、三菱電機のシステムを活用して携帯電話で車輌を撮影することにより、GPS による位置情報と気象衛星写真による時間情報を把握。更に、ナンバーを撮影し、これを駐車場にて導入されているシステムを活用する形でテキストデータ化→自検協を通じた車検証データの取得につなげることにより、車種や年式、所有者・使用者情報や車検日の把握に繋げることが可能となる。

更に、当該車輌の外装・内装までも撮影できたとすれば自動的に査定情報にまで繋げることで、市中での流通価格(具体的にはオートオークションでの予想相場を基準とした、買取乃至は小売価格)の算出し、担保設定可能な極限額をも把握することも可能となる。
また、オートオークション会場では 1 週間に 1度の開催日に数千台の車が集まるが、ここで同様のシステムを導入出来れば、オークション運営事業者にとっての運転資本相当額(落札者からの入金まで 1 週間程度立替が発生し、これを一般的にはオークション借勘定という)に対する融資も可能になるだろう

【終わりに】

今回取り上げた動産担保融資を可能とする携帯電話を活用したシステムは、有形の資産の情報をデジタル化し、電子的に流通させることで、当該資産の状態などをリアルタイムで把握出来るようにしている。

こうした「モノ」を特定する情報をデジタル化すると、モノに対する金融テクノロジーをより適用しやすくなる。

例えば、過去の筆著コラムで取り上げた「オークション市場で先物は有り得るか?」でも同様の可能性を取り上げている。

https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/4060.html

時節柄特に、金融テクノロジーの行き着いた先が「サブプライム問題」、といった認識も多いかもしれないが、事業者が必要な資金を提供して世の中の流れをスムーズにする手段としての金融が発達することに異論を挟むことは難しい。

日本が誇る自動車産業であるが、流通領域においては中々世界への発信が出来ているとは言い難い。こうした新しいビジネスモデルの開発・日本での実績を通じて海外へとイノベーションを発信していくことも、自動車先進国「日本」の役割ではないだろうか。

<長谷川 博史>