自動車 vs.家電(ヤマダ電機) 小売・付加価値(粗利率)から見る流通再編

◆ヤマダ電機、一部店舗やインターネットで新車を値引き販売

新型フィットではディーラーの値引きが3万円引きのところ、ヤマダ電機の値引きは10万円強、1万5000円相当分のヤマダポイントも貰えるという。

フルモデルチェン直後の新型クラウンではディーラーの値引きは「ゼロ」粘っても5万円ほどだが、ヤマダは一発で14万円強の値引き。ポイント5万円分も付くという。
<2008年6月5日号掲載記事>
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【記事の概要】

ヤマダ電機が自動車販売を開始したことについて業界では一定の注目を集めているが、筆者としてこれを現場で確認したものではないものの、凡そ以下のようなものと推測する。
・ヤマダ電機の一部の店舗(大阪のなんば店にあることはヤマダ電機の HP から確認が出来る)に、見積申し込みサイトが開かれている PC と説明員がいる
・同様のサイトにはインターネットから直接訪問することも可能
・現車の展示は無い
・見積取得後成約に至った場合は、ユーザーに近い場所のディーラーから納車がされる

また、ヤマダ電機での新車販売に関する日経トレンディの記事 * では、以下の 3 点が説明されている。

1)ヤマダ電機ではディーラーに比べて新車値引きが大きい
特に新型車で顕著に安い
2)仕入ルートは開示されていない
推測として、業販市場とディーラーの代理店という 2 つの示唆あり
3)サービスはどこのディーラーでも受けられる

http://trendy.nikkei.co.jp/special/index.aspx?i=20080526t2000t2

更にヤマダ電機の HP を見てみると、以下のことが分かる。

・取扱車種は国内全メーカーのもの
・輸入車は一部取扱できないメーカーあり
・輸出はしていない
・買取は関西地区限定

【ヤマダ電機の自動車小売モデル】

ヤマダ電機での自動車小売はまだテスト段階とのことではあるが、有するアセットと自動車流通構造から想像するに、以下 4 つの要因から本格化した際には「薄利多売」を目論んでいくものと思われる。

1)仕入価格
仕入ルートとして示唆されている業販市場乃至はサブディーラー契約の何れにしても、合理的に考えると仕入価格はディーラーよりも高くならざるを得ない。
仮にディーラーの仕入価格を下回るケースがあるとすれば、
・メーカーからディーラーに対して個車ベースで巨額のインセンティブが付与される場合
・台数達成ベースでのインセンティブが付与される場合の最後の 1台といった場合
が可能性としては有り得るが、年式の新しいモデルであるほど値引きが大きいというは、以下の何れにも該当しないはずである。
ディーラーが通常仕入れる車販売価格が安いということは、粗利額・率を削っているということである。

2)販売形態
ディーラーの場合であっても新車販売については実質顧客からの注文が届き次第メーカーへ発注するケースが多いことから(特に国産)、無在庫販売という点ではほぼ同じである。
但し、ディーラーは代表的モデルの車両を展示しているが、ヤマダ電機の場合はこれを行っていない。また、今後実施する場合でも、未使用車として登録済みのものを展示する形に基本的にはなるはずである。

3)アフターサービス
メーカー保証期間内は、どこから買った商品であっても結果的にはユーザー近隣のディーラーで受け付けてくれるはず。ヤマダ電機も現時点ではサービスの利益を取り込むことを考えてはいないだろう。

4)固定費に対する手当て
既存事業である家電小売の収益にて、人件費・賃料といった固定費をカバーする。

ここでポイントになるのが、仕入ルートの確保である(後述の通り、現在のマクロ環境が続く限りは問題とはならないかもしれないが)。

具体的には、メーカーが無視できないレベルまでの販売台数に持っていくことが出来るか否かで、仕入ルートの継続確保可否は決まってくるだろう。

【自動車小売業 vs.家電小売業(ヤマダ電機)の付加価値比較】

一方、良く言われる話で自動車と家電では、前者が依然として地場密着型の販売網を維持しているのに対して、後者では嘗ての町の電器屋さんネットワークが昨今はヤマダ電機をはじめとする大型複合店に主役の座を奪われつつある。

こうした構造の差を比較するために、以下の通り小売レベルに蓄積される粗利の率が両者の間でどの程度異なるかを検証した。使用したデータは自販連の自動車ディーラー経営状況調査報告書の平成 19年 3月期の全ディーラー平均の値 * とヤマダ電機の平成 20年 3月期の決算短信である。

1)付加価値(粗利率)

以下の通り、自動車小売業の売上総利益率はヤマダ電機の売上総利益に 3 ポイント程度負けている。

売上総利益率
・自動車小売業 19%
・ヤマダ電機    22%

因みに、ヤマダ電機の売上のうち、非家電比率は 10 %。AV ソフト・書籍が8 %なので、売上総利益率はほぼ家電のそれを表していると考えて間違いない。

2)商品のみの付加価値(粗利率)

上記比較の売上総利益率を前提に、新車 (乃至は家電商品)のみの粗利を抽出のうえ、メーカーからのインセンティブを粗利に加える補正を以下の通り行った。

・自動車小売業の売上高及び売上総利益からサービスや中古のもの等を控除し、純粋に新車の売上総利益率のみを抽出
・自動車小売業の営業外収益にインセンティブが計上されていることから、これを売上高及び売上総利益に加算
・ヤマダ電機の営業外収益にも「仕入割引」という勘定で凡そインセンティブと思われる勘定があるため、これも同様に売上高と売上総利益に加算

これら補正を行うと、新車ディーラーの新車に関する粗利率はヤマダ電機の家電粗利率の実に半分以下となっている。

新車売上総利益率比(含、インセンティブ)
・自動車小売業 11%
・ヤマダ電機    23%

そもそも単価が高い自動車と、家電とを粗利率で単純比較をすることの妥当性を考える必要はあるものの、粗利率を純粋に「仕入れた商品にどれだけ付加価値を販売先に付与することが出来ているか」の指標として考えた場合、自動車小売業としては悔しい結果として捉えるべきであろう。

3)インセンティブが売上原価に占める割合

これは、上記 2) と関連はしているものの、そもそもメーカーからの仕入価格(に近しい値になっているはずの商品に関する売上原価)に対するメーカーからのインセンティブの額の比率である。

自動車小売業 6.6%
家電小売業(ヤマダ電機) 0.9%

*ヤマダ電機の平成 20年 3月期決算短信の仕入割引のみを反映

先ず念頭において置かないといけないのは、この計算ではインセンティブとして特定されているもののみが算入されていることであり、実際にはこれ以外に値引きなどで補填されている金額もありえるということである。

よって単純比較は困難ではあるものの、自動車メーカーの側から見た一つの示唆としては、電機メーカーが流通ネットワーク全体に対して支払っている販売支援金の額(率)が販売額と比して圧倒的に少なくて済んでいる可能性が高いということである。理由は複数にわたると思われるものの、自社流通網が大規模店化することで販売力が向上したことに伴い、顧客向け付加価値提供が増加した結果であるとも推測出来る。

【サービス・部品の粗利】

上記は新車乃至は新品の家電にインセンティブを加えた商品本体の比較であったが、自動車の場合は商品に人間が乗って高速で移動するという家電とは異なる事情があることから、故障へのより綿密且つ迅速な対応が必要となる。これによって、自動車ディーラーではサービス(修理)という家電小売とは異なる付加価値が存在する。

そして、この付加価値を再び粗利率で計ると、商品本体と比較して以下の通り非常に高い水準にあることが分かる。

新車粗利率 11%(再掲)
サービス部品粗利率 38%

更に、自動車ディーラーの 1 社当り新車粗利とサービス粗利を比較すると、07年 3月期を境に、今やサービス粗利が新車粗利を逆転していることが分かる。

(単位:千円)
新車粗利* サービス粗利
05.3月期 748,788  > 686,289
06.3月期 755,634  > 732,036
07.3月期 740,675  < 744,386

* 新車粗利にインセンティブをも加算したにも関わらず、サービス粗利が新車粗利を抜いている。

このことから抽出可能な意味合いは以下の 2 点である。

1.今や、自動車ディーラーのコア事業は(数字の上では)新車販売ではなくアフターサービスとなっている
2.ヤマダ電機と異なりサービスの粗利という副次的な収益(今や主力であるが)が存在するにも関わらず、メーカーによる金銭面での支援は自動車のほうが多いということである。

【国内流通チャネル最適化の必要性】

自動車メーカーでは、過去数年に渡って自社流通網の大幅な見直しに着手しているが、拠点単位の統廃合はまだ進んでいない(著者過去コラム参照まで)。

https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/4126.html

即ち、ディーラー各社の現場では、販売台数が伸びない中、高い水準のコストを回収するため必死にもがいており、数多くの未使用車が海外へと流出しているのも、このもがきの中の一つと言える。

今後の国内販売環境が好転せず、流通網の最適化が実現されない限り、自動車ディーラーの現場では、それがどこであっても、売れるところに車を流すはずであり、個別ケース次第ではあるだろうが、マクロ的にはヤマダ電機に限らず、もし売る力がある事業者がいれば、ディーラーからの仕入は可能になっていくはずだ。

更には販売後に発生する修理などのサービスについても、工場を抱えて今や当該事業をコアとして掲げるディーラーがオーバーストア化している状況を考えると、新興大規模小売店との分業(販売とアフターサービスの間の分業)も可能と考えられる。

こうした状況下、自動車メーカーとして採るべき国内販売施策として、既存の流通網である自社ブランドを掲げるディーラーを根幹に据える方針に変更は無くとも、これのみに固執し続けるべきではないだろう。

日本を代表する二大産業の片方であるエレクトロニクス産業ではヤマダ電機を初めとする量販店の登場がこれを変えた経緯があり、そのヤマダ電機が今度はもう片方の産業である自動車で同様のことをトライする。

自動車メーカーでは、こうした動きに対して健全な危機意識を持ちながらも、消費者にとって最適な形が果たして何れなのかを第一優先順位として掲げて、本コラムで一部試算したような流通チェーン全体で発生するコストを弾いたうえで、新たなパラダイムへ挑戦することも選択肢として残してみてはどうだろうか。

<長谷川 博史>