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実体経済の担い手代表格である自動車産業がこれから行うべき「経営」
◆米NY原油先物相場、16日は急落。前日比4.69ドル安の69.85ドル/バレルに
70ドル割れは昨年8月下旬以来。昨年6月27日以来、約1年4カ月ぶりの安値に
<2008年10月16日号掲載記事>
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金融危機に端を発し、世界中の資本はこれまで以上に急激なスピードであらゆる商品間を移動し、価格・相場の乱高下を生じさせている。
【原油価格は3ヶ月半で半分に】
世界的な金融危機に伴う金融機関・ヘッジファンドなどの手元流動性確保や、実体経済・景気悪化による原油需要減退観測により、原油先物相場はつい 3 ヵ月半前比で約 50% も一気に下落した(しかし、OPEC が 10月 24日に開催する緊急総会で大幅な減産も検討されているとのことでありこの傾向がどこまで続くかは分からない)。また、新日本製鉄と JFE の 09.3.期減益幅は、原燃料価格の下落や鉄スクラップ価格の急落などの影響により縮小する見込みとのことで、川上からの原材料価格減の影響が自動車産業に到達するには一定の時間が掛かるとは思われるが嵐の中の数少ないプラスの材料となっている。
【円は、同期間に対ドルで約10%上昇】
また、円についても世界経済における日本の相対的なサブプライムダメージの少なさなどにより、同じ 3 ヵ月半前と比べて対ドルで 10% 程度上昇(現在、1 ドル 101 円周辺)。今後、各国政府のドル防衛コミットメントがどこまで継続可能か次第ではあるが、ドルの更なる発行を裏付ける米国債を購入する外国政府及び金融機関はどこかで限界を迎えるはずであり、方向性としては円高・ドル安であると思われることから、邦貨換算では海外仕入れで日本加工の原材料費削減が見込める。
【実態経済・自動車販売は、米国が30%弱減少】
一方、米国自動車販売市場は 9月の単月で 26% の下落を記録し、調査機関によっては 10月の米国自動車販売は年率換算で 1,200 万台を下回る可能性があるとの指摘まである。原因は、住宅ローン問題や株価問題が米国個人消費者のバランスシート及びキャッシュフローを直撃したことによる直接的な需要への悪影響に、金融機関の貸し渋りや自動車メーカー系金融会社のバランスシート劣化に起因する「車の購入にクレジットが付かない」ことが加わった二重の要素がある。
【現時点での金融危機が自動車産業に与える影響を総括すると】
つまり、日本自動車産業にとって見れば、
1) 原材料価格低下の可能性は出てきたし、自動車利用に伴うコストが原油価格急落により下がるかもしれないが、
2) (特にドル箱の米国で)数量が売れないし、
3) (トランスプラントを各社進めているとはいえ)ドル建て(などの外貨ベースの)価格を上げられないことによる、為替による邦貨での収入減となりつつある。
【経営資源の再配分を効率化する金融から、実体経済を左右する金融へ】
貨幣は、物々交換における欲望の二重の一致を必須としない形で、異なるモノの売買を市場にて成立させることから発展してきた。つまり、より多くの貨幣を獲得しようと思えば、より付加価値の高い、より多くのヒトが欲するモノを生産することが重要である。
(以下、筆者過去コラムを参考まで)
こうした価値創造のプロセスでは(貨幣が介在する資本主義経済を前提とすれば)会社やヒトは生産のために機械や設備を製作、購入、建設し、従業員を雇い、原材料を調達し、資金調達に伴う利子の支払いや従業員に支払う賃料、原材料支払いコストを社会に対して支払い、創り出した財やサービスを商品として市場で売る。この差が所謂「付加価値」になり、これらのシグマが GDP となる。
この GDP 成長率を前提に貨幣供給量を増加させ、その後もお金の供給量を調節しながら経済拡大に繋げるという所謂マネタリズムと金融システムの規制緩和が世界的な金余りを生み出したわけだが、実際に付加価値を生み出す活動には先ず資金が必要になる(売上を上げて利潤を獲得する前に、先ずは仕入れや設備投資が発生する)という観点から考えると、より付加価値を見出せる領域に最適な経営資源を再配分する仕組みとしての金融は一定以上の役割を果たしている。
しかし、特に米国の過剰な消費を、定期的に発生バブルにより支え、結果として必要なドル通貨の発行を無尽蔵に行う現在の行き過ぎたマネタリズムに加えて、所謂「ファンド」という形で、より多くの余剰資金を同じ器に集めて、この種銭を元に投資対象先の数年分のキャッシュインフロー分のレバレッジを効かせる手法により、巨大化した資本が凄まじいスピードで動く時代となったことにより、本来の実体経済における付加価値の総和を金融が左右するのが現代である。
原油がわずか 3 ヵ月半で半値になるのもこうしたことが根本には背景として存在する。
【実体経済の担い手が行うべきこと】
残念ながら、所謂実体経済活動の結果として獲得する利潤のみでは所謂金融を業とする事業体が信用を元に集める資金の量と運用スピードに太刀打ちすることは出来ない。
勿論、時代時代でより多くの利潤を継続して獲得している企業や組織への信用がその後の金融プラットフォームになり得ることは歴史が証明しているし、現在の金融危機がどのタイミングでどのような帰着となるかは予断を許さないものの、(長期的には)これからも金融が社会において担う役割は大きくなることこそあれ収縮することは許されない。よって、仮にエクイティとして累積利潤を活用しながら、最適なレバレッジを引っ張りながら経営資源の最適配分を求めた投融資活動を行うという企業戦略を事業会社として有しても良い(例えば、GE などはこうした手法を B2B 領域において活用しているとも言えるだろう)。
しかし、この大前提として「安定的な利潤を継続してあげる」ということが大切である。経営資源を獲得するために必要なカネの動きがこれだけボラタイルな環境下で安定した利潤を上げるのは並大抵の企業努力では達成し得ない困難な課題であるが、大切なのはやはり継続的なイノベーションの実現であると考える。
一般的にイノベーションを実現した企業は当該技術やサービスを通じて差別化が維持出来ている間は莫大な利益を獲得するというイメージがあるが、超流動的な金融市場(繰り返しになるが、当面はクレジットクランチ・貸し渋りが継続するのは間違いないが、長期的にはこの傾向は継続すると思われる)が常に最適な経営資源の再配分先を急激なスピードで模索する社会においては、スピードと高い成長率の双方を上手く既存事業に混ぜることで初めて経営資源を自社に留保させながら安定的な利潤の獲得が出来るのではないだろうか?その意味では、経済危機の影に資源の有限性や環境問題といった実態が隠れがちだが、今後はこうしたヒトを取り巻く現実の課題を克服するイノベーションへの取り組みが益々重要になってくるはずであり、嵐の中でアクションを継続出来る、地道ではあるが王道の経営であろう。
<長谷川 博史>