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250 億ドルは、消費者のアップサイドダウン(債務)解消乃至は保証に回せ
◆オバマ次期米大統領、米ビッグスリーは経営建て直しの具体策を示すべきだ
「公的資金を受け取る前に方針を決めて出直すよう求めた議会は正しかった」
「変化を拒んでいる自動車業界に、納税者が追加資金を投入することは期待できない。3社が議会の公聴会で、より入念に検討した案を提示しなかった事に私は驚いた。3社は、要求している事柄について、金額の規模をある程度明確に示す必要があると思う」
ビッグスリーは来週、250億ドルの緊急融資をめぐり、議会であらためて支援を求める予定。ワシントンに多くの支援者が詰め掛ける可能性も。
<2008年11月25日号掲載記事>
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世界中の自動車メーカーで減産と人員整理の嵐が吹き荒れ、各国政府の支援策が毎日のように発表されているが、米国では 250 億ドルの緊急融資を巡り、議会とビッグスリーとのやり取りは予断を許さない状況となっている。
本日取り上げたコラムヘッドラインにある通り、雇用を重視するオバマ次期大統領であっても、「プライベートジェットで乗り付けたうえ、高額報酬を見直すつもりは無い」というイメージをもたれつつある 3 社 CEO と議会のやり取りに対するコメントとしてはシビアのものを出さざるを得なかったようである。
筆者は米国の納税者では無いが、個人的には日本での納税は人並みに行っており、この税金が形を変えて一部日本政府による米国債の買い支えの原資になっている筈であるという繋がりから、また企業人としては日本(及び世界)の自動車産業を応援する立場の人間として、250 億ドルは飽くまでも米国における経済活動を行う企業全般を対象に当該企業が生み出す雇用を維持する為に使われる形をとるべきであると考える。
【米国民の雇用を守ることが目的ならば・・・】
例えば、11月 30日付の日経新聞によれば米金融安定化策の一環として米連邦準備理事会(FRB)が創設したコマーシャルペーパー(CP)買い取り制度の利用を三井物産が米国企業である子会社を通じて申請し、一部既に買取を受けたとのことだ。
同様に日本の子会社とはいえ米国法人格を有しながら米国で雇用を生み出している日本メーカーについても当該 250 億ドルの一部を享受出来る形とすべきであると考える。
自工会が 2008年 11月 20日にリリースしたパンフレット「Japanese Automobile Manufacturers: Driving A New Generation of American Mobility」によれば、自工会会員及びディーラーによる雇用の創造は以下の通りとのことである(出典:自工会ホームページ)。
http://release.jama.or.jp/sys/news/detail.pl?item_id=1352
<2007年の雇用と投資、生産状況>
・全米で424,883人の雇用を創出
-製造工場、R&D施設での雇用者数・・・ 65,656人
-ディーラーでの雇用者数・・・ 337,468人
-ディストリビューターでの雇用者数・・・ 21,759人
・自動車製造に関わる総投資額は約326億ドル
・自工会会員メーカーの米国新車販売台数のうち63%が現地生産車
ビッグ 3 の一部が崩壊することによる影響として計算されている 250 万人には達しないものの、雇用保全を目的にするのであれば、同じ米国法人格を有する日本のトランスプラントへの支援は重要性及び妥当性という観点から、適切ではないだろうか。
【住宅ローンを有する個人とオートローン・リース債務を抱える個人の比較】
さて、今回の危機の発端となった米国における住宅価格の下落だが、住宅ローンの借り手であった個人はどうなったか。
米国では人に貸すのではなく住宅に貸すノン・リコースローンが殆どであることから、借りた人は住宅を手放すだけで、ローン残の支払いから解放 * されている。
* 結果、ローンは返済不能となり、貸し手の手元には住宅が残る。また、貸し手はこうした住宅債権を証券化してリスクの高い債権と低いものを混ぜ合わせて世界中の金融市場で機関投資家他に売却したことから、そのリスクの所在と金融機関毎の評価が難しいことに起因して、金融機関同士のクレジットクランチと、貸し渋りが起こっている
一方、自動車ローン及びリースの借り手である個人はどうなっているか?
自動車ローンの場合は、個人が車を買い替えようとして下取に持ち込む車の時価がローン残債を下回るという現象が生じている。日本でも生じている現象ではあるが、米国の場合はこの頻度が下取り車 4台のうち 1台(25 %)となっており、更に台当たりの残債 – 時価の掛け目が実に 4,305 ドルにもなっている(08年 5月 5日付 Automotive News, Edmunds.com 調べ)。
即ち、オートローンを借りた人は車を手放そうにも第三者から追加で 4,305ドルの調達を強いられ、債務からは解放されない、ということになる。
次にオートリースの場合は、例えば 3~ 4年のリース期間を設定する際に金融会社(大手であれば、自社子会社や関係会社で自動車金融専門の会社を所有しているケースが多い)がリース期間満了時の想定残存価格を設定のうえ、車両元本から当該残価を差し引いた残りの金額を消費者に支払ってもらう形をとっている。
つまり、オートリースの仕組みを利用して車を購入した個人は住宅同様に車を手放すだけでローン残の支払いから解放*される。
* リース債権の貸し手である金融機関やこれが小口化された証券を取得した金融機関は大きな損失を蒙ることになる。リース資産の残高が積みあがっている自動車関連各社(含、日本の自動車メーカー)は当該設定残価を時価が下回る金額を引き当てていく必要があり、これが巨額になる可能性はある。
【信用収縮が問題なら、消費者向け債権を直接解消させるべき】
上記の残債 – 時価の掛け目である台当たり 4,305 ドル(4台のうち 1台の頻度)をベースに現在はこれが台当たり 5,000 ドル * まで拡大したと仮定して、以下前提条件を元に簡易計算をすると、オートローン債務者(消費者)が抱える車両時価を上回る過剰累積債務は 267 億ドル、オートリースの関連で金融機関が抱える含み損は 36 億ドルと試算され、合計では 300 億ドルを越える自動車金融ストックでの債務超過が生じているということになる。
・ローン債務の残債-時価掛け目
267億ドル
・リースにおける同様の掛け目
36億ドル
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・合計 303億ドル
<試算前提条件>
07年
・販売台数(万台) 1,618
・台当り単価 28,296
・売上(百万ドル) 457,831
・ファイナンス比率 70%**
・ローン比率 52%
・リース比率 18%
・ローン期間(ヶ月) 61
・リース期間(ヶ月) 48
(億ドル)
・自動車金融資産残高 7,699
内、ローン残高 6,051
内、リース残高 1,648
(万台)
・自動車保有台数残*** 2,721
内、ローン残高 2,138
内、リース残高 582
* オートローンの平均期間は 2007年発表の NADA (全米ディーラー協会)試算で 61 ヶ月となっているのに対して、オートリースでは 36~ 48 ヶ月となっている。よって、時価と残価の掛け目は少ない可能性がある反面、自動車メーカーが積極的な販促の手段として高い想定残価を設定しているという要因も考えられる。とはいえ、オートリースを提供する金融会社のローン残債 – 時価はここでは一義的に、ローンの場合の実績の半額である台当たり 2,500 ドルで計算した。
**全販売台数のうち、70%が自動車ファイナンスを用いた購入という意味
***金融資産の保有台数換算
総額 303 億ドルが車両の残価と時価とのギャップを埋めるためには必要なわけだが、この金額をオートローンを抱えながらもどうしても車の買い替えが必要な消費者及びリース再建を抱える金融子会社(を通じて、結果的に次に購入される消費者へのファイナンス供与)に補助金という形で直接与えたほうが、実行可能な再建プランを持たない回収可能性が極めて不透明な債務超過企業に融資するよりも公正且つ効果的ではないか。個社の短期的な生き残りという観点では微妙だが、現在想定されている 250 億ドルから先ずはスタート出来るし、金融会社が有するオートリース債権については不良資産買取スキームに乗せる形でも良いだろう(買取価格算定が難しいという、そもそもの論点は残るものの)。
【振り返って、日本ではどうするべきか】
米ビッグ 3 が経営破たんとなれば現地での調達部品の確保が難しくなることが想定されることから、各社は既に重要サプライヤーに破綻が与える影響試算と、必要に迫られた場合の経営支援策の立案を行っているものと思われる。
こうした支援にどの程度の資金が必要となるか不明だが、個人的には前回コラムにも書かせて戴いた通り*、米国で活動を行う諸企業の競争条件をパリティにする支援であれば良いが、もしこの競争環境を崩す内容を米国政府が選択した場合、日本政府としても必要な支援を検討すべきであると考える。
*前回コラム⇒「オバマ次期大統領著書 2冊、合計 958 ページから読み取れるもの」
総需要(売上高)が 短期間に 30 %減少する可能性を秘めていることを鑑みると、来年度に利益を計上出来る自動車メーカーは少ないかもしれない。
更に、国内需要については低空飛行が更なる下落が予測されている状況で考えれば、(11月は前年同月比で販売が 30 %減少するとの見通しもあるようだ)税制改革や以前筆者がコラムに書いたような「買ったら直ぐに使用出来るようなユーザビリティの向上」といった地道な取り組みも重要である。
とはいえ、先週のワンクリックアンケートで日本政府による自動車産業への支援への是非を問いかけたところ、賛否の意見は真っ二つに割れている。詳細は本メールの「業界ニュース温故知新」の後を参照願いたい。
<長谷川 博史>