自動車業界とXX業界 第5回『自動車業界と石油業界』 

【はじめに】

第 5 回目となったこのコラムだが、趣旨を説明すると、自動車業界と他業界とを比較し、業界間の関連性や業界特性等に関する類似点・相違点を把握。最終的には他業界との比較から見えてくる自動車業界への示唆を導き出そうとするものである。

第 5 回の今回は石油業界との比較である。ここでは

探鉱、開発(上流)→精製、元売(中流)→卸売、小売(下流)

という石油のバリューチェーンの中でも特に中流から下流に焦点を当てて、自動車業界との比較をしてみたい。

石油業界のバリューチェーンを概観すると、上流を担うのは、エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェル、BP 等の世界の時価総額ランキングに名を連ねる、スーパーメジャーと言われる企業が中心であり、世界規模で油田、ガス田の開発を行っている。

また、中流は元売り企業が該当し、日本国内では、新日本石油、出光興産等の民族系企業と昭和シェル石油等のメジャー系企業から構成される。これらの元売り企業は上流の企業から仕入れた原油を精製し、ガソリン、灯油、軽油、重油、潤滑油等の石油製品を作り出している。

そして、下流には元売り企業の特約店、販売店と言われる企業が存在し、SS(サービスステーション)を営み、元売り企業から納入される上記石油製品を消費者に対し提供している。

【業界間の関連性】

現在、基本的に全ての自動車ユーザーがカーライフの中でガソリン、もしくは軽油の補給のために SS に立ち寄る。

これは、ほとんどの自動車がガソリン、軽油をその燃料としているからであるが、この背景にはこれら燃料を内部で燃焼させ、動力に変えるガソリンエンジン、ディーゼルエンジンが 100年以上も動力機関の主役であったという事実が存在する。

そのため、これまで自動車業界と石油業界は非常に関係の深いものであり、石油業界は自動車ユーザーをターゲットにし、自動車メーカーとしても燃費性能に優れた自動車の開発に注力してきたわけだが、今後、自動車の燃料、そして動力機関には大きな変化が起こってくることが予想されている。

より環境に優しい自動車の代表として挙げられる燃料電池自動車において、その燃料は水素となり、実用化された場合、自動車ユーザーは SS の代わりに水素ステーションに立ち寄ることになる。

水素社会の実現にはまだ時間がかかると思われるが、それ以外にもガソリンや軽油に代わる燃料として注目を集めているものがある。

まずはバイオ燃料であり、植物等からメタノール等を生成し、内燃機関の燃料として使用する方法である。また、原油に代わり CNG (圧縮天然ガス)、LNG (液化天然ガス)などの天然ガスを燃料として使用する方法も検討されている。

このように燃料、動力機関の行方次第ではこれまで密な関係であった自動車業界と石油業界の関係にも変化が生じてくるものと思われる。

【業界特性の類似点・相違点】

ここでは業界特性の類似点として、中流~下流の業界構造の類似性ということを取り上げてみたい。

まず石油業界は川中~川下の業界構造の変遷という点で自動車業界と類似した点が多い。

高度成長期において自動車保有台数も右肩上がりで成長する中で、石油元売り各社はシェア拡大のための、販路確保として特約店(卸売)→販売店(小売)といういわば、系列の流通チャネルを作り上げた。

販売店は 1 企業 1SS というような主に中小企業が中心であり、特約店は自身でも SS を運営するほか、石油元売りの経営リスク分散や販売店への経営指導といった機能を担ってきた。

しかし、このような系列化された流通チャネルは、市場の成熟化や規制緩和による新しい参入者やディスカウンターの登場により、高コストシステムとしての側面が相対的に高まってきた。

1994年のピークには 60,000 箇所存在した SS も 2004年末には 45,000 箇所程度に減少し、店舗である SS 数の減少に比例して、販売店、特約店といった事業者数も減少している。その一方では、1 社で多くの SS を保有する事業者も出現し始めた。

また、元売り企業の側でも、上記の流通チャネルの淘汰・再編を主導したのに加え、過剰となってしまっていた精製設備の整理を進め、業界再編も進行した。現在は大きく新日本石油・コスモ石油グループ、ジャパンエナジー・昭和シェルグループ、エクソンモービルグループ、出光興産グループの 4 グループに集約されている。

一方、収益構造面に関しては、価格決定権は元売り企業が握り仕切り価格をコントロールしているため、流通チャネルでのマージンは低く抑えられがちであり、SS は本業であるガソリン、軽油の販売では十分な利益を確保できなくなってきている。そのため、現在では給油に付帯する事業への取り組み、いわゆる油外取引を強化しようという動きが強まっている。

油外取引には、自動車関連用品販売(タイヤ、バッテリー、カーアクセサリー等)や、サービス業務(タイヤ交換、自動車整備、車検、洗車、など)が挙げられる。

既に SS の売上の半分はガソリン以外の製品・サービスで占められており、粗利益に至っては、ガソリンの占める割合は約 3 割に止まっており、ガソリン以外の占める割合は 7 割にも達している。

ちなみにヨーロッパなどでは SS は更に油外取引の幅を広げ、自動車関連用品だけでなく食品、日用品等コンビニエンスストアとしての機能を備えている。

ところで、元売り企業→特約店、販売店という関係の歴史的変遷や収益構造の構図は、自動車メーカーとディーラーのそれとは似ていないだろうか。

自動車ディーラーも自動車市場の成熟化に伴って、増加から淘汰・再編の時代を経てきたし、収益構造の面でも本業の新車販売だけではなく、部品、サービス、中古車といった新たな収益源の模索を行っている。

このような類似性は、単に偶然ではなく、双方ともにターゲットとしている消費者が自動車ユーザーである、ということと大いに関連がある。

【自動車業界への示唆】

上記の類似点から自動車業界への示唆として挙げられることは、ターゲットとしている層が同じであるにも関わらず、これまで石油業界と効果的な協力体制が構築できているだろうか、という点である。

前述した SS の油外取引に関しても、単純に競合出現として捉えている新車ディーラーも少なくないと思われる。

新車ディーラーの基本的な戦略として自動車ユーザーの新車代替の機会をつかむため、サービス入庫を促進し、定期的に店舗を訪問してもらうことを非常に重視している。

ガソリンの補給という行動は自動車ユーザーであれば必ず定期的に行うものであるということに着目してみると、例えば、石油業界と協力関係を築き、ディーラー店舗と SSを併設するなどして、その自動車ユーザーの行動パターンを自社の戦略の中に上手く取り込めないだろうか。

もちろん、双方の求める立地には相違点がある、石油業界側でもメリットがなければならない、といった留意点はあるものの、全く可能性がないとも言い切れず、このあたり読者の方のご意見もいただけたら幸いである。

<山田 将生>