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今更聞けない財務用語シリーズ(24)『デット・エクイティ・スワップ』
日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第 24 回の今回は、デット・エクイティ・スワップについてです。
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「デット・エクイティ・スワップ」(Debt Equity Swap、以下、DES)とは、借入などの債務を株式化することである。通常、ある企業が経営再建を必要とする場合に金融機関などの債権者が融資の一部を現物出資する形で株式を取得する手法で行われる。 DES とはその言葉の通り、企業側から見て借入などの債務と資本(普通株式・優先株式)を交換するかのような手法をとるものである。
では、なぜ DES を行うのだろうか。
通常企業は事業収益が得られなくなる場合には借り入れを行い、新規事業を行ったり、既存事業への投資を行うことで局面を打開することを考えるはずである。
ところが、それらの投資がうまくいかなかった場合には、借入が残り、企業の財務基盤を著しく圧迫することになる。この時に再度再建策を考えようとしても、融資の返済が重たくなり過ぎていて将来の事業計画が描けない場合がある。
金融機関に融資を放棄してもらうことが企業にとってはベストではあるが、金融機関も簡単には放棄をするはずが無い。よって、返済するべき融資額と同額の株式を発行することで、スケジュール通りに返済を行なわなければいけない融資を株式という将来的に売却する形でリターンが得られる株式と交換することで短期的なキャッシュアウトが防げるようになる。
よって DES は短期的なキャッシュアウトを防ぐ意味で再建時に行われることが多いのだ。
従来は DES は十分に利用されてこなかった。これは金融機関が事業会社の発行済株式の 5 %超を保有することは、銀行法及び独占禁止法上、原則的に禁止されていたからである。
しかし、平成 11年 10月以降、銀行または銀行持株会社が債務者の経営再建を図るために債権者の株式を取得する場合、かつ、合理的な再建計画に基づくものである場合には、金融庁長官の承認を条件に上記 5 %ルールの例外とされ、独占禁止法の規則についても公正取引委員会の運用が変更された。
企業にとっての最大の債権者である金融機関が DES を行えるようになったことで経営再建時に DES が使用されるケースが飛躍的に増加したのだ。
自動車業界においても再建の際に DES が使用されているケースがある。例えばいすゞ自動車や日産ディーゼル、三菱自動車が経営再建をする際の資本政策の中に DES を織り込んでいる。
日産ディーゼルは、2003年に主力金融機関に 900 億円の融資を優先株式に転換し、資本増強を行っている。いすゞ自動車は 2004年に 1,000 億円の融資を優先株式に転換している。三菱自動車も東京三菱銀行と三菱信託銀行の 2 行からの融資 1,300 億円を優先株式に転換している。
上記 3 つの例ではいずれも資本政策の中に増資と DES、減資などを組み合わせて行っている。増資で新たな価値を創出する資金を提供する一方、キャッシュアウトとしての融資の返済や金利の支払いを抑えるということを経営再建の資本政策として行っていることが多い。
一方、DES は株主と株式の双方を増やす結果となる。株主を増やし、株式を増加させることで管理コスト・資本コストが上昇し、将来配当負担が増加するなど、短期的な資金負担を抑えることができるものの、長期的には資金負担が増加する可能性が高い。
よって企業が再建時に調達した資金によって収益をあげる体質を作り上げた時点で減資を行うことが多くなる。筆者の前回のコラムで紹介しているいすゞ自動車の例などは、その典型例と言えよう。減資によって株主・株式数の双方を減らすことでその管理コストや資本コストを低減し、より筋肉質な収益構造にしていこうとしているのだ。
しかし、ただ減資をすれば良いというわけではない。金融機関というステークホルダーを満足させる必要があるからだ。 DES を行う金融機関は債権者から株主になっていることで、リスクを増加させている。なぜなら仮に事業がうまくいかず清算する際には債権者より株主は回収順位で劣後してしまうからだ。よって金融機関としても通常の融資と比較し、ハイリターンとなることを望んでおり、その要件を満たす必要もある。
DES は長期的な視点(経営理念からその理念が生み出すキャッシュフローまで)を綿密に計画することが重要である。企業としての方向性を決定し、金融機関へのリターンが出るような株価になるように、経営を行う上でマイルストーンを設定しながら経営上の課題を着実に解決していくことが重要である。
<篠崎 暁>