今更聞けない財務用語シリーズ(25)『インサイダー取引』

日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第 25 回の今回は、インサイダー取引についてです。

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自動車ニュース&コラム8月19日号に「ダイムラークライスラーの社長交代を巡り、インサイダー取引疑惑」という記事が掲載された。今回はこのインサイダー取引について日本のインサイダー取引をもとに解説していく。

今回のダイムラークライスラーの社長交代を巡るインサイダー取引疑惑は、以下のような事態となっている。 独主要紙によると、一部の株主が「事前にシュレンプ社長の退任を知っていた」と主張しており、フランクフルト証券取引所では、ダイムラー株が同日午前 9時の取引開始直後から急騰し、ダイムラーは午前 10時半すぎに社長交代を発表した。 発表当日に筆頭株主だったドイツ銀行が保有するダイムラー株の一部を売却。翌日以降はダイムラーの幹部が相次いでストックオプション(株式購入権)を行使して利益を得たことから、インサイダー取引の疑いが発生したものである。

日本ではインサイダー取引についての規制は証券取引法で規定されている。
証券取引法では、「誰が」、「何時」、何をすればインサイダー取引に該当するかを以下のように規定している。

1.誰が
大きく分けて、会社関係者、元会社関係者、情報受領者が対象になる。
(1)会社関係者
職務を通じて重要事実を知った上場企業やその親子会社の役職員、契約締結や監督官庁がその職務権限の行使によって重要事実を知った取引先や監督官庁の職員も含まれる。

(2)元会社関係者
会社を退職などによって会社関係者でなくなってから 1年以内の人を指す。

(3)情報受領者
会社関係者や元会社関係者から重要事実を知らされた者を指す。

2.何時
「重要事実」の発生後から「公表」前までが対象時期となる。
(1)重要事実とは
「投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす情報」を重要事実と定義している。例えば、増資や減資など資本の異動を伴うよう事態や、業務の過程で発生した損害や債務免除、上場企業の決算情報など該当する。

(2)公表とは
重要事実が 2 つ以上の報道機関に公開され、12時間経過した時点、上場先の証券取引所等に重要事実を通知し、当該証券取引所等のホームページに掲載された時点、重要事実の記載された有価証券報告書等の公衆縦覧された時点の 3 つの時点で公表されたと見なされる。

3.何を
重要事実を知りながら、特定有価証券等を売買する場合にインサイダーに該当するとしている。特定有価証券とは、株式や、新株予約証券などを指している。但し、ストックオプションの行使や従業員持株会などによる買い付けなどは適用除外になる。

4.罰則
インサイダー取引に違反した場合には 3年以下の懲役、3百万円以下の罰金が課される。仮に法人が違反した場合には 3 億円以下の罰金が課される。

今回のダイムラークライスラーのケースでは、会社関係者である一部の株主が、社長の交代という重要事実の公表前に、株式を市場で売却した疑いがある。つまりは、インサイダー取引の疑惑があるということになる。

筆者はここでダイムラークライスラーの疑惑の真偽について議論するつもりはない。しかし、自動車業界の雄である同社がこのような疑いを掛けられてしまうことが残念でならない。インサイダー取引は、株主平等の原則に反し、一部の株主が不当に利益を得る行為である。これを許しては企業が株主というステークホルダーに対して平等に利益を分配するという社会的な使命が果たせなくなってしまう。せっかく良い車を開発して販売していても、社会的な機能が果たさなければ良い車を開発しているという企業としての価値が薄れてしまう為だ。

今回の件で一部株主が関与しているとされており、ダイムラークライスラーは企業としてのガバナンス機能を問われることは間違い無い。但し、インサイダー取引は個々の従業員も対象者になっていることを忘れてはならない。従業員が重要事実を知った時点でインサイダー取引を良く理解し、企業の信用を失墜させないよう行動することが求められている。従業員に周知徹底させることは難しいが、コンプライアンス違反が一回起きてしまってからでは遅い。ガバナンスの仕組みなどを構築し、違反が起きないような仕組み作りも経営には求められている。

<篠崎 暁>