自動車業界ライブラリ > コラム > 今更聞けない財務用語シリーズ(29)『会社分割』
今更聞けない財務用語シリーズ(29)『会社分割』
日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第29回の今回は、会社分割についてです。
—————————————————-
最近、分社化という言葉が新聞報道などで散見される。この分社化の際に用いられる「会社分割」について今回は解説していきたい。
会社分割とは、その会社の営業の一部または全部を他の会社(既存でも新設でもよい)に包括的に承継させることである。会社分割には大きく分けて新しい会社を新設し、その新設会社に営業を承継させる「新設分割」と既存の会社に営業を承継させる「吸収分割」の 2 つがある。また、株式の割り当て手法にもを株主に割り当てる「人的分割」と会社に割り当てる「物的分割」の 2 種類があり、この組み合わせで会社分割を行うことになる。
最近では、ある営業の一部門を新設の子会社に承継させ、その会社ごとリストラの一環で売却したり、グループ内での経営効率化の観点からある営業機能を子会社に集中させようと親会社から営業部門を分社化するなどの場合に会社分割が用いられる。
従来は営業譲渡や現物出資という手法によってのみ分社化が行われてきたが、会社分割は従来の手法より手続きを簡素化し、より迅速に企業のリストラや事業再編に役立てようというものであった。
営業譲渡は、資金によって営業権(営業活動に必要な資産や負債、人員など)を売買する形で行われる。営業譲渡では資金を用意したり、債権者を保護する手続きに時間を取られる為に、時間と資金が必要なことがスピードが必要な事業再編に用いることに問題があった。
会社分割は、株式で営業権を買い取る形で行い、かつ債権者の保護手続きが不要な為、この資金と時間の問題を回避できるのである。また、税制面においても営業の移転に際して、一定の要件を満たせば課税の繰延が可能になるなど使い易さが増しているのである。
自動車業界でもこれまで数々の会社分割が行われている。トヨタ車体とアラコはアラコの持っていた車両事業をトヨタ車体に承継させる会社分割を行っている。車両事業の分割後にアラコはトヨタ紡織とタカニチと合併をしており、トヨタグループの事業の効率化の一環として行われた。
アラコが持っている車両事業は総資産 726 億円、負債総額 445 億円、売上高 1,898 億円、営業利益 37 億円の規模を持っており、従業員も含め、トヨタ車体に承継した。この資産に対してトヨタ車体はアラコの株主に交換比率 1:0.98 の比率で約 27 百万株(約 15 億円相当)を割り当てる「吸収分割・人的分割」方式で行われた。
このようにグループの関係会社での一つの事業を一つの企業に集中させ、特化させることで、ノウハウを一つの企業に集約し、事業を効率化することによって利益の最大化を図る再編を行う際に会社分割が用いられることが多い。
会社分割による機能の集約・経営の効率化は経営を企画をする立場からすれば、是非推進すべきものであり、全ての事業について機能別に美しい組織図を作ってみたくなるものである。
しかし、会社分割はその環境がそろって始めて機能を発揮するものである。会社分割をした会社のビジョンから従業員のモチベーションまでの一貫性を備えてから会社分割を行わなければ、せっかく機能を集約し、経営を効率化しようとしても成果が上がらない。「何をする」会社にするのだから従業員には「これを求める」、お客様にも「これを求めて下さい」という明確なメッセージを伝える必要があるのだ。
経営者からの明確なメッセージが無い会社分割はいくら組織図が美しくても「絵に描いた餅」にしかならない。 ビジョンが無い会社分割は分割後にその集約した機能が個別最適化するレベルを超えない。グループ全体の最適化を先ずは考え、その結果としての個別最適化手段として会社分割は実施されるべきであろう。
<篠崎 暁>