今更聞けない財務用語シリーズ(35)『社外取締役』

日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。

第35回の今回は、社外取締役についてです。

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4月は人事異動の季節であり、多くの人事異動の発表などが新聞の紙面などを賑やかにしている。4月 6日の自動車ニュース&コラムにおいてもソニーが社外取締役にトヨタの張副会長を招くこととしたという記事が掲載された。ソニーの社外取締役には、日産のカルロス・ゴーン氏も就任していたことがあった。今回のコラムでは、この社外取締役について考えていきたい。

まず、社外取締役を知る上で、取締役とはどのような存在かをおさらいする。取締役は、経営を行う上で重要な意思決定を行う取締役会の構成員であり、代表取締役の監督を行うことを目的としている。会社とは雇用関係ではなく、委任関係にあり、その会社の経営を委任されているのが取締役である。

次に「社外」の定義についてである。商法上、「社外」の定義として「過去において、その会社または子会社の業務を執行する取締役、執行役または支配人その他の使用人となったことがなく、かつ、現に子会社の業務を執行する取締役、執行役またはその会社もしくは子会社の支配人その他の使用人でない」とされている。

つまり、社外取締役とはその企業の経営を委任されたその企業との利害関係の無い立場にある個人ということになる。社外取締役には、会社の実務には関与しないが、取締役会を監督し、様々な視点からアドバイス等を行うことが求められており、弁護士などの有識者や上場企業の経営者が招聘されることが多い。

社外取締役は、最近出来た制度ではなく、従来から存在してきた。従来は名目的な位置付けや企業同士の関係などから社外取締役を選任してきたが、昨今は経営に対する監督機能を持たせるようになってきている。

この背景としてコーポレートガバナンスの強化という動きがある。従来は、代表取締役を中心とした業務執行機関に対する監督・監査機能を強化するため、監査役制度の改正が行われてきていた。しかし、代表取締役が実質的に取締役や監査役を選任しているケースが少なくなく、代表取締役に対する監督・監査機能に限界があったので、業務執行機関に対する監督機能を強化するために、社外取締役を選任する動きが加速してきたのである。
この動きと連動し、商法上の大会社(資本金 5 億円以上、負債 200 億円以上)の会社の内、経営の監視機能強化のために重要財産委員会や委員会を等設置している会社には、社外取締役の設置が義務づけるなど商法上の整備も行われてきた。

しかし、社外取締役の導入には、未だ課題もある。独立性の確保や十分なコミュニケーションの実現、役割を十分に果たせる人材の確保等などが課題と言われている。 委員会等設置会社に移行し、社外取締役を導入しているが、企業の事業展開を考える上で、社外取締役が所属する企業との利害関係が生じるケースも出てきているのが実態だ。

このような流れの中で様々な肩書きを持った社外取締役の導入が行われている。しかし、実際に取締役の監視の為だけに社外取締役を招聘しているのではないはずである。監視だけであれば、有識者などを招聘することを考えるだろう。前述のソニーは、カルロス・ゴーン氏を招聘した際には日産の V 字回復に学ぶことを考え、今回のトヨタの張副会長を招聘しようとしているのは、ものづくりに改善点があり、トヨタの生産方式等を学ぼうとしているのではないだろうか。つまり、経営陣に気付きの機会を与えることを社外取締役に期待していると考えられる。

このように、今後、現在の自動車業界の成功の過程に気付きの機会を求める自動車業界以外の企業によるニーズは高くなるはずである。この成功要因となっている日本のもの造りの経営学が異業種企業からも注目されていることは、三菱重工業や三菱 UFJ フィナンシャルグループがトヨタ出身者を社外取締役に選任していることでもわかる。

つまり人材の供給源という点でも自動車業界は大きな役割を果たすのではないか。これから商法も改正され、より法務の面においても経営者はフリーハンドを持つようになる。この中で、社外取締役も名目的な役割ではなく、より戦略的なニーズに基づいて選任されることが予想され、人材への需要は更に高まるはずである。

自動車業界の OB も 様々な分野で今後活躍することになるだろう。この中に異業種企業の社外取締役という分野が加わるのではないか。自動車業界も人材を輩出することで異業種との間でのノウハウの交流が生まれ、ノウハウを更に自動車業界流に咀嚼することが現場の知恵となるはずだ。この結果が更に自動車業界の企業の価値を高めていくことになるはずである。

<篠崎 暁>