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今更聞けない財務用語シリーズ(37)『株式分割』
日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第37回の今回は、株式分割についてです。
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株式分割とは、名前の通り、企業が発行する株式を分割することである。つまり、株式を 200 発行している会社の株を 1:2 で分割すると言った場合にその企業の発行済み株式総数は 400 とすることができる手法である。株式分割は、増資とは異なり、資本金を増やさずに株式を増やすことができるという点に特徴がある。従来は、資本金が増えない故に株式配当や無償交付、無償増資と呼ばれていたが、平成 3年の商法改正で「株式分割」に統一されたものである。
では、株式分割はどのような場合に活用されるのだろうか。
先述した通り、資本金を増やす(資金調達を行う)場合であれば増資を行えば良いのであり、資本金を増やさない(資金調達をしない)で株数を増やす必要がある事態とはどのような事態かを考える必要がある。株数を増やしたい場合とは、株主を増やしたいという意向が企業にあるはずである。
例えば、上場前のベンチャー企業が上場準備を行っている場合に株式分割を行う。なぜなら、東証マザーズなどは、上場時に公募または売り出しによって300 名以上の株主を作ることを上場基準としており、この基準をクリアする為には一定以上の株数が必要になるからである。株数を増やし、上場前に戦略的かつ上場後に安定株主になってくれる株主に株式を売却することで上場後の資本政策の土台を作るのである。
また、上場企業の場合は株数を増やすことで、価格と株式数をコントロールし、株式の流動性を高めることを目的としているケースが多い。
上場企業の場合、株価という要素が資本政策に大きな影響を与えるので、株価と発行済株式総数の相関関係を説明する。
例えば株価 2,000 円の企業が、1:2 で株式を分割する場合には株式数が倍になり、株価は理論的には、1,000 円になる。株価は理論的には、企業の株主資本価値を発行済株式総数で割った金額が株価となるからである。企業の株主資本価値を一定とすれば、発行済株式数が倍になれば、株価は半分になるのは自明である。
当然、2,000 円の場合と 1,000 円の場合であれば、1,000 円の株式投資の方が個人投資家としては投資がし易くなる。結果として売買が活発になり、流動性が高まることになる。
また、この時に 1 株あたりの配当金を下げなければ、実質増配とすることができ、流動性が高まった上に増配により株主が集まってくれば、売買時に買いの方が多くなり、株価が上昇することになる。
実際にホンダが 6月の株主総会で 1:2 の株式分割を決議することとしている。実際に株式分割と 4 半期配当を同時に発表したことが投資家に良い印象を与え、7,700円程度から一時期 8,500 円まで株価が上昇した。ホンダは、最近トヨタや日産と比較し、出来高が低いこともあり、流動性を高める必要性を感じていたのかもしれない。
現在のホンダの発行済株式総数は約 9.2 億株であり、これが今度の株主総会で約 18 億株になるのである。ホンダの時価総額は 6.8 兆円なので、時価総額が維持されるとすれば、一旦、理論的には、3,700 円程度の株価となるのではないだろうか。この株価は株式分割以降上昇するのかは、筆者には予測がつかない。但し、株式分割と四半期配当の組み合せが市場でどのように評価するか、については非常に興味がある。
今まで企業は、機関投資家向けの IR などを充実されてきたが、このように株式分割を進めることで、個人投資家を強く意識した IR が必要になってくるだろう。個人投資家は機関投資家より専門的な財務分析を重視するとは思えず、自動車のブランドイメージなどが株式投資の意思決定に影響するかもしれない。自動車メーカーで導入事例が少ないであろう株主優待制度などを導入し、株主に自社ブランドの自動車を買う際に割引できる制度や、指定したディーラーでの修理を割引する制度などによって目先の利益に訴えかけることも必要だろう。
そこで、ある自動車メーカーのファンである人が、優待制度を目当てに個人投資家になる→優待制度でディーラーのサービスなどを割引する→またそのディーラーで自動車を買うというサイクルができれば、個人投資家はデイトレーダーのような売買は行わず、長期保有をしてくれる個人投資家となるのではないか。このような投資家が増えれば、個人投資家を囲い込み、ディーラーにも安定的に顧客が訪れ、また、このようなサービスを望む人が増えれば、株価も上がり、個人投資家と企業とがWin-Winの関係を構築できるだろう。単なるファンだった人が投資も行うようになった時に個人投資家の意見をより吸上げた自動車の開発から売り方、アフターサービスまでを行う自動車メーカーが誕生するかもしれない。
<篠崎 暁>