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think drive (22) 『 日本の交通事情 』
新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。
【筆者紹介】
環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。
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第22回 『日本の交通事情』
今月は日本の交通事情について、レポートしよう。日本は自動車「生産」に関しては高品質で高い技術を誇るといえるだろうが、どうして、このように良いクルマが出来るのかが不思議なくらいに道路事情はよくない。ドイツ車が高性能なのはアウトバーンがあるからに他ならないが、最高速度も低く、あきれるくらい多くの信号や、慢性化した渋滞などが一般化している日本の道路事情からGT-Rのような高性能車が生まれる事自体が、ある意味不思議でもある。
さて、クルマの性能と生まれた環境の関連性については別の機会に考えるとして、日本の道路事情に話を戻そう。
まずは速度から。日本では法定速度が高速道路で100km/h, 一般道路が60km/hと決められている。つまり、いかなる事があろうとも 100km/hを超える速度での走行は許されていない。さらに、場所や状況によって法定速度を下回る速度制限が行われている。高速道路では80km/hも多く、一般道では、細かく50、40、30 km/h と設定されている。
ところでこれらの法定/制限速度が実際守られているかというと、ほぼ皆無といってもよい。数十km/h超える速度での流れが一般的で、個人的にその実状の流れが危険とも思えない。しかし、もちろん法律違反だ。警察の取り締まりももちろん行われていて、多くのドライバーは速度違反で検挙された経験をもつだろう。筆者もその一人だ。30~40km/hの超過で2~3万円の反則金で、持ち点も減点される。
速度違反を推奨しようという意図は毛頭ないが、現状を考慮するとあまりにも合理性に欠け、多くの人が納得していないと感じる。なによりも問題だと思うのは、あまりにも合理性にかける規制が多いと、合理的でかつ絶対守らなければならない規制に対しても、法遵守の精神にかけてしまう点である。特に感じるのが、市街地、住宅地などの30km/h規制などは厳守されるべきと感じるが、50km/hや60km/h程度で平気な顔をして運転しているドライバーも少なくない。
この違反が、高速道路での20~30km/h超過と同じ危険性とは到底思えない。
ようやくこの速度規制を見直そうという動きもみられることから、将来的には法定速度が変わる可能性はある。しかし、改訂が行われるとしても、多くの時間を要するので、しばらくは違反を覚悟で流れに乗って走らなければならないだろう。どのような結果がでるかわからないが、メリハリの効いた合理性のある規制を期待する。ドライバーが納得できる規制であれば、皆が守る事ができて、全体としての安全性がより向上することは間違いないからだ。
次に、駐車について。こちらもあまりにも理不尽な規制なのが現状だ。都市部のほとんど全てといってよい道路が駐車禁止だ。日本の道路はもともと全体設計されていないので、道路の意味/目的が明確でない。従って、現状では大量の交通を高速で移動させるべき機能となっている幹線道路であっても、両側には店舗などが並び、クルマの駐停車を要する作りとなっている。そして、そのような幹線道路の機能ではない道路も、すべて同一に駐停車禁止としているのが、日本の都市部だ。
クルマは多くの場合、移動を目的としていて、目的地では駐停車する必要がある。そこまでそろってモビリティーとして機能する。先に書いたように、日本ではそもそも道路設計に問題があるのだが、それにしても現状でも、もう少し効率的な運用方法があるのではないかと思わされる。幸い、最近は少しの空いたスペースを時間貸し駐車場として利用するビジネスが成立していることもあり、都心での駐車場不足は解消してきている。但し、都心では一時間 700円程度の駐車料金もあり、クルマを使う環境としては辛い状況だが。
このように、日本の交通事情は必ずしもほめられたものではない。東京は、世界中の大都市のなかで唯一とでもいうくらい、環状網が未整備の都市でもある。しかし、2012年、現在建設中、計画中の環状網がおおかた整備されるので、この頃には東京の道路交通事情も変わっている事だろう。
クルマは道路がなくては、ただの飾りにしかならない。そして道路は経済の血管ともいえるべき重要なインフラ。2012年の改善を期待したいものだ。
<長沼 要>