脇道ナビ (30)  『けもの道』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第30回 『けもの道』

近所のスーパーマーケットで買い物をした帰り道。両手に提げたシャラシャラ袋(我が家では、スーパーマーケットでくれる PP 製の袋をこう言う)が手のひらの食い込む。妻が、「だいじょうぶ?片方、持ちましょうか?」と聞く。しかし、そろそろデジタルカメラが欲しいと思っている私としては、ここで得点を稼いでおきたいので、「平気だよ」と答えたが、手のひらは赤くなっていた。そんなときに私たちの行く手を阻んだのが、車道と歩道の間にある植え込みだ。しばらく前までは、植え込みには枯れ木しかなく、向かいにあるビルにまっすぐ行くことができていたのだが、いつの間にか、緑が植え替えられほど大周りしなければならなくなってしまった。もっとも、大周りと言っても 10 メートルくらいなので、たいしたことはないが、両手に食い込んでいるシャラシャラ袋がうらめしかった。しかし、よくよく見ると、新しく植えられた植え込みに切れ目があった。どうやら、みんなが、無理やり通りぬけたために切れ目ができたようだ。そのために折れた木は痛々しく、そっと手を合わせて(あいにくシャラシャラ袋を持っていたので、心の中で)、私もその植え込みの切れ目を通りぬけた。

よく見ると、大勢の人がその植え込みの切れ目を通りぬけている。そう、いわば「けもの道」だ。だれしも、わざわざ、大回りをしたくないからだ。もちろん、横断禁止の大きな道路なら、渡れないように、植え込みやフェンスを設置して渡れなくするのは分からないでもない。しかし、我が家の近所にできた「けもの道」はそんな場所ではない。そんなみんなが通る道であることは、ほんの少し観察していれば分かることだ。にもかかわらず、道路の管理者はもともとの道路計画に忠実に植え込みに小さな木を植え直したのだった。

街中やビルの中を注意してみていると、「けもの道」がたくさんある。そこには、通り抜け禁止、使用禁止、注意などと看板が掲げられているところに多い。そんな看板があっても、けものたちが多ければ、道は出来てしまう。また、最悪の場合は、事故がおきることもある。そんな看板を作るのも良いが、当初の考えていた人の行動や流れなどが、現実と違っていることを疑い、軌道修正をすることも大切だろう。

<岸田 能和>