脇道ナビ (31)  『大切なことは・・・』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第31回 『大切なことは・・・』

我が家にはおそらく 30年以上は経っている年代物の扇風機がある。さすがに、重いし、さびが浮いていたり、羽根にひびが入っていたりして、くたびれている。しかし機能的には問題がないので、いまだに使っている。ただ、一つ困っていることがある。それは、扇風機の季節が終わり、しばらくお休みしてもらうときに、コンパクトにしまえないことだ。しかも、箱もなくなっているので、ビニール袋をかぶせて扇風機の姿のままで物入れの中に入れるしかなく始末が悪い。その点、数年前に買った扇風機は、台座部分まで分解でき、薄くてコンパクトな箱にしまうことができる。そのため、物入れの中に入れるときも助かっている。こうしたコンパクトな箱であれば、メーカーから販売店に輸送するときも、一度にたくさん運べるので、輸送コストも下がるし、環境負荷も減るので、スバラシイ。

ただ、気がかりなことがある。誰にでも、いつでも間違いなく、分解、組み立てができるかどうかである。メーカーの人たちに言わせれば、工具も要らないし、こんなにカンタンに組み立て、分解ができるのに、何を心配しているのかと言われそうだ。

しかし、以前に気がかりなニュースに出くわした。若い人たちが寄せ鍋を食べていたカセットコンロが爆発し、大けがをしたというものである。原因は鍋などをのせる「五徳」を裏返しに使っていて、過熱したとのことだ。多くのカセットコンロは箱にしまいやすくするために五徳を裏返しにできるが、それが仇になった。もちろん、この事故の詳細が分からないので、故意なのか、酔っぱらっていたのか、あるいは知らなかったのかなどは分からない。しかし、五徳を裏返しにしても、火を点けて、寄せ鍋ができたことだけは事実である。そう、五徳を裏返しにしなかった、たったそれだけのことで事故が起きた。

収納などの効率を大切にすることはスバラシイことであることは言うまでもない。しかし、なにより大切なことは使うときに、いつでも、誰でも間違えることなく組み立てることができ、できる限り安全に使えるようにすることのはずだ。それはカセットコンロだけではない。扇風機、温風ヒーター、調理器具など季節や必要に応じて分解してしまいこむモノたちすべてに言える話である。説明書をなくした、日本語の説明書が読めなかった、うっかりしていた、知らなかった、暗かった、注意していなかった・・・など、いろいろな人がいて、いろいろな状況があることをメーカーの人たちはもう一度、考え直してみるべきだろう。

<岸田 能和>