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脇道ナビ (67) 『白紙のファックス』
自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。
【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある
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第67回 『白紙のファックス』
ある日「ピー、ヒョロヒョロヒョロ…」と、自宅のファックス機が鳴き始めた。一昔前(?)のオフィスでは議事録、資料、地図など、そして家庭では PTAのイベント連絡、試験前には授業のノートなどがひんぱんにやり取りされていた。しかし、最近では電子メールの普及でファックスはすっかり影が薄くなってしまった。そのため、我が家でも久々に聞くファックスの動作音だった。ファックス機に近づいてみると、出てきたのは白紙だった。裏返しで送信され、白紙が送られた経験は一度や二度ではないので、「送信するときに原稿の裏表を間違えやすいのは機械の設計が悪いのだ。業界で統一するなどの工夫をすれば良いのに。」などと考えながら白紙のファックスを手に取った。
数時間後、再び「ピー、ヒョロヒョロヒョロ…・」と、ファックス機が鳴き始めたが、またも白紙だった。「又、裏返しで送ってきたのか!裏表を間違えやすい機械も悪いが、送る人も、ずいぶんとそそっかしい。」と思った。いずれにしても、大事な用件だと困るので、発信元へ再送をお願いすることにした。そのため、受信時にファックス機が自動的に印字している受信日時や相手先の電話番号などの手がかりを探したが、全く見当たらなかった。そこで、故障かも知れないと考え、取り扱い説明書を探したが、買ってから5年くらい経っているため、本棚のどこかへ埋まっていて見つからない。しばらく、途方にくれていて、はたと気がついた。そしておもむろにファックス機を開けてみると、予想していた通りだった。しばらく前に私がセットした感熱紙のロールの表裏が逆になっており、正常に受信していたのだが、印字ができなかっただけなのだ。
言い訳をすれば、最近は電子メールばかりで、ファックスはあまり利用しておらず、久々の感熱紙の取替えをテキト-にやってしまい間違えたのだ。ファックス機を購入した頃なら、キチンと取り扱い説明書を片手に取り替えていたのだが、今やその取り扱い説明書も見当たらない始末だ。もちろん、そんな初歩的なミスをしたのは私の不注意だ。しかし、家庭用ファックスの感熱紙交換に限らず、乾燥機のフィルター交換などのように、「たまにしかしない作業」は他にもあるはずだ。あるいは、オフィスのコピー機への用紙補充やトナー交換など誰がやるかが決まっていない作業も、いつも熟練した人、知識のある人がやるとは限らない。たまにしか操作しない、不特定多数の人が操作するといった箇所は、いつでも、誰でも、間違いなく操作できる入念な工夫が必要だ。
<岸田 能和>