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脇道ナビ (69) 『犬も歩けば棒にあたる』
自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。
【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある
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第69回 『犬も歩けば棒にあたる』
昔は、街中で放し飼いの犬や野良犬がいた。また、そんな犬たちを追いまわす悪ガキどもも多く、連中の持つ棒でたたかれる。そうしたことから、用もないのに出歩くと災難に遭うという戒めとして「犬も歩けば棒にあたる」ということわざができたそうだ。
確かに、外に出かけるというのは「リスク」が多い。例えば、雨に降られてびしょ濡れになる、お財布を落として一文無しになる、クルマにはねられて入院する、酔っ払いにからまれる…と数えあげるときりがない。そして、用もなく出かけているときは事前の準備がないことや油断しているので、リスクはさらに大きくなってしまう。また、身体能力などでハンディキャップを持つ人たちにとっても外出をとりまくリスクは大きい。
そんなリスクだらけの外出をすこしでも安全に、快適にできるように、わずかずつだがバリアフリー化が進んでいる。例えば、案内表示の改善、ノンステップバス、駅のエレベータやエスカレーター設置、障害者や子ども連れでも使えるトイレの設置などだ。
こうした改善は身障者、高齢者だけでなく、健常者である私自身にとっても、あわてているとき、体調が悪いとき、酔っ払っているとき、ぼーっとしているとき、手荷物が多いときなどにつまずいたり、迷ったりするリスクを減らしてくれるのでありがたい。
ただ、へそ曲がりの私としては、少しだけ心配していることがある。それは、機械化や施設の改善だけでバリアフリー化が完成したと勘違いしてしまうことだ。本来は近くにエスカレーターなどがない階段を前に、困っている人や戸惑っている人に声をかけ、手を出して一緒にフーフー言いながら階段を登る。そうやってサポートしあう社会や人間関係を作り上げることが大切なことのはずだ。また、バリアフリー化のための機械や施設は費用や技術に限界があり、いろいろな人たちがいることからすれば万能ではない。
駅のエレベータに乗り合わせた人たちが、みんなでハンドルを回して人力でエレベータを動かす。もちろん、ハンドルを回すことができない人は乗っているだけで良い。乗っている人たちの力で足らない分だけを電気の力で動かす。目的の階に到着したら、お互いに「お疲れ様!」と声を掛け合って別れていく。これからは、そんなコミュニティを作り出すバリアフリー施設も考えてはどうだろうか。
<岸田 能和>