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脇道ナビ (74) 『ケータイクリーナー』
自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。
【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある
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第74回 『ケータイクリーナー』
オジサンと言われる歳なのに、声が大きいし、やたらと元気がよく、押しが強い。ゴルフで焼けたのか日焼けで真っ黒。少し禿げ上がった額を見ると、脂でテカテカしている。そんなアブラギッシュなオジサンは若い女性たちに嫌われるようだ。
私自身はクールなオジサンを目指しているので、アブラギッシュなオジサンではないと思っているが、家族に言わせるとくたびれて脂が抜けているだけらしい。そんな私でも、困っていることがある。ケータイを使うたびに、液晶画面に顔の脂がつくことだ。夏場になると汗もついてしまい次に使うときにためらってしまう。娘たちからは、「ケータイを顔から離して使えば良いのヨ」と言われている。しかし、街中でケータイを顔から離して周りに会話が丸聞こえになるような不作法なことはしたくない。そのため、ついつい顔に押し当て、液晶画面をギラギラと光らせてしまうのだ。特に最近のケータイの本体は小さく、液晶画面は大きくなっているので、ますます光ってしまう。
そのため、最初はハンカチやめがね拭きで拭いていたが、ある日ケータイの液晶を拭くクリーナーを手に入れた。コンビニで買ったペットボトルのお茶についてきたオマケで、表はビニールにメーカーのキャラクターが印刷されており、裏はめがね拭きのような素材となっている。当然、紐がついており、ケータイのストラップにつけることができる。大きさは幅 1 センチ、長さ 3 センチくらいなので、じゃまにならない。このクリーナーを手に入れてからは、脂がついていなくても、ひまさえあれば、液晶を拭くクセがついてしまった。
周りを見渡してみると、私のようなオジサンだけでなく、若い女性たちも同じようなケータイクリーナーをぶら下げている人は多い。どうやら、彼女たちは液晶画面についたファンデーションを拭くようだ。すると、このケータイクリーナーはアブラギッシュなオジサンだけでなく、若い女性や塗りたくったオバサンたちにもベンリなので、すばらしいユニバーサルデザインだと言えるかも知れない。
冗談はさておき、そんなみんなが喜ぶようなモノは、どこかオカシイ。みんなが不便だとか、使いにくいからそんなクリーナーを手に入れようとするのだ。本来は、ケータイ自体でなんとかすべきだ。同じようなモノにアルミ缶のプルトップを開けやすくするアイデア商品などがあるが、そんな補助具を見るたびにアイデアには敬服するが、どこかオカシイと思っている。
<岸田 能和>