クルマのイメージを明確に伝える

◆ホンダ、2009年にも投入する低価格ハイブリッド車の年販目標は20万台
うち10万台は米国市場での販売を想定しているという。

<2007年12月05日号掲載記事>

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【トヨタに水をあけられたホンダのハイブリッド車】

米国ホンダが、ホンダの環境戦略についての講演の中で、2009年に、現行のシビックハイブリッドよりも低価格のハイブリッド車(HEV)を市販することを明らかにした。全世界で年間 20 万台販売(うち 10 万台を米国市場で販売)することを目標としているという。

2006年のトヨタとホンダの販売実績は、以下の通りとなる。

『ホンダとトヨタのハイブリッド車の販売台数(2006年)』(単位:千台)

.             米国  日本  全世界合計

トヨタ プリウス       107   49     181
カムリHEV          31    0      31
全車種計          192   72     265
ホンダ シビックHEV    31    8      44
アコードHEV         6    0      6
全車種計          38    8      50

※トヨタ全車種には、レクサスブランドのハイブリッド車も含む。

(出典:マークラインズより住商アビーム自動車総研作成)

こうして比較すると、トヨタに水をあけられたホンダが次期ハイブリッド車のターゲットを米国で 10 万台、世界で 20 万台と置いているのは、まさにプリウスに肩を並べるレベルを目指している、ということがわかる。
(今年のプリウスの販売台数は、上半期で 14 万台を超えており、昨年よりも大幅に伸びることが予想される。)

ホンダは現在、インサイト、シビックハイブリッド、アコードハイブリッド(北米専売)の 3 車種のハイブリッド車を市場に投入している。究極の燃費を実現するために作った少量生産の特別車ともいえるインサイトは別にして、シビックはプリウス、アコードはカムリ(アコードと同じくハイブリッドは北米専売)をライバルと想定しているはずである。しかし、シビックは上記の通り、プリウスに大きく離され、アコードも当初想定していた年間 2 万台の販売目標に対して 6 千台と伸び悩み、近々新型に切り替わる時点でハイブリッド仕様の生産を打ち切ることを発表している。

そうした背景を踏まえると、次期ハイブリッド車で再び攻勢に転じたいというホンダの意気込みも伝わってくる。

【なぜプリウスは売れるのか?】

ホンダのシビックハイブリッドであるが、そこまで販売台数でプリウスに差をつけられるほど、性能に差があるかというと、そんなことは決してない。ともにボディサイズや居住性には大きな差はなく、注目の燃費も、10 ・ 15 モード比較で、プリウスの 33.0km/L に対し、シビックは 31.0km/L と、その差はごくわずかである。何よりも価格は、プリウスの 226.8~ 325.5 万円に対し、シビックは 228.9~ 258.3 万円と、シビックの方がお買い得な価格設定である。

こうして考えると、最大の違いは、見栄えのように思えてくる。プリウスは、ハイブリッド専用車であり、どこから見ても、ハイブリッド車とわかるのに対し、シビックハイブリッドは、外観上はガソリンエンジン仕様のシビックと見分けがつかず、ハイブリッド車に乗っているという満足感に欠けるのではないだろうか。

さらにプリウスでは、世界初の自動縦列駐車機能など、先進的な技術も搭載することで、ハイブリッドであるだけでなく、「未来のクルマ」としてのイメージを高めている。

ハイブリッド車の購買動機として、低燃費であることがあるかもしれないが、実態として、税制面での優遇も考慮しても、短期間に同クラスのガソリン車との差額を回収することは難しく、燃費だけで選択しているとは考えにくい。環境に優しいハイブリッド車に乗っているという満足感を得るためであったり、環境に配慮したいという自分の価値観を具現化する手段として選択している、と考える方が自然である。

そう考えると、一目でハイブリッド車であることがわかり、「未来のクルマ」的なイメージが強いプリウスの方がハイブリッド車を購入しようとする消費者の支持を集めることも頷ける。

【ホンダの方が高いハイブリッド比率】

そのトヨタとしても、全てのハイブリッド車でプリウス同様に販売を伸ばしているわけではない。2006年の国内販売台数で見てみると、以下の通りとなる。

『トヨタとホンダのハイブリッド車設定車種の国内販売台数(2006年)』
(単位:台)

.             販売台数  うちHEV   HEV比率※
トヨタ アルファード   66,199   5,867    8.9%
エスティマ        95,626   9,445    9.9%
ハリアー         33,134   5,092    15.4%
クルーガー         6,979    863    12.4%
プリウス         48,568   48,568    100%
レクサス GS        9,143   2,236    24.5%
ホンダ シビック     15,604   7,744    49.6%
インサイト            84     84    100%

(出典:マークラインズより住商アビーム自動車総研作成)

※ハイブリッド(HEV)比率=HEV仕様の販売台数/全体の販売台数

こうして比較すると、シビックの購入者は半分近くがハイブリッド仕様を選択するのに対し、トヨタの購入者の場合は、プリウスを除くと、10 %前後しかハイブリッド仕様を選択していないことがわかる。勿論、トヨタ車の購入者の場合、ハイブリッド車ならプリウスというイメージがあるのかもしれない。しかしながら、ホンダの方がハイブリッド車の魅力を購入者にアピールできているとも言える。

一方、レクサス GS は、他のトヨタ車よりもハイブリッド比率が高い。その傾向は今年も続いており、GS は今年(1~ 10月実績)もハイブリッド比率が 20.3 %となっている。そして、今年ハイブリッド仕様が発売となった LS は 26.3 %と更に高い割合でハイブリッド仕様を選択している。特に、今年下期(7~ 10月の合計)では、ハイブリッド比率が 50 %を超えており、レクサスブランドは総じてトヨタブランドよりもハイブリッド比率が高いといえる。

高額車種の購入層の方が、環境に対する意識が高いということがあるのかもしれないが、それだけではないはずである。レクサスブランドの場合、ハイブリッド仕様が GS、LS の最高級グレードとなっており、ハイブリッド仕様以外の機能面でも差別化が図られている。レクサスが欧州の高級車メーカーとの差別化を図る上で、レクサスが提案する高級車=ハイブリッドというイメージを作っている影響もあるだろう。そうしたことが、高いハイブリッド比率につながっていると考えられる。つまりハイブリッド車に乗っている満足感以上に、レクサスの最高級グレードに乗っている満足感の方が高いのではないだろうか。

【ハイブリッドであるということ】

では、今後、どういうハイブリッド車が求められるのであろうか。

プリウスとレクサスのハイブリッド車に共通する点は、そのクルマの持つイメージが消費者にわかりやすく、そのイメージを象徴する技術としてハイブリッド車であることをアピールしていることではなかろうか。プリウスの場合、環境に優しい「未来のクルマ」、レクサスの場合、最高水準の技術を投入した「日本の最高級車」というイメージである。シビックハイブリッドには、こうしたイメージの具現化が不足していたのかもしれない。

前回のコラム(『ハイブリッド開発に見るサプライヤへの期待』)にも書いたが、ハイブリッド技術で先行する国内自動車メーカーに対抗するため、欧米自動車メーカーもハイブリッド技術の開発を進めるだけでなく、ハイブリッド技術を「当たり前の存在」にすることで、「ハイブリッドであること」の競争優位性を無力化させようとしている。

『ハイブリッド開発に見るサプライヤへの期待』
そうした状況の中、これまでハイブリッド市場を牽引してきたトヨタ、ホンダには、海外メーカーに対抗してハイブリッド仕様の設定をやみくもに増やすというのではなく、それぞれのモデルごとにイメージを明確にして、そのためにハイブリッド技術を搭載しているという必然性を重視してもらいたい。そうすることで、「ハイブリッドであること」のブランド力を高め、海外メーカーに対抗してもらいたい。

そのイメージは、「環境にやさしい」というだけでなくも良いはずであり、「安全性」「利便性」「高級感」等、様々なイメージの提案があった方が、モデルごとの位置づけが明確になるかもしれない。「ハイブリッド」=「環境にやさしい」というイメージが強すぎるのであれば、もしかすると、既存の「ハイブリッド」という呼称に拘らず、新しい名前があった方が良いのかもしれない。

【イメージを明確に伝える】

こうした「イメージを明確に伝える」ことは、ハイブリッド車に限ったものではないと考える。クルマに求められる機能・性能は様々であり、購入者の購買動機も千差万別のはずである。

ここ数年、自動車業界では、「若者のクルマ離れ」といったことが言われることが多い。確かに、若者の行動様式は多様化しているかもしれないし、クルマ以外にも若者の関心を惹きつけるものが増えたことも事実であろうが、自動車業界には、若者の関心を失う要因はないのであろうか。

クルマ自体の性能も向上し、もはや移動手段としては、「どれでも一緒」と思われてしまっていることも、「若者のクルマ離れ」の一因となっているのではないだろうか。

安全、環境、利便性、走行性能の全てをバランス良く追求したクルマを作れば、万人受けするクルマが出来上がり、販売台数も拡大するかもしれない。しかし、業界全体がこういったクルマで溢れてしまうと、「どれでも一緒」ということにつながってしまう危険性もあるのではなかろうか。

だからこそ、明確なイメージを持つクルマを増やしてもらいたい。「iPod」「Wii」「ビリーズブートキャンプ」といった最近のヒット商品を見ても、「誰でも簡単に使える気軽さ」「身体を動かす遊び感覚」「仲間との達成感」といった、他の競合商品とは違うイメージを明確に持っていると考える。むしろ、最近の若者を始めとする消費者の購買傾向は、多様化しているというよりも、こうした際立ったイメージを持つ商品が出たときに、購買が集中するような傾向がある気がする。

近い将来、若者がこぞって欲しがるようなクルマの登場を期待したい。

<本條 聡>