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自動車部品メーカーの新興国への取り組みについて
今回は、「自動車部品メーカーの新興国への取り組みについて」をテーマとし
た以下 4 問のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/enquete/4133.html
・「今後注力したい新興国について」
・「新興国で進出・事業拡大が求められる日系部品領域について」
・「日系自動車メーカーの海外生産比率について」
・「日系自動車メーカーが部品メーカーに求める要件について」
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【日系自動車メーカーの海外生産比率の現状】
日本自動車工業会の統計によれば、以下の通り、この 10年間で日系自動車メー
カーの海外生産比率は着実に高まってきた。
総生産台数 海外生産台数 海外生産比率
1999年 1,568 万台 578 万台 37 %
2009年 1,805 万台 1,012 万台 56 %
実際に、日産が主力小型車マーチをタイに生産移管したり、トヨタが日本で
生産していたカローラの輸出分を海外生産とする検討を始めたとの報道がなさ
れる等、海外生産への移行を推し進める動きが目立っている。
この流れは今後も継続するのであろうか。また、今回の震災の影響はどうで
るのであろうか。自動車業界に携わる方で構成される弊社のメールマガジンの
読者に「日系自動車メーカーの 2020年における海外生産比率はどのようになっ
ているか?」についてお聞きした。
結果は以下の通り、8 割以上の方が現状以上と見ており、約 3 割もの方が、
「80 %前後まで高まる」と回答された。
・「過去 10年間と同様のペースで上昇し、80 %前後まで高まる」
:28 %
・「過去 10年間程ではないペースで上昇し、70 %前後まで高まる」
:35 %
・「現状と同じ 60 %前後に留まる」 :19 %
・「その他(過去 10年間より上昇する、寧ろ海外生産比率は低下する等)」
:18 %
当然ながら各社の海外生産比率には凹凸がある中で、全体として海外生産比
率が 8 割という数字がどれ程インパクトがあるものなのか、現状を見直してみ
たい。
2010年 1~ 9月の実績(累計)の報道資料を基に、以下の通り、海外生産比
率が大きいグループと、比較的小さいグループの 2 グループに大別してみた。
・海外生産比率が大きいメーカー:
ホンダ(73 %)、日産(72 %)、スズキ(61 %)、トヨタ(56 %)
・海外生産比率が比較的小さいメーカー:
三菱自工(43 %)、マツダ(29 %)、富士重工(24 %)、ダイハツ(18
%)
先進国から新興国への需要シフトや、昨今の円高等という外部環境を踏まえ
ると、これまでは国内生産を主力としているメーカーも、今後はより一層、海
外展開を加速せざるを得ない。実際に、三菱自工が 2012年初頭から主力小型車
をタイで生産する計画や、富士重工が中国で奇瑞自動車と提携し、大連市に新
工場を建設すること等が報道されている。今後も海外生産比率が高まる傾向に
あるという意見が多いのもうなづける。
【新興国への取り組み】
日系自動車部品メーカーには、当然、日系自動車メーカーの海外生産へのシ
フトに対応していく必要があるとの認識はある。ただ、ヒト・モノ・カネとい
ったリソースには限りがあり、戦略的にどのように優先順位をつけて、注力度
を高めていくかという点で悩まれているメーカーも多いのではないかと思う。
以下は、「日系自動車部品メーカーが今後注力すべき新興国はどこか?」と
いうアンケートをメールマガジンの読者に伺った結果である。
・「中国」 :30 %
・「インド」 :25 %
・「ブラジル」 :20 %
・「ロシア」 :14 %
・「東南アジア」 :10 %
・「その他」 : 1 %
BRICs の中でも市場規模があり、新興国の中でも人口 1,000 人当たりの保有
台数が少なく、経済の発展に伴った更なる市場伸長が見込まれる中国が票を集
めた。
中国市場における部品の調達について、中国系自動車メーカーは中国系部品
メーカーや、合弁部品メーカーから、欧米系自動車メーカーは、欧米系部品メー
カーと地場との合弁メーカーからの調達が殆どであり、日系自動車メーカーと
比べて現地調達比率が高いと言われている。
一方で、輸入比率が比較的高く、総じて新車価格が高いとされてきた日系自
動車メーカーにおいても、ここ最近では、新車価格を引き下げる取り組みが始
まっている。
例えば、日産では、現地調達比率を高めて低価格を実現した「マーチ」の投
入に加え、現地での第 2 ブランド「ヴェヌーシア」を立ち上げる等、コストダ
ウンや現地最適化に対する取り組みがなされている。
欧米勢に後れをとってきたと言われる中国市場において、このような現地最
適化の取り組みを加速させることが、今後日本勢が巻き返しを図るために重要
になってくるものと思われる。
【現地調達比率拡大の流れ】
メールマガジンを通じたアンケートで、「日系自動車メーカーが現地で部品
メーカーを選定する際に最も重要視すること、期待することは何か?」と尋ね
てみた。
・「企画・営業面」 :18 %
・「設計・開発面」 :28 %
・「調達面」 :17 %
・「製造面」 :27 %
・「IT 面」 : 5 %
・「その他」 : 5 %
「設計・開発面」や「製造面」が群を抜いており、品質の確保のみならず、
現地ユーザーのニーズを捉えた製品開発や、コスト低減が求められているので
あろう。
前述のコストダウンや現地調達比率向上への取り組みも考慮すれば、海外進
出をして日本と同じものを作るのではなく、現地最適化を図ることが求められ
ていると考えられる。
また、「新興国市場の中で、特に日本の部品メーカーの進出・事業拡大が期
待されている部品領域は?」というアンケートを取った。
・「エンジン部品」 :16 %
・「駆動・伝動・操縦部品」 :22 %
・「懸架・制動部品」 : 9 %
・「電子・電装部品」 :22 %
・「車体・外装部品」 :12 %
・「内装部品」 :12 %
・「用品・その他」 : 7 %
「駆動・伝動・操縦部品」、「電子・電装部品」、「エンジン部品」を選ば
れた方の割合が高くなっており、これまで現地生産してこなかった領域でも現
地生産への取り組みを注力していくことが期待されていると考えられる。
つまり、「この部品は、XXXの理由により現地で生産できない」という先
入観は通じず、どの部品領域においても、より一層の現地最適化を図ることが
求められているのではないだろうか。
【日系自動車部品メーカーが新興国市場において求められること】
トヨタが 5年を掛けて開発し、2010年 12月より発売を開始した新興国戦略車
「エティオス」の現地調達比率は、約 70 %と言われている。それに加えて、
2012年 9月にエンジンを、2013年 1月に変速機を現地化する方針で、実現すれ
ば 90 %超が現地調達になるとの報道もある。
日本とは環境や文化が違うインドにおいて、温度条件の下限を現地に合わせ
たものとしたり、インパネにインドの神様の偶像を置くスペースを設ける等、
現地ニーズへの最適化対応も施されている。
日産の「マーチ/マイクラ」、ホンダの「ブリオ」等の戦略車においてもエ
ティオス同様に高い現地調達比率を実現する設計としており、コストダウンや
現地最適化の成果が見えてきている。
日系自動車部品メーカーにとって、ヒト・カネといった投資拡大の判断とし
て、ある程度の市場規模が期待されなければ難しいと思うが、現地ニーズを汲
んだ製品開発を行うことで、日系自動車メーカーのみならず、非日系にも間口
を広げられるはずである。ボリュームメリットも出るであろうし、日系自動車
メーカーへの供給価格低減にも繋がる可能性もある。
単独でのリソース投入に制約があるなら、地場メーカーとの合弁企業設立や、
技術提携を図り、パートナーのリソースを有効活用するという選択肢もある。
地場メーカーと組む場合に技術の流出等、気がかりな点は多々あると思うが、
市場が確立してしまってからでは参入障壁は大きくなるであろうし、現段階で
リスクを恐れ、取り組まないこと事態が、大きなリスクとなる可能性もある。
海外に生産シフトすることによって生じた空き工数を使って、今後日本で何
をやっていくかということは、並行して考えていく必要があるが、圧倒的な存
在感を出し始めている新興国市場を如何に開拓していくかが、今後の事業存続・
拡大の鍵を握るのは確かである。
市場開拓に当たっては、早い段階で、自動車メーカーが求める以上に現地最
適化を図り、寧ろ自発的、積極的に製品を提案できる、真の提案型企業への脱
皮が日系自動車部品メーカーに求められているのではないだろうか。
<横山 満久>