11年度の国内新車販売動向に関する考察

◆3月新車販売、37年ぶり 30 万台割れ、大震災が影響

                        <2011年04月03日号掲載記事>

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【昨年度の大まかな新車販売動向】

 東日本大震災の甚大な影響が自動車業界を取り巻く中、4月に入り、11年度が
始まった。最初に 10年度の国内新車販売動向(登録車+軽自動車)を振り返っ
てみたい。

 10年度の上期はエコカー補助金の効果により昨対比を上回る水準が続いた。
特に 8月はエコカー補助金終了間際の駆け込み需要により昨対比で 138 %とい
う伸びを見せ、上期の合計新車販売台数は 254 万台、昨対比 117 %という状
況で折り返した。

 下期に入りエコカー補助金終了の反動により需要が落ち込み、10月から昨対
比で 70 %程度の水準が続く。しかし、年が変わり 11年に入ってからは需要の
落ち込みも一服したと見られ、2月は昨対比 90 %まで回復していた。

 その矢先に、今回の大震災が発生した。3月は昨対比で 65 %となり、結果、10
年度通期では合計新車販売台数 460 万台、昨対比 94 %となった。

  
【今後の新車販売に影響を与える要因:被災地】

 11年 3月の新車販売台数を、特に被害が大きいとされる岩手・宮城・福島
(以下、東北 3 県)と、それ以外の地域に分けて見ると、東北 3 県では昨対
比 38 %まで減少し、それ以外の地域でも昨対比 66 %に減少している。

 東北 3 県における今後の新車販売動向を考える上で、当時とは被災状況や経
済状況などが異なるが、参考までに 95年 1月に発生した阪神・淡路大震災時に
おける兵庫県の動向を見てみたい。

 阪神・淡路大震災が発生した 95年 1月の兵庫県の新車販売台数は昨対比で
48 %まで落ち込んでいる。しかし、2月には昨対比で 106 %、3月には 100 %
と急回復している。更に 4月から 12月までは昨対比平均で 111 %と、兵庫県
以外の地域(昨対比平均 103 %)を上回る水準で推移した。

 今回の場合、減産の影響などが大きく、当時のような急回復は期待できない
であろう。実際に、11年 4月の新車販売台数は、各自動車メーカーの生産停止
が長引き、15日時点で、東北 3 県含む東北エリアの登録車で昨対比 68 %と当
時の兵庫県のようには回復していない。また、全国では登録車・軽自動車の合
計で昨対比 45 %と、3月の昨対比 65 %に比べて、マイナス幅が拡大している
と報道されている。(東北エリアが全国に対してマイナス幅が小さいのは、一
部メーカーが、被災地支援の一環として、在庫車を優先的に放出したとのこと)

 一方で、被災地での復興に向けた需要は高いと考えられる。今回の震災で東
北 3 県では 40 万台の保有が失われたと言われ、東北 3 県での年間新車販売
台数の約 2年分に相当する。被災地は、もともと自動車が日常の足として必要
なエリアとも思われる。

 ただ、復興需要にも、原発の被害が甚大なエリアなど不透明な部分があるし、
新車販売という観点では、減産の影響に加えて、マイナスに影響する要因も幾
つかある。例えば、中古車への流出である。特に軽自動車は保管場所の届出が
不要で購入手続きが簡易なエリアもあり需要が高いと聞く。それ以外にも、復
旧に時間の掛かる販売店があることや販売店での廃車対応の業務負荷が高いこ
となどが想定される。

 
【今後の新車販売に影響を与える要因:被災地以外】

 東北 3 県以外の地域でも、もちろん減産の影響は大きい。それに加えて、消
費マインドの低下・消費自粛ムードの影響が考えられる。

 業種によって度合いは異なると思うが、全体としては震災によって業績が下
押しされ所得にも影響があることが想定されるし、現在、検討中の復興税も新
車販売という観点からはマイナスに影響する可能性はある。

 小売業の業績予想をみると、必需品中心の総合スーパーやコンビニエンスス
トアでは震災の影響は限定的とされる一方で、不要不急・高額商品が中心の百
貨店では苦戦が予想されている。自動車も後者に近いであろう。

 また、電力不足の影響は、生産面だけでなく販売面でもあり、販売店でも夏
場は平日 2日間一斉休業をするという報道がある。

 それら以外にも、震災前からある、エコカー補助金終了の反動減や、クルマ
離れの影響は、依然として残るであろう。

 
【今年度の新車販売台数】

 上記で述べてきた要因の主だったものについて、規模感をざっくりと考えて
みたい。

 4月 22日に発表されたトヨタの生産正常化に向けた見通しにより拡大する可
能性はあるが、それまで国内の減産台数は各社合計で 150 万台程度と言われて
いた。この内、10年の実績ベースで考えると、輸出向けが半分あるから、国内
向けの影響は▲75 万台程度となる。

 ただ、国内向け・輸出向けの配分は 10年とは異なってくるであろうし、販社
の中には納車遅れの対応として車検代の肩代わりを検討するなど、減産の影響
を緩和させるべく努力が続けられている。

 復興需要に関しては、東北 3 県の推定浸水世帯数が 30 万世帯あることから
考えてみたい。東北 3 県の世帯当たり保有は 1.2台~ 1.5台であるが、仮に
1 家に 1台は急用とすると復興需要は 30 万台と考えられる。

 この内、中古車に流出する分がどの程度あるかによるが、被災地の新車販売
店における新車と中古車の比率は、新車の方がまだ少し高めという報道もある。
中古車専業店を加えれば中古車の比率が高くなるかもしれないが、復興需要の
半分を新車とすれば+15 万台となる。

 なお、新車販売店においても、トヨタ系販社がグループを挙げて中古車を集
中供給するという動きもあり、今後、更に中古車の比率は高まる可能性はある。
(逆に、全国的に中古車の価格が高騰すれば、被災地以外で新車需要にプラス
の影響を与える可能性もあるかもしれない)

 上記に加え、消費マインド低下の影響などを考慮すれば、合計で数十万台、
それも後半レベルのマイナス影響があるのではないだろうか。そうすると、も
ともと 11年度はエコカー補助金終了の反動減などがあり 400 万台後半の水準
と見られていたが、震災により 400 万台前後にまで落ち込む可能性も考えられ
る。

 現在、震災特別税制の策定や、登録手続きの緩和、被災地への寄付、自動車
メーカーによるモータープール被災車両の費用負担、新車・中古車の被災地優
先供給、被災車両撤去の人員派遣など、ヒト・モノ・カネのリソース全面に渡
る支援が続いている。

 自動車業界の復興が日本経済の復興に繋がり、結果として国内新車販売の回
復にも繋がっていくであろう。震災が与える影響の大きさは未だ不透明である
が、業界一丸となって取り組むことで乗り越えていけると信じている。

<宝来(加藤) 啓>