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CRMの課題(2)
弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。
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第 2 弾は、アビームコンサルティング戦略ビジネス事業部の松村芳道マネージャー/荒木甲和マネージャーが、CRM を4週に渡って紹介する。今回はその第2 回にあたる。
第2弾『CRMの課題(2)』
(日刊工業新聞 2004年06月17日掲載記事)
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「売る」という目的は同じ CRM (顧客情報管理)でも、新規の顧客と既存の顧客とでは施策が大きく異なる。
まず新規顧客への販売に貢献する CRM 施策例として、「効果的なマーケティング施策のために、より工夫した顧客情報の活用」が挙げられる。例えば、顧客の基本属性(年齢、性別、など)だけでなく、新車のターゲット顧客層にアプローチするためにはどのようなメディアを使えばよいのか、といった判断を毎回高い調査費用をかけずにできる。ただ、これらの情報は基本属性以上に変化するため更新が困難なことから、情報鮮度維持への対応策を強める必要がある。
2 つ目として「アフターマーケットも意識した戦略的な価格設定」が肝心だ。車種別に車両販売時の粗利だけでなく、リースやローンの利用など、納車以後のサービス利用率・粗利も把握出来るような仕組みを構築すること、納車以後の収益性も考慮して販売価格を戦略的に増減する、といった施策例である。
3つ目として「アフターマーケットにおける(他社ユーザーの)スイッチング促進」を挙げたい。これは入庫サービスを強化することによって、他社ユーザーに対して、自社系列のディーラーへの入庫を促し、入庫時に顧客情報を取得していくことで、その情報を活用して、次回買い替え時をとらえてスイッチングを狙う施策である。そもそも「アフターサービスは新車販売と比較して収益性が高い」ため、各ディーラーとも力を入れるべき領域だといえる。
業界内では有名だが、ビスタ兵庫というディーラーは徹底した低コスト化で50% を超える高い車検粗利率を実現し、業界最低水準の料金設定で、他社ユーザー比率が 70% を超えるといわれる。
「既存顧客への販売に貢献する CRM」の施策例もいくつか挙げてみたい。まず「商品開発における顧客情報の活用」がある。これは前回提示した方向性(本業である自動車そのものの品質・信頼性などの向上に、顧客情報を上手く活用していく)と重なるが、顧客情報として、製品購入時にどのようなことを重視するか(外観、居住空間など)という情報を蓄積・分析できるようにすることで、よりターゲット顧客層のニーズに合った商品開発・改善につなげられる。この場合も、情報更新をどのように行うのかを十分検討することが課題となる。
また顧客情報を活用した「接点での顧客対応の一貫性向上」の必要性を挙げたい。ディーラーのみならず、コールセンターやウェブサイトや電子メール、さらに最近ではテレマティクス(車両との双方向通信)といったように自動車業界における顧客接点は多様化しており、各接点で顧客対応の一貫性を維持することが重要になる。これにより、点検を受けたばかりのディーラーから、点検案内の DM が届くといったことで、顧客満足度が低下、ひいては顧客離反につながるような事態は避けられるであろう。
さらに、複数チャンネルを組み合わせた顧客対応シナリオを検討することで、効果的に顧客の買い替えを促進していく可能性もある。
当然、ほかにも施策例は多数あると思われるが、今回提示したいくつかのヒントはまだ十分に実現できている事例は少ないだけに、一考の価値があろう。
<荒木/ 松村>