CRMの課題(1)

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第2弾は、アビームコンサルティング戦略ビジネス事業部の松村芳道マネージャー/荒木甲和マネージャーが、CRM を4週に渡って紹介する。今回はその第1 回にあたる。

第2弾『CRMの課題(1)』

(日刊工業新聞 2004年06月10日掲載記事)
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カスタマー・リレーションシップマネジメント(CRM)という経営コンセプトが 90年代に持てはやされた。一般的に浸透した概念といえるが、実際に CRM を実践し、成功しているという事例はあまり聞かれない。今回から 4 回にわたって、今後自動車業界において取り組むべき CRM の方向性として、「アフターマーケットまでを含めたバリューチェーン全体を見据えた CRM」を提案してみたい。

なぜ CRM の成功例が少ないのであろうか。CRM が成功しない理由の1つには、体裁にこだわり、顧客ニーズを無視した取り組みがあると考えられる。CRM への取り組み内容について複数のメーカーやディーラーを対象にしたアンケートでは、一番多いのが「顧客データベースに基づいたプロモーション」であると報告されている。それに対して顧客がメーカー・ディーラーに求めるものは「商品の品質・信頼性」である。

確かに、近年はさまざまな場面で顧客情報登録が求められ、ダイレクトメール(DM)や電子メールが大量に押し寄せるが、思わず苦笑いしてしまうような内容も少なくない。私の身近な例では、愛車をあるディーラーに点検に出したばかりなのに、同じディーラーから点検の案内 DM が届いたりする。顧客ニーズをとらえていないばかりか取り組みが中途半端で、むしろ逆効果となる可能性がある。これなら何もしない方がマシかもしれない。

CRM の取り組みが安易なものになってしまうのは、「短期的に成果が見えやすいから」という点だと思われるが、あくまでも長期的な視点で考える必要がある。

では自動車業界における「本来あるべき CRM の取り組み」とはどういうものなのであろうか。一つの方向性として、本業である自動車そのものの品質・信頼性などの向上に、既存の顧客情報をよりうまく活用していくことが挙げられる。

現在の自動車業界においては、顧客属性や顧客ニーズといった顧客情報は各ディーラーに蓄積されている一方、メーカー自身もさまざまな顧客調査を実施。結果はバラバラに蓄積されており、十分に活用する状態ではない。

そのためメーカーは新車開発を行う際に「どういう顧客層の、どういう情報が必要で、それらの情報をどのように取得・更新していくか」という仕組みを、上流のメーカーから下流のディーラーまでを含めた「バリューチェーン全体」でよく考えて整理していけば、既存の散在した顧客情報資産をより有効活用できる。毎回高い調査費用をかける必要はないわけだ。

ただ意外にネックになるのが「顧客情報の更新」。そもそもこの業界では顧客との日常的な接点が少ないため、何らかの顧客メリットを付けて定期的に DMなどの「プッシュ型」のアプローチで顧客情報更新の有無を確認するのも一手だが、引越しされれば追い掛けるのは困難。そのため一番確実なのは、定期的に同系列ディーラーへの入庫を促進し、その都度、顧客情報更新の有無を確認していくという「プル型」のアプローチだ。

この場合、全国のディーラー間で顧客情報を共有する仕組みを検討することが必要。ただ個人情報保護法への対応は必須であり、さらにディーラーに「顧客情報の鮮度を維持をするモチベーションをいかに与えるのか」など、検討すべき課題は多い。

<荒木/ 松村>