米国自動車業界の購買(4)

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第 9 弾は、アビームコンサルティング USA 代表 ダロン・ L・ギフォードとアビームコンサルィテング USA マネージャー河合博子が、米国自動車業界の購買について 4 週に渡って紹介する。今回はその最終回にあたる。

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第 9 弾『米国自動車業界の購買 (4)』

(日刊工業新聞 2005年 04月 06日掲載記事)

今後数年、米国の自動車業界はコスト削減要求の一層の増加と、業界構造を良く知るユーザーによって、今まで以上の顧客満足と優れたサービスを求められ、混乱に陥るであろう。しかしこの動きは結果的に完成車メーカーとサプライヤーを団結させるための大きな影響力にもなる。

米国ビッグスリーに日産自動車とルノーが加わって設立したコビシント社は、完成車メーカーとサプライヤーを結ぶシステム導入にあたって、自動車業界を統合するために必要な条件を満たすことに重点を置いた。業界全体に広がった「価値連鎖」を形成するために個々、異種の組織それぞれを結び合わせることであった。価値連鎖は設計、調達、生産、物流、販売、およびサービスを包括するものでなければならない。

しかしコビシント社の狙いは実現されなかった。購買技術が機能的に重視されオンライン・オークションの活用のみが際立った。オークション・サービスは入札過程における購買プロセスを少なくして、入札価格を最安値にすることを目的に提供されたが、完成車メーカーとサプライヤーの関係を悪化させる要因にもなった。完成車メーカーは事業の継続と利益確保と更なるコスト削減をサプライヤーに強いるために、この仕組みを購買プロセスに利用したのであるが、結果的に両者間に存在する不信感を助長するものになった。

コビシント社は当初のビジョンを達成することはできなかった。だが完成車メーカーとサプライヤーが自動車の技術革新とコスト削減の実現のために協働し、グローバルな調達能力を確立する機会を作り得たことは、成功に向けた「種子」となり業界の体質改善のきっかけになった。重要なのは共通部品の開発(再利用)、工場設備の能力強化、グローバルソーシングおよび組織連携による商品開発を始めとした統合管理方法の活用を経験したことで、自動車業界は自己変革で大きな進歩を遂げたことである。

そのおかげで過去と比べてはるかに安全かつ信頼性の高い自動車と部品が生産され、消費者により長い製品寿命と低維持コストを提供した。長期間にわたりインフレーションによる自動車価格の値上げは行っていない。

しかし、自動車業界が重大なパラダイムの変化を強いられていることは明白。
漸進的な技術革新への対応において現時点では成功しているが、メーカー、サプライヤーを含めた多くの関連産業の経済環境を見ると、互いに企業規模と売上を維持するにあたっては「限界点」に達している。

米国の自動車業界は、いまコビシント社が掲げた理想的なあり方を目指して個々の組織・企業の協働による一体化と情報の統合によって巨大な価値連鎖を築こうとしている。過去の相互不信を改善し価値連鎖を本当に統一することが、業界関係者にとって成功へのかぎになるだろう。そしてこれらの問題に積極的に取り組む企業や人々が将来、グローバル業界のリーダーとなるはずである。

<河合 博子>