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カーナビの将来像
◆パイオニア、車載カメラで画像認識した映像を活用する次世代カーナビ
地図データと連携し、撮影した映像の中から交差点や分岐点で目印となる看板や信号機などを捉え、実写映像上の看板や信号機に強調枠を付けたり、道路上に曲がる方向などを表示できる「リアルビューナビ」機能。
進行方向の景観を「草木」「空」「人工物」として分析し、単調な景色が続くと新しいルートを案内する「ロードスケープナビ」機能。
自車の車線逸脱やふらつきを警告したり、前方車両との車間距離を通知する「アラウンドモニターナビ」機能の3つの機能を「CEATEC JAPAN 2007」で発表した。
<2007年10月02日号掲載記事>
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【「画像認識カーナビゲーション」】
今週、国内最大の電機電子・情報通信業界の展示会である、CEATEC が幕張で開催された。毎年、時間を作って見に行くようにしているが、今年は他の仕事の都合もあり、機会を逃してしまった。
インターネット等でも話題を集めた技術や展示は報道されているが、今回、その中でも是非とも見ておきたかったと後悔しているのが、このパイオニアの「画像認識カーナビゲーション」である。
このカーナビは、車載カメラで取得する画像と連携することで、
(1)リアルビューナビ
カーナビの画面上の実写映像を表示し、リアルタイムに信号や看板を認識しながらルート案内を行うことで、利便性の向上を図るというもの。
(2)ロードスケープナビ
道路景観を「草木」「空」「人工物」に分けて認識・分析し、単調な風景が続いていると判断すると、新しいルートを提案することで、運転の楽しさを提案するというもの。
(3)アラウンドモニターナビ
前方車両との距離を検出し、接近したら警告する、白線を認識して車両のふらつきや車線逸脱を認識して警告するなど、安全運転支援をするというもの。
の 3 つの新機能を提案している。今回は、その中でも、(1)の「リアルビュー
ナビ」に注目したい。
【カメラとカーナビの関係】
1981年にホンダが世界初のカーナビを市場投入して 25年以上ったが、その歴史の中で、カーナビは大きく進化してきた。ナビゲーション自体の精度や利便性は勿論、すっかり普及したこのシステム・ハードを活用した新たな機能・付加価値が進められてきた。
その一つが、バックモニターに代表される、ブラインドモニターのディスプレイとして、カーナビのディスプレイを活用する仕組みである。既にセンターコンソール付近に既に定位置を確保したディスプレイを活用し、これにカメラを組み合せることで、後方や側方の視界を確保するという機能は、今やカーナビの定番オプションとなっている。
一方、カメラ側の技術の進化や低価格化により、夜間の視界を確保するナイトビジョンやレーダーとの組合せも含めたプリクラッシュセーフティシステムなど、新たなアプリケーションが実用化されている。加え、デジタル画像処理技術の高度化により、単にカメラが映した画像を表示するだけではなく、その画像から白線や先行車両を認識したり、先行車両や障害物との距離を測定したり、あたかも上空から見ているような画像を合成したり、と革新的な技術の開発・商品化が進んでいる。結果、カメラ自体の搭載量も増加傾向にある。
画像を取得するデバイスであるカメラと表示するデバイスであるカーナビ(のディスプレイ)の二つから、今後も新たな技術・機能が生まれる可能性は高いと考えられる。
【カーナビのコンセプトが変わる】
そのカーナビとカメラの組合せによる新たなアプリケーションとして、今回の「リアルビューナビ」を位置づけられるのではないだろうか。
そもそも、ホンダが前述のカーナビを市場に投入したときには、地図表示自体はアナログであった。白黒ブラウン管の上に、透明フィルムをセットし、ブラウン管が表示する光の点をフィルム上に書かれた地図に重ねることで、現在位置を表示していたという。地図フィルムの範囲を越えると、入れ替えも必要だったという。
1980年代半ば頃から CD-ROM に記録した地図データを利用するカーナビシステムが本格化し、1987年にはトヨタが、CD-ROM を利用したカーナビを発表している。以降、記憶媒体自体は、DVD、HDD、フラッシュメモリと進化してきたが、電子媒体に記録した地図情報をディスプレイ上に表示させるという基本コンセプトは 10年近く維持されてきた。
それに対し、今回のパイオニアが発表した「リアルビューナビ」では、カメラからリアルタイムで取得する実写映像をカーナビ上で表示させるというのである。航空写真を表示させる商品は数年前から市場に出てきているが、これは既に記憶媒体に保持した情報であり、これまでの地図データの一種と考えるべきであろう。今回は、リアルタイムの実写画像がメインであり、それを認識・情報補完するために地図データを使っているというのが革新的なところである。
カーナビに表示される情報のメインが記憶媒体に保持された地図データからカメラのリアルタイム画像に変わったということは、カーナビのコンセプトを大きく進化させる革新的な技術ではないかと考える。
【リアルタイム画像を使うためには】
カーナビとしての機能を果たすため、もっと言えば、既存のカーナビよりも使いやすい、わかりやすいものとするためには、単にカメラで取得した画像を表示させるだけでは意味がない。リアルタイムで取得した画像を適確に認識し、ガイド情報を重ねてわかりやすく表示することが求められる。そのためには、今まで以上に高度な地図情報と解析処理機能が必要となるはずである。
高度な地図情報としては、取得した画像を正しく認識するために、目印となる交差点周りの施設、車線数、信号、標識等、従来よりも大きな地図データが必要となるはずである。加え、新しく開通した道や道路工事情報などが正しく反映されていないと誤作動を起こす可能性も出てくるため、地図データ自身もリアルタイムに更新されるようなものであることが必要になるのではなかろうか。テレマティクス技術を活用した、常時地図データを更新する仕組みや、地図データそのものを外部にもち、常時アクセスするオフボードナビのような仕組みと組み合せることが考えられる。
また、画像の解析処理機能としては、リアルタイムで取得した画像を瞬時に解析し、タイムラグがない状態で表示することが求められるため、IC 等の処理性能やソフトウェア技術も、より高度なものが求められるはずである。
こうして考えると、実用化に至るまでにはかなり技術的な難易度が高いと思われるが、今回パイオニアが試作品とは言え、実際に動く商品を開発し、出品したことは大きな一歩ではないかと考える。(出品したということは、開発自身は更に先を行っているとも考えられる。)
【カーナビの将来像】
この「リアルビューナビ」が商品化するのを期待したいが、一方で、この先、カーナビはどういう進化をしていくのか、考えてみたい。
改めて考えてみると、リアルタイムの実写映像なら、視点を動かして、カーナビ等のディスプレイを見なくても、目の前にあることに気づく。正面を向けば、フロントウィンドウ上(正確には、その向こう)には、実際のリアルな視界が広がっている。これをカーナビの画面として使えれば、視点を正面から室内のディスプレイに動かす必要もないし、これ以上にわかりやすい表示もないはずである。
当然、自動車メーカー各社を中心に、将来的にはフロントウィンドウに画面表示機能を持たせて、カーナビや警告表示等を行うことを構想しているだろう。が、現状、外の視界は確保する透明性を維持しながら、フロントウィンドウ全体に表示する技術は確立されていないことが大きな壁になっていると考えられる。
ヘッドアップディスプレイを採用するクルマは徐々に増えてきている。しかしながら、デバイスの小型化・低価格化、表示エリアの大型化、焦点距離の確保等、まだまだ改善の余地も多く、採用事例や表示内容は限定的になっている。
透明化・曲面化が理論上可能な有機 EL への期待も高いが、技術的にもまだ成長段階であり、ヘッドアップディスプレイに代わるものとして実用化するには、まだ時間がかかりそうである。
いずれ、こうしたディスプレイ技術が確立されれば、フロントウィンドウにカーナビが表示される時代が来るのだろう。少なくても、今回パイオニアが発表した、カーナビデータと実写映像を連携させて表示させる技術は、そのコンテンツ側をカバーするものにつながるはずである。あとは、そうしたディスプレイ技術の進化を楽しみに待ちたい。
<本條 聡>