自動車メーカーの今期業績見通しについて考える

◆自動車 7 社 純利益 3 期ぶり減
  国内自動車大手 7 社の 2012年 3月期の連結純利益は 3 期ぶりに減少する見
  通し

                      <2011年07月07日 日本経済新聞>

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【売上高・販売台数の見通し】

 各自動車メーカーは、震災の影響が不透明なため 12年 3 期見通しの発表を
遅らせていたが、7月 6日に富士重が発表し、各社の見通しが出揃った。

 今回は、トヨタ・日産・ホンダ・マツダ・三菱自・富士重・スズキ・ダイハ
ツ、8 社における業績見通しの平均値を、前年実績と比較しながら、今年の大
まかな動向を見ていきたい。(会計基準の違いなどは考慮していない)

 まず、各社の規模感を示す、売上高及び販売台数の状況を見てみたい。8 社
平均売上高は昨年対比で▲0.9 %、8 社平均販売台数は昨年対比で+2.0 %と
なる見通しだ。

 震災の影響を受けながらも、昨年度と同程度の水準を確保できる見通しとな
っている。リーマンショックのように世界的に需要が減退したわけではなく、
震災は供給側に与える影響が大きかったからだと考えられる。

 販売台数の見通しを国内と海外に分けて発表している自動車メーカーの平均
値を見ても、国内販売台数は昨年対比で▲2.0 %、海外販売台数は昨年対比で
+4.7 %となっており、国内販売は減少する見通しの一方、海外販売は増加す
る見通しである。

 一定の需要は見込めることから、供給側の回復速度が課題となる中で、ご存
知のとおり、業界を挙げた取り組みにより、生産正常化は当初の想定を上回る
速度で進んでいる。今月には各社ほぼ正常化し、今年度下期には増産に転じる
見込みだ。

 トヨタは 6月 10日に今年度の生産台数見通しを 739 万台と発表したが、そ
の後、30 万台上積みされ、770 万台前後になる見通しという報道もある。

 一方で、売上高を販売台数で除した売上単価は下落傾向にある。その一因に
は、小型車や低価格車の増加による車種ミックスの変化があると思われる。今
後、販売台数が増加していくのは新興国ということを考えれば、引き続き、こ
うした傾向は続くと考えられる。(ただし、中国事業を連結している自動車メー
カーは限定されており、連結売上高をグローバル販売台数で除して売上単価を
算出すると、実態より下落して見えるので、注意が必要である)
 
【営業利益・当期利益の見通し】

 次に、利益の状況を見ていきたい。8 社平均営業利益は昨年対比で▲23.3 %、
8 社平均当期利益は昨年対比で▲18.8 %となる見通しだ。

 売上高や販売台数は昨年度と同程度の水準を確保できる見通しの一方で、利
益の方は、20 %程度減少する見通しである。

 具体的な金額は公表されていないが、利益の減少要因として各社とも、原状
回復費用など震災に伴う影響を挙げている。昨年度の実績を見ると、震災に伴
う損失は、各自動車メーカーの単純合算で 3 千億円程度あり、今年度も大きな
影響が想定される。

 震災影響以外に各社が利益の減少要因の一つとして挙げているのは円高影響
である。為替の前提にもよるが、今年度の為替影響額は、公表している各社平
均で見て、営業利益に対し▲33.5 %もの減少要因となる見通しだ。

 また、研究開発費や設備投資も増加している。今年度の、8 社平均売上高研
究開発費比率は 4.2 %(昨年度実績は 3.7 %)、8 社平均売上高設備投資比
率は 4.8 %(昨年度実績は 3.2 %)となる見通しだ。環境対応車の開発やグ
ローバルでの生産拠点最適化など、各社が対応を強化していくものと思われる。

 一方で、利益の増加要因として各社が挙げているのは原価低減である。今年
度の原価低減額は、 公表している各社平均で見て、営業利益に対し+27.3 %
の増加要因となる見通しだ。(原材料価格高騰を原価低減とネットして表記し
ている会社や別立てしている会社などあり、各社定義が異なるため一概には言
えない)

 しかし、前述したように為替変動は営業利益に対し▲33.5 %の影響を与える
見通しであり、為替影響のマイナスを原価低減努力でも吸収できない事態が想
定されている。この傾向は、今年度から想定されていることではなく、昨年度
の実績としても、為替影響によるマイナス額が原価低減額を上回っている。
   
【グローバル化の進展】

 為替影響の低減や原価低減にも繋がる可能性のある手段として、海外への生
産移転が考えられる。

 震災以前から国内生産は 五重苦の状態にあると言われていた。(1)前述して
きた為替、(2)高い法人税、(3)高い人件費や流動性に制約のある労働環境、
(4)厳しい CO2 削減目標などの環境制約、(5) EPA など競争国より締結が
遅れており不利な交易条件である。

 上記に加え、国内需要低迷などの要因もあるが、実際に、5年前と比較して各
自動車メーカー(富士重を除く)の国内生産台数は減少している。例えば、ト
ヨタの国内生産台数は 06年の 419 万台から 10年には 328 万台に減少し、日
産は 06年の 123 万台から 10年には 113 万台に減少し、ホンダは 06年の 133
万台から 99 万台に減少している。

 更に今回の震災により電力不足や電気料金の値上げが起こり、上記の五重苦
に、電力供給制約が加わり 六重苦とさえ言われている。

 自動車業界はもとよりグローバル化を進めており、現在、国内に残している
生産拠点は、移転が困難か、移転すべきではないものもあるかもしれない。ま
た、国内空洞化との兼ね合いという難しさもある。

 トヨタのように、トヨタ車体と関東自動車を完全子会社化し、関東自動車に
ついてはセントラル自動車とトヨタ自動車東北と合併するといった、国内生産
の競争力を維持するための取り組みも進んでいくであろう。

 一方で、上記の 六重苦に加え、災害発生時のリスク対応という観点なども考
えれば、可能なものから、海外への生産移転を検討することも進んでいくと思
われる。例えば、日産は中国で現在日本から輸出しているインフィニティ・ブ
ランドの現地生産を検討し、トヨタやホンダも従来は移転が困難とされたハイ
ブリッド車の基幹部品の海外生産を検討しているという報道もある。

 そうしたグローバル化を進展する際に、課題の一つになるのが、システムの
データ連携である。海外に拠点や機能が分散していくと、経営判断に必要な情
報をアウトプットするまでの時間と手間が増大することが想定される。

 弊社親会社のアビームコンサルティングでは、上記の課題に対して、インメ
モリデータベースを活用したソリューションを提案している。ご興味のある方
はご一報頂ければ幸いである。

<宝来(加藤) 啓>