カーシェアリング事業の課題について

今回は、「カーシェアリング事業の課題について」をテーマとした以下 4 問の
アンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=5592

 ・「日本でのカーシェアリングの普及について」
 ・「ステーションの重点設置エリアについて」
 ・「重点的に投入すべき車種について」
 ・「自動車業界がカーシェアリング事業に期待することについて」

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【国内カーシェアリング市場の現状】

 近年拡大を継続してきた国内のカーシェアリング市場であるが、ここ 1年で
その普及スピードが加速してきている。交通エコロジー・モビリティ財団の調
査によれば、2011年 1月時点で以下の通りとなっている。
 
[会員数]    :73,224 人 (昨対比 4.5倍)
[車両台数]    : 3,911 台 (同 3.0 倍)
[カーシェアリング車両ステーション数] : 2,917 ヵ所(同 3.4 倍)
 
 今後、国内カーシェアリング市場は、どこまで普及するのであろうか。弊社
のメールマガジンの読者の皆様(自動車業界関係者が中心)を対象に実施させ
て頂いているアンケートにて、先月は「カーシェアリング事業の課題について」
というテーマでご回答を集計させて頂いた。

 まず、「今後 10年間(2020年前後)でカーシェアリングはどこまで普及して
いるか」という質問をお伺いした。結果は以下の通りであり、「今後 10年間で
10 万人~ 20 万人程度、もしくはそれ以上に増加する」と回答された方が 60
%を占める形となった。
 
[今後 10年間(2020年前後)での日本における会員数の増加見込み]
 ・「会員数 10 万人程度」   :27 %
   ※現状の 7.3 万人から大きく増加しない水準

 ・「会員数 10 万人~ 20 万人程度」  :26 %
   ※20 万会員は[会員数 / 人口]=0.16 %で現状のアメリカに近い水準
          
 ・「会員数 20 万人~ 30 万人程度」  :16 %
   ※30 万会員は[会員数 / 人口]=0.23 %で現状のカナダに近い水準

 ・「会員数 30 万人程度以上」   :18 %
   ※スイス程ではないが[会員数 / 人口]で現状の他先進国より高い水準
         
 ・「その他」     :13 %
 
  
 現行の会員数 7.3 万人(前述の交通エコロジー・モビリティ財団の調査、2011
年 1月時点)の内訳は、オリックス、タイムズ 24 の上位 2 社で約 75 %を占
める構造となっている。この 2 社が公表しているその後の情報と比べるとと、
以下の通り着実に会員数を伸ばしてきている。

     
[オリックス]  調査時点   24,000 人  (2010年 9月) 
                         最新       30,000 人 (2011年 3月)
[タイムズ 24]  調査時点   29,719 人  (2011年 1月) 
                         最新       50,000 人超(2011年 7月)
 
 カーシェアリングサービスは交通インフラの一つの形と捉えることもできる
が、この種のインフラサービスは、拠点数・設置台数が増えると利便性が更に
高まり、会員数が増加するという規模の経済を活かした好循環が生まれる形も
想定される。これまでの傾向を踏まえると、今後 10年においても引き続き右肩
上がりで拡大し、将来的には会員数が 20 万、30 万人というレベルになること
も想像できる。 
 
【更なる普及に向けた経営資源の有効配分】

 継続して拡大するカーシェアリング市場の中で、業界プレイヤーとしては、
限られたリソースを如何に効率的かつ効果的に配分し、普及促進とシェア拡大
を図ることができるかが課題であると考えられる。

 そのような観点から、「重点的にステーションを設置すべきエリア」、「重
点的に投入すべき車種」についてそれぞれアンケートを実施してみた。
 
[重点的にステーションを設置すべきエリア]
 ・「小規模商業エリア」 :20 %
   ※コンビニや駅前商店街など

 ・「中・大規模商業エリア」 :15 %
   ※ショッピングセンター / ホームセンター / 家電量販店など

 ・「住宅エリア」  :32 %
   ※宅地付近 / マンション施設内など

 ・「公共施設エリア」  :14 %
   ※病院 / 大学の敷地内など

 ・「観光エリア」  :18 %
   ※ホテル / 駅 / 空港 / 観光施設など

 ・「その他」   : 1 %
 
  
[重点的に投入すべき車種]
 ・「コストを重視した軽自動車、小型車」  :25 %

 ・「環境意識を重視したクリーンエネルギー車」  :16 %

 ・「ステーションで充電ができるEV(ガソリン不要)」 :22 %

 ・「ショッピングや大人数での移動等、積載量や乗員数
        に余裕があるミニバン、SUV、ワゴンなど」 :19 %

 ・「ステータスを重視したプレミアム車」  :15 %

 ・「その他」      : 3 %
 
  
 今回の読者の皆様を対象に実施したアンケート調査とは別に、弊社は昨年秋
にカーシェアリングユーザーを対象にしたアンケート調査(以下)も実施して
いる。

 ■調査時期:2010年10月
 ■調査対象:プライベート、ビジネスで現在、カーシェアリングを利用して
       いる人、もしくは過去に利用していた人、517名
 ■調査地域:東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、三重、大阪、京都、兵庫
 ■調査手法:インターネット経由でのアンケート調査
 (詳細は  https://www.sc-abeam.com/sc/?p=1798  を参照ください。)
 
 このユーザー側調査でのアンケート結果と、今回の業界側(自動車業界関係
者が中心を占める読者の皆様)調査での結果を比較すると、以下のような形と
なる。

         [自動車業界側]            [ユーザー側]
 [エリア]  1.住宅エリア         1.小規模商業エリア
         2.小規模商業エリア        2.中・大規模商業エリア

 [車種]   1.軽・小型車             1.軽・小型車
         2.EV              2.ミニバン・ワゴン等
 
 自動車業界側からは「住宅エリア」が票を集めたのに対して、ユーザー側は
駅前やコンビニ等の「小規模商業エリア」を選択された方が多くを占めた。

 この違いは、これまで首都圏を中心とした住宅エリアにステーションが一定
数増設されてきたという背景などの地域特性の違いが表れたものと考えるが、
ユーザーが想定する利用シーンの違いというのも一つの要素として考えられる
のではないだろうか。

 例えば、コストを重視するユーザーが、時間・距離料金の低減を図る為に、
ある程度のところまでは公共交通機関を利用した上でカーシェアリングを併用
しているという形も出てきている。オリックスは、2年前から都営地下鉄と提携
して、併用型に備えた拠点も整備している。観光地で見られるパーク&ライド
と対象的な形であるが、集客力があるけど公共交通機関では行きにくい施設・
エリアでは、こうした形が受け入れられる可能性は高い。

 また、「業務上の移動・運搬」というビジネス利用においても、駅前などの
小規模商業エリアへのステーション設置が望まれている。ホームセンター・家
具等の大きな商品の買い物などでは、一般ユーザーでも同様のニーズがあると
想定される。

 車種については、業界側・ユーザー側共にコストを重視した軽・小型車が 1
位となったが、2 位では、ユーザー側は積載容量の大きいミニバン・ワゴン等
となった。これはステーション設置希望エリアでユーザー側が「中・大規模商
業エリア」を選んだこととも関係が深いと想像する。

 いずれにしても、多様化するユーザーの中でスイートスポットとなる利用パ
ターンを見出していくことが効率化につながるはずである、そのためにも様々
なパターンの検証を各社が進めている。なかなか簡単なことではないが、試行
錯誤を経て、勝ちパターンを見出し、適正にリソースを配分することができれ
ば、更に普及が加速する可能性もある、と考えている。
 
【利用パターンと事業戦略の検討について】

 この利用パターンを考える上で、ユーザー側の動向について、もう少し触れ
ておきたい。

 前述のユーザー側を対象に実施した弊社アンケート調査では、「ユーザーがカ
ーシェアリング利用開始時に重視した点」として、以下の順番で優先的に考え
ているという結果を得ている。

 1.利用料金
 2.自宅、もしくは勤務先からの貸し出し場所までの距離
 3.使いたい時間に予約が取れそうかどうか
 
 また、ユーザーが今後カーシェアリングサービスに期待することとしても、
「利用料金の引き下げ」を望む声が大きい。事業者の採算面では現時点におい
ても非常に厳しい状況が続いており、簡単ではなかろう。

 前述の通り、カーシェアリング事業は一種の交通インフラ事業であり、一定
台数・拠点・会員数まで普及しないと黒字化しないというのが定説と考えられ
ている。つまり、事業のステージで考えると、初期段階では、「ユーザーの交
通手段の選択肢の一つ」として認知されることを目的に、採算面が厳しくとも、
先ずは規模を追うことが戦略となる。

 一方で、また、単純に会員数を伸ばせば良いという話ではない。他国の事例
であるが、米国 Zipcar は会員数 約 32.5 万人(2009年時点)という規模を持
ちながらまだ赤字体質から脱却できずにいる。どこまで事業拡大すれば黒字化
できるか、明確な答えがあるわけでもないのが現状かもしれない。

 一方で、これだけの会員数に拡大してくると、この顧客基盤を活用した他の
製品・サービス展開も検討可能になってくるであろう。そうした組合せの中で、
利用料金低減が図れれば、更に普及を促進できるはずである。

 また、大多数のユーザー層に向けたサービス展開だけでなく、ニッチなエリ
アの中でのサービス展開も検討が必要であると考える。一定範囲内で利用者と
拠点・車両が循環するクローズ型も採算が取れる可能性がある。都市部の高層
マンションにカーシェアリング拠点を設置することで、駐車スペースを縮小し、
販売・賃貸戸数を増やしたり、緑地化に使用するという形は既に始まっている
が、今後、高齢化が進み、クルマの保有が減少していく既存の住宅地区などでも
カーシェアリングの活用余地があると考える。

 また、将来的なモビリティの多様化をとらえれば、シェアリングサービスす
る対象に電動アシスト自転車や原動機付き、または電動バイクなどの二輪車、
乗用カート、シニアカーなどを検討していくことも面白いかもしれない。例え
ば、都市部のマンションでは一世帯に割り当てられる自転車の駐輪数が決まっ
ていたり、都心部の戸建てで、家族全員分の自転車置き場を確保するのは難し
いという事情もあり、そこにもニーズはあるのではないであろうか。
 
【自動車業界がカーシェアリング事業に期待すること】

 このように日本におけるカーシェアリング市場は拡大を継続しており、今後
もその傾向が続くとの見方が大筋である。自動車業界にとっては、クルマの利
用形態として改めて取り組み方を考えるべきであろう。

 今回の読者の皆様へのアンケートの中で、自動車業界がカーシェアリング事
業に期待することについてもご質問させて頂いている。

[自動車業界がカーシェアリング事業に期待すること]
 ・「クルマへの興味の向上」   :37 %
   手軽にクルマに触れられる機会を提供することで、若者を中心としてこ
   れまでクルマに興味がなかった消費者に対して興味・所有欲の向上を図
   り、将来の新車販売促進に繋げる。

 ・「国内新車販売台数減少幅の縮小」  :18 %
   個人向け販売が伸び悩む中、カーシェアリング事業向け販売台数を確保
   することで国内新車販売台数減少幅を抑える。

 ・「モニターとしてのユーザーの生の声を吸収」 :17 %
   ユーザー特性や利用者の生の声を提供して貰い、今後の車両設計・開発
   に活かす。

 ・「カーシェアリングが普及しないことを期待」 :15 %
   国内新車販売台数減少を加速させることになるので、カーシェアリング
   が普及しないことを望んでいる。

 ・「その他」     :13 %
 
 これまで、自動車製造・販売に携わる方にとってはクルマの販売と競合する
との観点から、必ずしもカーシェアリングがポジティブには受け止めてこられ
なかったという見方も存在している。

 然しながら、今回の結果では圧倒的に「クルマへの興味の向上」が選択され
た。これは、劇的に会員数が増加しつつあるカーシェアリングとの共生を図ろ
う、寧ろ活用していこうという潮流ができつつあるのではないだろうか。

 例えば、今夏( 7月:東京、、8月:大阪)にタイムズ 24 (パーク 24)と
BMW が、MINI の展示・試乗会と、タイムズ 24 が手掛けるカーシェアリングサー
ビスの入会促進を目的としてプロモーションイベントを共同で行うなどの事例
が出てきている。

 また、宮城県石巻市などの仮設住宅に住む被災者間でクルマを共同利用する
被災地版カーシェアリングの試みがなされている。見知らぬ者同士で気兼ねし、
利用は低調という報道があるが、クルマの共同利用を通じての地域コミュニテ
ィの形成・活性化というのも今後期待されるところであろう。被災地に限った
ことではなく、都心部においても地域コミュニティ形成の一助になるかもしれ
ない。

 このように事業規模の拡大に合わせて、周囲からのカーシェアリングに寄せ
られる期待や担うべき役割も大きなものとなっていくことが今後も見込まれる
のではないであろうか。

                                                                                                 

<横山 満久>