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部品共通化が自動車産業に与える影響とその対応
今回は、「部品共通化が自動車産業に与える影響とその対応」をテーマとした
以下 4 問のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/enquete/5666.html
・「部品共通化が進展していく領域について」
・「部品サプライヤーが、最も独自性を打ち出しやすい部品領域について」
・「部品共通化を推進していく中で最も障壁になると思われる項目について」
・「部品共通化に基づく、バックアップサプライチェーンの構築について」
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経済産業省が主導している「日本経済の新たな成長の実現を考える自動車戦
略研究会」では、今後の自動車産業の目指すべき方向性の一つとして、「強靭
なサプライチェーンの再構築」を挙げている。
部品共通化の取り組みは、この中の項目の一つとして挙げられている。具体
的には、汎用性の高いゴムや樹脂などの素材を中心として、自動車メーカーの
枠を超えた共通化の検討が開始されている。対象部品の範囲拡大も検討されて
おり、2~ 3年後までには具体化を目指す。
部品共通化の活動は、コスト削減や開発工数の削減などを主目的とし、従来
より推進されてきたが、自動車メーカーの枠を超えた業界全体での取り組みは
従来と異なる活動である。
【共通化が進展していく領域と独自性を打ち出しやすい領域】
上記経済産業省の動きは、国としての一つの活動(指針)であるが、現実的
にどのような領域で部品共通化が進展していくと思われるか、を皆様にお聞き
した結果は以下のようになった。
・「自動車メーカーの枠を超え、領域を設けずあらゆる部品で
共通化が進展していく」 :26 %
・「自動車メーカーの枠を超え、「走る・曲がる・止まる」といった
基本性能の領域において部品共通化が進展していく」 :17 %
・「自動車メーカーの枠を超え、基本性能には関わらない
素材などの領域で部品共通化が進展していく」 :40 %
・「現実的には自動車メーカーの枠は超えられず、
自社内での部品共通化に留まる」 :17 %
自動車メーカーの枠を超えて共通化が進展していくと回答された方が 合計で
8 割を超え、基本性能には関わらない素材などの領域で最も進展していくと回
答された方が最も多く 4 割に上った。また、あらゆる領域で進展していくと回
答された方も 1/4 を超えた。
経済産業省が唱えるように、まずは業界主導の下で汎用性の高い領域から着
手されていくと思われるが、実務レベルにおいては、あらゆる部品において、
(競争力の確保は前提に)自動車メーカーの枠を超えた検討がなされる可能性
がある。
また、最も独自性を打ち出しやすい(競争領域において、差別化を明確にで
き競争力を発揮しやすい)部品領域をお聞きした結果は下記のようになった。
・「エンジン部品」 : 27 %
・「駆動、伝導部品」 : 13 %
・「操縦、懸架、制動部品」 :14 %
・「内装部品」 : 21 %
・「外装部品」 : 12 %
・「電装部品」 : 9 %
・「その他(電気自動車関連部品 など)」 :4 %
ほぼ全ての部品領域で 10 %から 20 %前後となった。この数値の比較は、
各領域における「共通化が難しい構成部品率」の相対比較ともいえよう。(あ
くまでも、相対的な目安として。)
各車両の部品構成は部品構成表(以下、部品表)で定義されている。製造/
設計/購買用と種々存在するが、設計用の部品表を例にとった場合、自動車メー
カーの部品表は、上記部品領域毎に何百行にもなる。
全く異なるクラス(セグメントやプラットフォームなど)の車種が複数存在
すれば、それぞれの車両に求められる特性が全く異なる事から、上記選択肢に
あるような各部品領域の最上位レベルの品番群は当然異なる。
ご存知の方も多いと思われるので詳細は割愛するがこれは、最上位レベルの
品番群を構成する複数の部品群や、それら部品群を構成する各部品のどれかが
異なっているからである。尚、外注品の構成部品に関しては、サプライヤー側
の部品表に記載される。
部品共通化の活動とは、上記選択肢にあるような各部品領域において、どの
構成部品レベル(段階)で他車との共通化が可能かを探る活動である。
上記アンケートの結果は、どの部品領域においても各構成部品レベルで、他
車の類似構成部品群との共通化検討を、今後も更に実施していく必要がある事
を指し示している。
【共通化推進の中で最も障壁になると思われる項目】
従来より検討されてきた部品共通化を更に推進していくにあたって、最も障
壁となると思われる項目は何だろうか。アンケート結果は以下のようになった。
・「自動車メーカーが、自社製品の中で独自性を発揮する領域を
明確化する事」 :32 %
・「自動車メーカーが、要求性能を競合自動車メーカーへ開示する事」
:22 %
・「自動車メーカーが、要求性能を競合自動車メーカーと統一化する事」
:19 %
・「部品サプライヤーが、保有する複数仕様を統一化する事」 :12 %
・「部品サプライヤーが、全供給先における統一要求性能を
満足する「汎用品」を生産する事」 :12 %
・「その他」 :3 %
3 割強の方が、「自社製品の中で独自性を発揮する領域を明確化する事」が
最も障壁になると回答され、「要求性能の開示・統一化」を選択された方も合
計で 4 割を超えた。
<独自性を発揮する領域とは>
先ほど全ての部品領域における各構成部品レベルで、共通化の検討が更に実
施されていく可能性があると述べたが、これは言葉で言う程容易ではない。自
動車の開発では、各部品領域のみで話を進める事がほとんど出来ないからであ
る。
お客様に提供出来る車両仕様(訴求ポイント)を増やせば増やす程、各車両
へ要求される特性も増える。即ち「独自性」の要求される領域が増える事にな
る。また、国によっても気候/路面などの環境条件や、使われ方/走り方など
の使用条件が全く異なり、要求される特性は異なる。
仮に、ベース車両(A 車とする)に対し、サンルーフを装着し開放感を「ウ
リ」にしたいという開発車両(B 車とする)があったとする。このような変更
は「モデルチェンジ」レベルではなく、「マイナーチェンジ」レベルの話であ
る。※サンルーフ自体は独自性を発揮する領域として新規開発とする。
この場合、サンルーフ装着時の車両重量増加に伴い、様々な部品を変更しな
くてはならない可能性が出てくる。車両走行性能や制動性能、燃費性能などの
各種性能や、スイッチ・配線などの電子・電気部品も変更或いは追加の検討が
必要となる。
A 車から B 車へ変更が必要な部品をもし「独自性がある」と定義するのなら、
「独自性のある」部品点数は芋蔓式に増える(増やさざるを得ない)可能性が
ある。
このように、1 つの部品(群)を変更或いは追加しただけでも、確認項目は
何百点にも及ぶ。「ウリ」とは関係の無いと思われるような領域からも、「独
自性のある」新設部品が生まれてくる。
これはまた、「逆も真なり」である。1 つの部品(群)を共通化すれば、こ
れに影響を受ける様々な要素(他部品や車両性能)の確認が必要となる。
これこそがまさに、摺り合せ型の開発体系をもつ自動車開発の難しさであり、
「独自性」を発揮する領域を、車種別においてでさえも明確化する事が難しい
所以である。
<要求性能の開示・統一化>
特に外注部品の場合、最も共通化の障壁となるのが、4 割以上の方が選択さ
れたこの項目であろう。部品の要求性能は、過去から脈々と築き上げられた知
見の賜物である。技術的根拠の他に、歴史的根拠(不具合経験など)が積み重
なっており、全てを競合他社へ開示可能かと問われれば、ムリと判断せざるを
得ない。
また、部品の要求性能には「単品要求性能」の他に、「車両装着時の要求性
能」が伴うケースもある。これは、同一機能部品でも、対象車両によって要求
性能が異なるケースである。このような部品に対しては、自動車メーカー内に
おいてまず、要求性能数(項目数ではなく、各項目における要求値の階層レベ
ル)の削減を検討していく活動が有用であろう。
しかし、このような部品は、そもそも「独自性」を発揮しなければならない
領域であり、部品共通化は進まないかもしれない。本ケースにおいては、その
構成部品レベルで、同じようにして Tier1 と Tier2 による共通化推進活動が
展開される事になる。
どの構成部品レベルにおいて、共通化の検討を実施するのかを、各部品/素
材業界主導の下で、自動車メーカー/サプライヤー横断的に決定/推進してい
く事が求められるのではないかと思われる。
<サプライヤー側での仕様統合>
仮に、部品サプライヤーが複数の自動車メーカーから同一機能部品を受注し
ているケースでは、サプライヤー内で各自動車メーカーの要求性能を横並びで
比較する事が出来る。
このような複数の自動車メーカー/車種への要求をうまくカバーしているの
が、供給部品のシリーズ化・標準化という考え方である。勿論全ての部品にそ
の考え方が当てはまるものではないが、例えば最も馴染みやすいのはタイヤサ
イズであろう。国際的な規格として決められており、良く耳にする 14 インチ、
15 インチというあのサイズである。
サプライヤーには、それぞれ強みを発揮する基盤技術があり、それを基に構
成される製品は、様々な車種に対応出来るよう、シリーズ化が図られているケー
スが多い。性能面であったり、規格面(サイズ/質量/コストなど)であった
りと、様々なシリーズ化が実施されている。
とはいえ、自動車メーカーへの最終納入仕様としては、例えば取付け形状が
車種によって異なる(以下、「調整要素」と呼ぶ)など、同一化は難しいであ
ろう。
しかし、このような基盤技術の範囲(シリーズ化対象範囲)と、自動車メー
カー/車種別の「調整要素」の範囲とを今一度見直し、基盤技術の範囲を拡大
していくような提案を、部品サプライヤーから自動車メーカー側へ実施する事
は、今後のコスト競争力という面からも非常に重要な活動であると考える。
先月、デンソーがカーエアコンやメーター、スターターなどの主力製品で種
類(品番数)を半減する活動に乗り出した。そもそものシリーズ数削減という
活動の他、車種毎に異なる「調整要素」の部分を自動車メーカー側に削減依頼
するという活動も含まれていると思われる。
【部品共通化に基づく、バックアップサプライチェーンの構築】
今まで部品共通化への動きと難しさについて述べてきたが、今一度原点に戻
りたい。今回、電子部品供給が寸断され、多くの自動車メーカーの生産に支障
が出たのは「専門性の高い部品の調達先/生産拠点が一極集中していた事によ
って、代替が出来なかった事」である。
そこで、部品共通化に基づく、バックアップサプライチェーンの構築に関し
て重要だと思われる項目を皆様にお聞きした結果、以下のようになった。
・「自動車メーカーにおける、代替調達可否部品の一覧化」 :35 %
・「自動車メーカー主導による、部品サプライヤー間
共通領域の「見える化」」 : 28 %
・「自動車メーカー主導による、部品サプライヤー間での生産融通取り決め」
:19 %
・「自動車メーカーにおける、代替調達ルートの策定・確保」 :13 %
・「自動車メーカーにおける、代替調達方法の構築」 : 4 %
・「その他」 :1 %
「自動車メーカーにおける、代替調達可否部品の一覧化」を選択された方が
最も多かった。今回の震災から得られた大きな教訓の一つとして、下位レベル
の構成部品におけるサプライヤー/生産工場(場所)特定や、特定後の代替可
能性検討期間の短縮が挙げられる。多くの方が、その必要性を感じている事の
現れであろう。
トヨタは今回の事態を踏まえ、約 7,000 社にも上る Tier3 、Tier4 までの
サプライヤー調査を今後実施していくと報道されている。おそらく、まさに代
替調達可否部品の一覧化を目指す活動の一環なのであろう。
部品共通化活動と共に並行で推進すべきは、このような代替可能性の検討活
動である。共通化不可能と即判断されるような部品群は、すぐにでもこの活動
に着手しているものと思われる。
また、現在開発中の車両に対しては、このような検討活動が、出図時や監査
時などに要確認項目として織込まれる事も想定される。「サプライヤー構成表」
なる書類を作成し、構成部品全てに対するサプライヤー名称・製造工場・代替
可能度(対象サプライヤーの別工場での代替や、他サプライヤーでの代替可能
性など)を明記するようなイメージだ。
但し、機密性の高い情報であった場合には、納入先に開示出来ないケースも
あろう。そういったケースでは、サプライヤー側で代替調達などのリスク管理
体制を保証するなどの、ルール化も必要になってくる。
このような活動は、自動車メーカー単独で実施出来る活動ではなく、サプラ
イヤーの協力も必要となる。構成部品点数が多ければ多いほど、多階層になれ
ばなるほど、非常に工数がかかる。部品共通化の検討も今まで以上に推し進め
るとなれば、尚更である。
最後に、部品共通化の推進に際し、留意しなければならない点が 2 つある。
1 点目は、部品共通化による影響度(影響範囲)の拡大だ。同一部品の幅広
い採用により、もし仮にこの部品に設変が入ったら、非常に多くの車両に影響
を及ぼすという事である。不具合に起因する場合は勿論のこと、部品サプライ
ヤーが、より性能を向上させた改良品を織り込みたい場合でも同様である。
2 点目は、サプライヤーの競争力確保を大前提とする事だ。過度に共通化を
進めてしまえば、サプライヤーの技術力や製造力、商品力が低下してしまうか
もしれない。
確かに強靭なサプライチェーンは重要だが、これらの留意点を全く無視して
しまえば、日本の自動車業界の競争力を失いかねない。
<川本 剛司>