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固定費構造変革の実行力が求められている国内新車流通
『固定費構造変革の実行力が求められている国内新車流通』
◆ダイハツ「ミラ イース」、同社新車で最高の受注
<2011年10月06日号掲載記事>
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【ダイハツ「ミラ イース」好調な滑り出し】
ダイハツの「ミラ イース」は、ご存知のとおり JC08 モードで 30km / L(2WD
全グレード) を達成した低燃費ガソリン車である。価格も最廉価グレード(D)
で 80 万円をきり、量販グレード(X)でも 100 万円をきる設定となっている。
標準装備などの違いはあるが「ミラ(X 2WD CVT)」の 95 万円・ 24km /
L (10 ・ 15 モード)に対して「ミラ イース(X 2WD CVT)」は 99.5 万円・
32km / L (10 ・ 15 モード)と低燃費化による価格上昇が限定的であり、同
車はエコロジーとエコノミーのバランスが取れた商品といってよいだろう。
販売店からは室内空間の広さや内装の質が顧客ニーズとマッチしていないの
ではないかという声も聞かれるが、発売後 2 週間の受注台数は約 25,000台
(月間販売目標 7,000台の 3.6 倍相当)と、ダイハツがこれまで発売した新車
の中で最も好調な滑り出しとなっている。
【国内市場は「軽高登低」】
好調な滑り出しとなった背景には、環境対応車という観点だけではなく、軽
自動車という観点もあるだろう。改めてではあるが、国内市場はいわゆる「軽
高登低」の傾向が続いている(昨年はスクラップ・インセンティブ制度の影響
で一時、弱まったものの)。
各自動車メーカーの動きも活発である。トヨタがダイハツから OEM 供給を受
け軽自動車市場に参入、日産と三菱は軽自動車の商品企画とエンジニアリング
を共同で行う合弁会社を設立など、各社とも合理化を図りながら軽自動車の強
化策を打ち出している。
昨年度の総新車販売台数に占める軽自動車の比率は 35 %であったが、今後、
更に高まっていく可能性も考えられる。軽自動車化への傾倒は自動車メーカー
や販社の収益を圧迫することに繋がりかねないため、自動車メーカーが合理化
を図りながら進めているのは上記のとおりである。もう一方の販社側ではどの
ような対策が考えられるだろうか。軽自動車比率の高まりが販社の収益構造に
与える影響から考えていきたい。
【販売会社の収益構造比較】
以下は、日本自動車販売協会連合会(自販連)が発刊している「第 64 回
(平成 23年 3月期)自動車ディーラー経営状況調査報告書」から販売会社 1
社平均の状況を抜粋したものである。
登録車販売が中心の販社と軽自動車販売が中心の販社を比較するため、乗用
車店*1 と軽四輪併売店*1 の 1 社平均を記載する。
*1
乗用車店:トヨタ、日産、ホンダ系などの販売会社
軽四輪併売店:ダイハツ、スズキ、旧オートザム系の販売会社
全体感から見てみると、売上高、粗利、営業利益のいずれも額としては軽四
併売店の方が大きい一方、率で見ると、粗利率では乗用車店の方が高く、営業
利益率では軽四併売店の方が高い。
単位:百万円
乗用車店 軽四併売店
売上高合計 11,421 12,655
売上総利益(粗利)合計 2,578 2,672
営業利益 261 354
粗利率 22.6% 21.1%
営業利益率 2.3 % 2.8%
軽四併売店の方が、そもそもの売上高規模からして大きいのは(取り扱い車
両の価格が低い軽四併売店の方が小さくても寧ろ自然と考えられる)、本調査
が自販連に加盟している販社を対象にしたアンケートに基づくものであり、軽
四併売店に含まれる規模の小さい、いわゆる業販店からの回答が少ないことの
影響があると思われる。(統計に偏りがある可能性はある)
上記のような前提はあり規模の大きさが率にも影響を与えている可能性はあ
るが、以降では両社の収益構造の違いを見ていきたい。まず、粗利の構成比を
見てみると、軽四併売店の方が新車ビジネスへの依存度が高いことがわかる。
単位:百万円
乗用車店(粗利構成比) 軽四併売店(粗利構成比)
売上総利益(粗利)計 2,578 2,672
新車粗利 717(27.8%) 823(30.8%)
中古車粗利 268(10.4%) 254( 9.5%)
サービス・部品粗利 956(37.1%) 962(36.0%)
車両手数料 102( 4.0%) 254( 9.5%)
その他手数料等 535(20.8%) 379(14.2%)
新車販売台数の年間計画達成などで自動車メーカーから支払われる車両手数
料(インセンティブ)を新車ビジネスとして捉えて合算すると、軽四併売店で
は、新車ビジネスの粗利構成比が(サービス・部品ビジネスの粗利構成比を上
回り)一番となる。
新車ビジネスの内訳を見てみると以下のように、やはり軽四併売店の方が台
粗利は低く自動車メーカーが車両手数料で下支えしている状況がうかがえる。
乗用車店 軽四併売店
新車売上高 6,914百万円 8,090百万円
新車粗利 717百万円 823百万円
台粗利 204千円 107千円
台数 3,510台 7,714台
新車粗利率 10.4% 10.2%
車両手数料合計 102百万円 254百万円
台当車両手数料 29千円 33千円
新車粗利率(車両手数料含む) 11.7% 12.9%
一方で、新車粗利率は乗用車店とほぼ同等になっており、車両手数料を含め
た新車粗利率では軽四併売店の方が高い。
(経年変化の記載は割愛するが)新車粗利率を経年で見ていくと、軽四併売
店では、9 %台前半の水準から 10 %台に改善してきており、製品面での原価
低減や販売面での値引き抑制などによる効果と思われる。乗用車店の新車粗利
率は 10 %台で横ばいであり、もちろん軽四併売店と同様の取り組みは行われ
ていると思うが、例えばハイブリッド車ブームで「クラウン」の顧客が「プリ
ウス」に流れ利益を圧迫しているという声に代表されるように、小型車への傾
倒よる車種ミックスの変化で結果としては改善が見られていないものと考えら
れる。
車両手数料を含めた新車粗利率を経年で見ていくと、かつては乗用車店と軽
四併売店は同様の水準であったが、ここ数年、乗用車店の車両手数料が減少傾
向にあり、現在では軽四併売店の方が高くなっている。
また、新車ビジネス以外の粗利率は以下のとおりであり、前述した乗用車店
の方が全体の粗利率が高くなった要因は中古車ビジネス(及びその他手数料等)
にあることがうかがえる。
乗用車店 軽四併売店
中古車粗利率 18.6% 14.8%
サービス・部品粗利率 42.0% 44.0%
乗用車店の方が中古車ビジネスの粗利率が高い一因として考えられるのは、
中古車の小売比率が高いからだと思われる。ご参考まで以下は 1 社平均の中古
車販売台数内訳である。
乗用車店 軽四併売店
中古車販売台数計 2,626 3,326
小売台数 978 933
AA等への卸売台数 1,648 2,393
中古車小売比率 37% 28%
乗用車店の方が小売比率が高いのは、軽四併売店に比べて中古車の大規模展
示場を抱えており、一物一価と言われる中古車の現物を多く有しているからで
はないだろうか。
しかし、一方で、中古車展示場など施設の大きさや設備の質の高さは固定費
の増加に繋がる。詳細は更なる調査が必要であるが、営業利益率(乗用車店:
2.3%、軽四併売店:2.8%)が軽四併売店の方が高くなる要因は、施設費や人
件費の低さにあると思われる。
【軽比率の高まりが販社の収益構造に与える影響】
今後、乗用車店で更に軽自動車の販売比率が高まった場合に、販社の収益構
造に与える影響を考えてみたい。
新車ビジネスでは、軽自動車販売の注力により他社に流出していた販売台数
を獲得できなければ、新車粗利額の低下が懸念される。実際のところ、現在で
も乗用車店で軽自動車を取り扱っている販社は多く、新規参入と言われるトヨ
タでも、従来からダイハツやスズキ車の仲介販売を行っており、軽自動車の参
入により、今後、大きく新車販売台数を拡大させることは難しいのではないだ
ろうか。また、粗利率でも前述したような軽四併売店と同等の水準を確保する
ためには、製品面・販売面での工夫が必要であろう。
新車以外のビジネスでは、特にサービス・部品ビジネスでの粗利額の低下が
懸念される。軽自動車の購入層は価格志向の顧客が多いことが想定され、例え
ば車検時に法定以外の整備は行わないことや、そもそもの入庫率という点でも
割安の車検チェーンへ流出してしまう可能性がある。
粗利の絶対額が縮小していく中では、固定費の構造変革がより重要になって
いくと思われる。例えば、固定費負担の重い大規模店舗は需要の中心地域に配
備し、それ以外の地域では固定費負担の軽い店舗網を構築することなどである。
(詳細は以下を参照頂ければ幸いである)
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=3621
こうした販社の固定費構造の変革は、かつてから業界内で構想されてきたこ
とである。しかし、既存の販売網との兼ね合いもあり実行に移してこれなかっ
たのではないだろうか。
異業種ではあるが、化粧品業界では一部のブランドが SC (ショッピング・
センター)での販売を売り場の一角で複数ブランドを取り扱う形態で始めると
いう。百貨店での専売ブースを中心とした販売形態の中で、具体化にあたって
は既存のステークホルダーとの利害関係調整やメーカーのリスクテイクなどが
あったに違いない。
もちろん自動車業界とは製品特性や流通領域での力関係など異なる部分もあ
ろうが、これまで語られてきた構想を具体化していく実行力が求められている
と考える。
<宝来(加藤) 啓>