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電動コミューターについて
今回は、「電動コミューターについて」をテーマとした以下 3 問のアンケート
結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6130
・「電動コミューターによる移動手段の代替について」
・「電動コミューターの利用シーンについて」
・「電動コミューターに求められる機能・性能について」
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【日本における電動コミューターの位置づけ】
既に日本では高齢化、単身化、都市化といった社会現象が進んでいるが、今
後より一層進展していくことが予想されている。
2010年 2030年
[総人口] 12,806 万人 → 11,662 万人
[高齢者の割合] 23.0 % → 31.6 %
[単身世帯の割合] 31.2 % → 37.4 %
[都市人口の割合] 66.8 % → 73.0 %
※高齢者の割合…総人口に占める65才以上の人口割合
※都市人口の割合…国で定められた人口集中地区(DID:Densely Inhabited
District)に住む人口割合
(出典: 国立社会保障・人口問題研究所、国連)
そうした日本にとって電動コミューターは新たな移動手段として研究・開発
が進んでいる。
弊社メルマガ読者の皆様に「電動コミューターが代替する従来移動手段はど
れか」について伺ったところ、集計結果は以下の通りとなった。
[電動コミューターによる移動手段の代替]
・「自転車」 :30 %
・「徒歩や車椅子」 :27 %
・「乗用車(軽自動車含む)」 :19 %
・「自動二輪車」 :14 %
・「バス・タクシー」 : 6 %
・「電車」 : 1 %
・「その他」 : 3 %
電動コミューターによる移動手段の代替は、従来の「自転車」での移動部分
において最も進むとの回答結果となった。次点では「徒歩や車椅子」において
代替が進むとなり、総じて、日常的な短距離移動を想定された方が多い結果と
なった。
【電動コミューターの普及課題】
近年では、健康意識等の高まりや、昨年の震災による交通麻痺もあり、自転
車が改めて注目されている。自転車で通勤する人が増えていることから、「自
転車ツーキニスト」という言葉も出てきている程だ。
自転車協会によれば、2008年(最新値)の日本における保有台数は 69.1 百
万台であり、2 人に 1台は自転車を保有していることになる。また、電動アシ
スト自転車やスポーツタイプの高級車が過去と比べて販売比率を高めている。
一方で、自転車専用道路は殆ど未整備であることに加え、ルールがしっかり
と確立・運用されているわけでもない。少なくとも、利用者には深くは浸透し
ておらず、都心の主要幹線道路を車両の隙間を縫うようにして走りぬける様を
よく見かけるし、実際に不幸な事故も起きている。
電動コミューターも普及に向けて同様の課題を抱えていると思う。現時点で
は関連法規制・利用インフラ等が整っておらず、広く利用できる環境とは言え
ないのが実態である。一般道での利用は将来的に考えていくとして、先ずは限
定的な域内で実証実験等での利用が期待される。
そうした観点から、限定的な域内において、電動コミューターを実用化させ
る為に、先ず最初に取り組むべき用途・利用シーンについて読者の皆様にお伺
いした結果、下記の通りとなった。
[電動コミューターの利用シーン]
・「日常的な短距離移動(通勤、通学、買い物、等)」 :36 %
・「施設内での短距離移動
(空港、大学構内、病院内での業務用途での移動、等)」 :19 %
・「施設内での短距離移動
(空港、大学構内、病院内での来訪者の移動、等)」 :18 %
・「観光・レジャー(観光・レジャーの為の短距離移動、等)」 :17 %
・「観光・レジャー
(電動コミューターの運転自体を楽しむ施設・イベント、等)」: 9 %
・「その他」 : 1 %
「非日常では個人に浸透せず、本当の普及にはならない」、「日常での利便
性を実感して貰うのが一番」という意見が多く、「日常的な短距離移動(通勤、
通学、買い物、等)」が最も票を多く集めた。
日常的な短距離移動の手段として、電動コミューターの活用を促進する為に
は、従来の移動手段が抱える問題解決や独特な機能・性能の提供が重要であろ
う。そうした観点から、電動コミューターの開発において重視すべき機能・性
能について読者の皆様にお伺いした。
[電動コミューターに求められる機能・性能]
・「移動の安全性」 :30 %
衝突・転倒時等の安全や夜間運転時の視認性確保 等
・「ボディの小型化・省スペース化」 :26 %
ボディ自体の小型化やボディの伸縮機能 等
・「運転者の操作性」 :15 %
高齢者向けのインターフェースや自動制御機構 等
・「車内空間のスペース・居住性」 :11 %
買い物時のラゲッジスペース確保や快適な運転姿勢 等
・「外装・内装のデザイン性」 :11 %
未来的・先進的なデザイン 等
・「その他」 : 7 %
「移動の安全性」と「ボディの小型化・省スペース化」に票が多く集まった。
安全性の面では、歩行者や自転車(交通弱者)と同じ空間に存在・移動するシー
ンが多くなることや高齢者が主な運転者の一人であることを考えると、衝突や
接触、転倒に関する安全対策が重要という意見が多かった。
また、小型化・省スペース化の面では、東京モーターショーでも披露された
興和テムザック社の「KOBOT」 のように、車両の伸縮機能の研究・開発も今後
注目される。米国のマサチューセッツ工科大とスペイン政府が共同開発した
「Hiriko」にも注目が集まる。特徴としては、同車両のボディの後部を完全に
折り畳むことができ、駐車スペースはスマート「フォーツー」の 3分の 2 で済
むという。2013年からスペインで量産が開始される予定であり、実用的な技術
となりつつある。
【内需の創出、外需の取り込み】
このように本格普及にはまだ時間も投資も掛かることが予想されるが、新た
な市場の創出は、今後、国内自動車市場が縮小することが想定される自動車メー
カーにとっては重要なテーマとなろう。
電動コミューター普及の可能性は国内市場に限ったことではない。欧州を見
てみると、自転車専用道の整備が進んでおり、電動コミューターのインフラに
も活用できないであろうか。オランダ・アムステルダムでは、市全域に自動車
専用レーンが整備され、今や国民の 4 人に 1 人が自転車通勤という。イギリ
ス・ロンドンは、中心部と郊外を結ぶ 10 km の自転車専用道が 2本建設され、1
日延べ 7,000 人が利用しており、今後 4年間でさらに 10本の専用道を整備し
て市内全域をカバーする計画という。
中国も、昨今の自動車販売拡大に伴う大気汚染問題やエネルギー問題に加え
て、電動二輪車の普及状況等も踏まえると、将来的な市場として視野に入って
くる可能性はある。
どの国よりも早く高齢化、単身化、都市化に直面する日本は、電動コミュー
ター開発において先駆者的立場となれる可能性もあり、今後、日本同様の社会
現象が進展する世界各国の需要を取り込み、日本経済の活性化に繋げていきた
いものだ。
<横山 満久>