新・業界ニュース温故知新 『大きな事業構造変化が起きる可能性について考える』

 過去の自動車業界のニュースを振り返り、新たな気づきの機会として紹介し
ていたこのコーナーですが、新たな形態にリニューアルしました。

 過去の記事で取り上げた内容を振り返り、現在の自動車業界と照らし合わせ、
新たな視点で見直していきます。

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『大きな事業構造変化が起きる可能性について考える』

【参照記事】

『自動車業界とエレクトロニクス業界』

                                               <2005年7月掲載コラム>

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【参照コラム概要】

 2005年に書かれたコラムの中で、自動車業界と電気業界の主な相違点として
以下を挙げていた。

・製品アーキテクチャー
  自動車は擦り合わせ型アーキテクチャー製品の代表格である。一方、多くの
  電気製品は組み合わせ型アーキテクチャーである。

・製品特性
  自動車は人を殺す可能性もある製品であり、非常に安全性や品質が重視され
  る。加えて、消費者のこだわりや感情が入る製品であろう。一方、電気製品
  は、あくまで使用できればいい、期待される機能を発揮してくれればいいと
  いった購入の仕方がなされることも多い。

・規格競争
  近年、自動車業界ではハイブリッド車やテレマティクスなど全く新しい仕組
  みが製品に組み込まれつつある。一方、電機業界では古くから規格競争(全
  く新しい仕組みの製品開発競争)が行われていた。例えばビデオや DVD の規
  格競争である。

・製品の多様性
  自動車にはセグメントは存在するものの、クルマという括りでは変わりがな
  い。一方、大手電気メーカーが生産する製品はテレビ、パソコン、洗濯機な
  ど多様な製品群となっている。

(参照コラムはこちら)
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=4286
 
【電気業界の事業構造変革】

 そして現在、電気業界の中でも大括りで見て、家電を中心としたメーカーや
半導体メーカーの苦境が伝えられている。

 家電メーカーでは収益力強化のため事業構造の改革を急速に進めている。一
つは、生産拠点を再編し、外部調達を増やす施策である。例えば、パナソニッ
クでは液晶パネルの国内生産拠点を 2 工場から 1 工場に集約することを発表
している。また、液晶テレビ事業では、外部からの調達を増やし自社パネルの
使用比率を現在の約 7 割から 3 割程度にまで引き下げるとしている。

 次に、製品ポートフォリオをより高付加価値の事業へ転換する施策である。
同じくパナソニックの例を挙げると、液晶パネルの非テレビ用途を全体の 5 割
超に高め、プラズマテレビでは 50 型以上の比率を現在の約 4 割から約 6 割
へ高めるとしている。

 一概には言えないが、国内生産拠点の再編は、自動車業界でも取り組まれて
おり、為替や関税面の外部環境が共通している背景もあろう。一方、製品ポー
トフォリオの見直しは、製品に多様性を持つ電気業界の特徴が表れた対策だと
思う。もう一つ電気業界の特徴として挙げられる対策が外部調達の仕組みや活
用度合いではないだろうか。
 
【電気業界に見る外部活用】

 以前から電気業界では、 OEM や ODM (Original Design Manufacturer:製造
だけでなく設計段階から受託企業が手掛ける形態)といった外部の活用が進ん
でいる。

 今回の苦境の中で外部を活用する(活用せざるを得ない)理由は、製品がコ
モディティ化し価格競争に巻き込まれたことが大きいであろう。

 各種報道のようにテレビは、製品の差別化が難しくなり、韓国メーカーなど
の追い上げにより価格下落が激しい。そうした中で、価格競争力を保つための
外部活用である。

 ただ、外部活用が進んできた理由はそれだけではない。リスクやリソース負
担への対策である。

 EMS (Electronics Manufacturing Service)といった業態が発達してきたの
は、製品の多様化やライフサイクルの短期化が進み工場投資リスクを回避する
ため生産のアウトソースが進んだこと、工場を持たないファブレスのベンチャー
が登場したことなどが言われている。

 そうした構造的な理由もあり電気業界では組み合わせ型のアーキテクチャー
が進化してきた。
 
【自動車業界の事業構造変化の可能性】

 自動車業界でも、リスクやリソース負担は今後も増加していくと見られる。
弊社では 2030年の世界自動車販売台数は現状の約 2 倍の 1.4 億台に達すると
予測している。

 生産拠点への投資は必要であろうし、冒頭述べたような製品の多様性や規格
競争という観点でも、例えば、様々なタイプの環境対応車の実用化に向け研究
開発投資も必要であろう。長期的には小型コミューターやパーソナルモビリテ
ィといった新たなモビリティへの投資なども想定される。

 逼迫するリソース負担の対策として、現状でも、いわゆる緩やかな提携やモ
ジュール化を一層推進していく動きがある。軽自動車を始めとした OEM の活用
が進んでいることなども挙げられる。また、EV 領域ではファブレス型含めベン
チャー企業が登場してきている。

 製品特性という観点では、冒頭や前回のコラムで櫻木が指摘しているように
家電製品との違いとして、人を殺す可能性のある製品であることや製品の「個
性」に対する期待度が大きいことが挙げられる。

(前回のコラムはこちら)
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6258
 
  一方で、国内市場などでは「個性」よりも、クルマは期待する機能を発揮し
てくれれば良く「価格」を求める顧客の声も聞かれる。

 一部では、製品のコモディティ化や、外部の定義にもよるが、外部との流動
性が高まってもおかしくはない状況にあるのではないだろうか。

 以前からリカルドやマグナ・シュタイアーなど車両開発や生産の領域で業界
内横断的な強みを持つ企業はあるし、車の電子化の進展に際しても組み合わせ
型(水平分業型)のアーキテクチャーに転換していくことが指摘された。

 今後も、中長期的な視点では、自動車メーカーが、コストと差別化のバラン
スや内製と外注のバランスをどうとるか、どのように先導していくか次第では、
全てではないにしろ一部の機能や車種で、大きな構造変化が起きる可能性も否
定できないのではないだろうか。

 ビジネスモデルにはそれぞれの特性がある。環境変化が起きた際には、従来
のモデルに固執せず、柔軟性を持ちながら対応していくことが重要だと考える。

<宝来(加藤) 啓>