「つながる」クルマの未来を考える

      

今回は、「「つながる」クルマの未来を考える」をテーマとした以下 4 問のア
ンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/enquete/6184.html

 ・「一般ユーザーが最もクルマに求める情報機能とは」
 ・「将来的に「つながり」の拡大を最も期待する領域について」
 ・「「つながる」クルマ普及促進の上で対処しておくべきリスク」
 ・「安全に「つながる」インターフェースについて」

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 「本日の予定は・・」 EV で出勤中に、クルマがドライバーに話かける。ト
ヨタ未来カーライフ研究所の描く「トヨタスマートセンター 20XX年」の一幕だ。
ここでは、ドライバーとクルマのみならず、道路などのインフラや家、ディー
ラーなどとクルマの「つながり」も描かれている。

 冒頭のクルマによるドライバーへの話しかけは、昨今飛躍的に普及が進んで
いるスマートフォンをクルマにセットする事で、個人情報とクルマを連携させ、
そこからスケジュールをドライバーに伝達しているのである。

 上記事例は、将来的なクルマの使われ方の一例にすぎないが、昨年末に開催
された東京モーターショーにおいても、「つながる」をテーマに様々なクルマ
の将来像が浮かびあがってきた。

 先月のアンケートを通じ、このような「つながる」クルマに対しての未来を
考えてみたい。
 
【クルマに求める情報機能】

 現時点で、ユーザーがクルマに最も求めている情報機能について皆様にお聞
きした結果は以下のようになった。

 ・「安全性に関する情報機能」   :35 %
 ・「利便性に関する情報機能」   :15 %
 ・「楽しさに関する情報機能」   :14 %
 ・「移動に関する情報の更なる充実」  :28 %
 ・「その他」     :8 %

 「安全性に関する情報機能」と「移動に関する情報の更なる充実」が、合わ
せて全体の約 2/3 を占めた。利便性や楽しさよりも、「安全に移動する」とい
うクルマの本質に関わる情報の必要性や高度化を求める声が強い結果となった。

 安全面の情報としては、国内複数拠点で実証実験やパイロット導入が進んで
いる、車車間/路車間通信などによる自車周辺環境の情報がメインとなろう。

 今月末よりデンソーが、これらの通信技術を活用した交通制御システムの実
証実験を中国で開始する。安全面のみならず、渋滞のないスムーズな交通を目
指すという環境面からも、今後全世界での拡大が期待される情報機能である。

 また、「移動に関する情報の更なる充実」を選択した方も多かった。現在の
情報精度や機能では満足していないユーザーも多く、ある程度ナビが普及した
今、求められるレベルが更に高くなっているとも言えよう。

 一部では既に実用化も進んでいる渋滞回避ルート検索機能、周辺パーキング
空き情報、公共交通機関との連携など、インフラとつながった情報提供を望む
声が多かった。

 EV ユーザーに対する充電インフラの場所/満空情報などのタイムリーな提供、
クルマ通勤/通学者に対する渋滞迂回路などの提案など、車両特性や使用シー
ンによっても、ユーザーが求める「移動」情報は異なるであろう。
 
【将来的に「つながり」の拡大を期待する領域】

 それでは、将来的にどの領域との「つながり」拡大を最も期待しているのか、
皆様にお聞きした結果は以下のようになった。

 ・自動車メーカーとの「つながり」  :22 %
 ・販売店やサービス工場との「つながり」 :20 %
 ・自動車関連以外の店舗や機関との「つながり」 :17 %
 ・家や各種インフラとの「つながり」  :16 %
 ・他車や他者との「つながり」   :17 % 
 ・その他     :8 %

 自動車メーカーや販売店/サービス工場の比率が若干高いものの、ほぼ横並
びの結果となった。

 前述のように、「移動」の観点からだけでも、ユーザーが求める情報は車両
特性や使用シーンによって異なる。「利便性や楽しさ」といった観点からは、
より一層その傾向が強くなると思われる。また同一車両であっても、ドライバー
が異なれば(夫婦等)求められる情報も異なるだろう。

 将来的にはユーザーがクルマを購入する際に、希望する情報機能を自由に組
み合わせる事が出来る仕組みが望ましい。

 現在普及が進んでいるスマートフォンでは、様々なアプリケーションを利用
者が選択し購入している。クルマにおいても、「安全性」など多くのドライバー
に共通する情報については標準設定とし、「移動/利便性/楽しさ」など、ユー
ザーや車両特性に依存する項目については、車両購入時や購入後に自由に選択
出来るようなスタイルが、将来的には考えられる。

 またこれらの「つながり」は、ユーザー側からの要望だけに留まらず、「つ
ながる先」のメーカーや販売店、各種店舗関係者からの期待もあろう。

 例えば、自動車メーカーとクルマがつながる事で、メーカー側はクルマから
ダイアグデータや部品交換情報などを入手出来る。クルマの使われ方に応じた
燃費/電費の傾向や、部品の交換履歴などを解析して、次期モデルの開発に反
映させる事も有用となろう。
 
【想定されるリスク】

 一方で、このような「つながる」クルマの普及には、様々なリスクも考えら
れる。想定されるリスクについての結果は以下のようになった。

 ・「容量オーバー等による情報網の寸断」  :15 %
 ・「混線等による誤作動や、誤情報の伝達」  :25 %
 ・「個人情報などの秘匿情報の流出」   :16 %
 ・「ドライバーの集中力分散による事故等の増加」 :41 %
 ・「その他」      :3 %

 「ドライバーの集中力分散による事故等の増加」が最も多く 40 %以上を占
めた。走行時のインプット情報に対してドライバーの判断が必要となるケース
は、実動作は発生しなくとも所謂「ながら運転」に近く、事故の危険性は高ま
る。

 「ながら運転」の代表的な行為に、走行中の携帯電話使用がある。ご周知の
通り、現在道路交通法では走行中の携帯電話使用を禁じており(ハンズフリー
は除く)、警察庁交通局のデータによると、平成 23年の携帯電話使用違反件数
は約 134 万件(全送致件数の約 17 %)にのぼる。

 また、携帯電話使用時の事故率は、使用していない場合に比べ数倍にのぼる
と言われており、ハンズフリーであったとしてもその比率はあまり変わらない
との報告もある。

 ドライバーの集中力を途切らせることなく、いかに情報授受出来るかが「安
全につながる」為の最も重要なファクターであろう。
 
【インターフェースの進化】

 それでは、クルマとドライバーが「安全につながる」為のインターフェース
はどのレベルまで進化するのだろうか。アンケート結果は以下のようになった。

 ・「視線移動や動作を必要としないレベルまで進化する」  :37 %
   音声認識システムの高度化 など
 ・「視線移動や動作の必要性を、極力抑えたレベルまで進化する」 :37 %
   AR (拡張現実)技術を活用したフロントガラス など
 ・「視線移動や動作の必要性は、現状と同レベルに留まる」 :13 %
   従来のカーナビ等の技術で充分 など
 ・「操作方法ではなく、操作タイミングを制限する事が重要」 :10 %
   信号停止した際にのみ、情報が自動配信される など
 ・「その他」       :3 %

 視線移動や動作を極力(または全く)必要としないレベルまで進化するとの
回答が、合わせて 7 割を超えた。

 フロントガラスに車速や簡易ナビ情報を映し出すヘッドアップディスプレイ
は、既にレクサス RX など一部の車種で実用化されており、今後の採用車種拡
大や投影情報量拡大が期待される技術の一つである。

 また、音声認識技術も近年飛躍的に向上している。モバイル機器向けでは、
アップル社の音声アシスタント機能「Siri」や、ドコモの「しゃべってコンシ
ェル」など、話しかけた内容に対して音声や文字列でレスポンスする技術が実
用化の途上にある。

 勿論、様々な情報や技術をクルマに「つなげた」際、全ドライバーにとって
集中力を途切らせることなく安全を担保出来る、と証明するのは難しい。個々
のドライバーの集中力は、体調や運転状況によっても大きく左右されるからだ。

 このような状況の中で、安全性を出来るだけ担保する為には、近年法制化の
進んでいるアクティブセーフティ技術とのシンクロ導入が考えられる。

 先週国土交通省が、世界に先駆けて貨物自動車に対する衝突被害軽減ブレー
キの技術基準導入を決定したように、特にアクティブセーフティ領域の製品化
拡大は近年目覚ましい。

 但し情報の種類によっては、停車時にのみしか「つながる」ことの出来ない
設定や、改造出来ない仕組みも必要だと考える。

 このように様々なリスクを抱えながらも、操作性向上や安全性確保の技術と
共に、クルマへの付加価値として「つながる」情報の拡大は今後進んでいくも
のと思われる。

 ユーザーがクルマの使用スタイルに応じ、手の届きやすい価格で、情報を選
択購入出来る仕組み(製品/情報の層別化・バリエーション化)の構築が、今
後の「つながる」機能/情報普及のキーファクターとなろう。

                                       

<川本 剛司>