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現地化の進展について
今回は、「現地化の進展について」をテーマとした以下 2 問のアンケー
ト結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/enquete/6446.html
・「製品企画領域や開発/設計領域における、現地人材活用について」
・「ものづくりの上流領域における現地化が、今後最も進むと思われる地域」
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日本自動車工業会発行の統計月報によると、2011年 1月~ 12月における乗用
車の海外仕向地は、全世界 185 ヶ国以上に上っている。また、同じく日本自動
車工業会のデータによれば、日系自動車メーカーの四輪車海外生産拠点は、36
ヶ国 169 拠点にまで及んでいる。
車を「うみだす」プロセスを、「製品企画、開発/設計領域(以下、上流領
域と定義)」と、「製造、販売領域(同、下流領域と定義)」に大別した場合、
上述のように下流領域におけるグローバル化は 20 世紀後半から加速度的に拡
大し、現在では非常に多くの現地人材が、車両の製造/販売に関わっている。
一方で上流領域における現地化については、一部の自動車メーカーでは 20
世紀後半に始まったものの、本格的に開始されたのは 21 世紀に入ってからで
ある。
それでも、ローカル市場動向の調査や研究機関としての役割に留まる傾向が
色濃く、設計業務そのものや最終決定などの権限は日本に残すなど、現地拠点
の真の意味での自立化はあまり進んでいなかった。
しかし昨今、このような上流領域における権限委譲も含めた現地化の流れが
徐々に広まってきている。
先週日産自動車が、東南アジア事業における現地研究開発体制を強化してい
くことを発表した。既に 2014年に「ダットサン」ブランドのインドネシア投入
を決めており、現地における開発体制を強化することで、「現地ニーズ把握」
や「部品の現地化に伴う低価格化」を目指す。
トヨタ自動車も、海外で販売する車を対象に開発機能を現地に移すことを発
表しており、まずは米国で全面的に開発した「アバロン」が年内にも市場に出
てくる。将来的には中国にもその手法を適用することを計画しており、開発機
能のグローバル化は今後加速するものと思われる。
【上流領域における現地人材活用の可能性】
それでは上流領域を、「製品企画領域」及び「開発/設計領域」に 2分した
場合、どちらの領域での現地人材活用がより求められるのだろうか。皆様にお
聞きした結果は以下のようになった。
・「製品企画、開発/設計共に、現地(人材)に任せるべき」 :40 %
・「製品企画は現地に任せるべきだが、
開発/設計は日本で実施すべき」 :25 %
・「製品企画は日本で実施すべきだが、
開発/設計は現地で実施すべき」 :15 %
・「製品企画、開発/設計共に、日本で実施すべき」 :9 %
・「その他」 :11 %
「製品企画、開発/設計共に、現地に任せるべき」との回答が 4 割を占めた。
どちらの領域の現地化を進めるのかは、それぞれの自動車メーカーの規模や考
え方、地域特性により異なる。また、車両特性によってもそのメリット/デメ
リットが異なる為、地域/車両特性と照らし合わせた上で、現地人材の適切な
活用及び権限強化を進めていくことが、今後より一層求められると思われる。
それでは、これら上流領域における現地化には、どのようなメリットが存在
するのであろうか。
【製品企画領域における現地化メリット】
最も大きなメリットは、ローカルで求められる車両の特性や仕様、サービス
も含めた使われ方を、より適確且つ迅速に吸い上げられることであろう。
高い商品力確保のためには欠かせない情報であるのは勿論のこと、市場の反
応にも敏感に対応できる。次モデルへも効率よくフィードバックさせることが
可能となる。
現在でも、市場動向の調査・研究を目的とした日系自動車メーカーの海外事
業所は存在している。日本からでは入手困難な情報を現地で収集することは、
業務の効率性・柔軟性という観点から、高い競争力維持には欠かせない要素で
ある。
【開発/設計領域における現地化メリット】
この領域におけるメリットは、ローカルでの材料・製造技術・品質と照らし
合わせた最適な設計が可能になることであろう。現地サプライヤーの QCD レベ
ルなどの情報を適確に仕入れて集積することは、車両メーカーの将来的なグロー
バル競争力維持・拡大の為には欠かせない。
部品の現調率向上も期待することが出来、最終的には低価格化にもつながる
ことが想定される。
また、現地開発/設計の場数を踏むことで、ゆくゆくは開発期間の短縮も期
待できよう。日本での現調品開発期間は、日本品開発よりもリードタイムが長
い。試作品等の輸送にかかる時間など、物理的な距離による影響もあるが、デー
タ等の評価・確認などにも工数は割かれる。
例えば同じ材質表記であったとしても、日本材とローカル材では各種成分の
混合比率が異なるケースがある。そのような場合、混合比率表などを現地から
入手する必要があり、入手リードタイムや評価・確認などに対する工数は無視
出来ない。
またローカルサプライヤーの製造技術は、同一形状品を製造する場合でも工
程数や冶具、結果としての精度など、日本とは異なる部分も多い。それらを予
め図面に落とし込み、設計変更などの工数低減を図る為には、ローカルの製造
技術に熟知した現地人材の活用は有用である。
【上流領域の現地化に伴うリスクと背反】
上記アンケートの結果では、製品企画及び開発/設計のいずれかの領域を日
本に残すべきとの回答も、合わせて 40 % に上っている。
地域特性や車両特性を考えた場合、日本で全てをコントロールした方がスムー
ズに開発が進むケースもあろう。特に、開発/設計業務には必須な例えばテス
トコースなどを始めとする大型の評価設備の有無は、地域によって事情が異な
る。
このような物理的な施設の有無だけでなく、そもそも製品企画能力や開発/
設計能力など、今まで日本でコンロトールしていたような能力を現地が兼ね備
えているかどうかも大きな要素となる。
また、特にローカルに全てを任す際にリスクとなり得るのは、日本からのコ
ントロールが難しくなることであろう。勿論、信頼のおける現地人材に任せる
ことにはなるのだが、車両特性や仕様だけでなく業務プロセスまでもローカル
主導になってしまうと、グローバル統一化の観点からは背反となってしまう。
昨今、原価低減目的だけでなく BCP (事業継続計画)の観点からも、専用品
の見直しが進んでいる。大規模モジュール化、プラットフォーム/部品の共通
化の流れが加速する中、ローカルでの設計は「差別化(即ち専用品)」領域の
増加につながることが予想される。
ローカル独自車両が大量乱立してしまうことは、グローバルで考えた際必ず
しも効率的とはいえない。メーカー同士の緩やかな提携が進み、更には国を超
えた部品の共通化などを考える場合、それは相反するプロセスとなってしまう。
【背反への対応】
それでは、上記リスクや背反への対応として、注力すべき対応策にはどのよ
うなことが挙げられるだろうか。
最も注力すべき対応策として、大きく 2 つの要素があると思う。一つは日本
とローカルを繋ぐ情報共有の仕組み、もう一つはコミュニケーションである。
日本独自で製品企画や開発/設計業務を取り進める場合にも、複数部署間や車
両間において重要なファクターではあるが、ローカルにその全部(一部)を任
せるとなれば、より一層その重要度は増す。
<情報共有の重要性>
製品企画や開発/設計領域の情報といっても膨大な情報が存在する。全ての
情報を日本とローカルで共有するのは非常に難しいと思うが、最低限共有すべ
き情報は何か、情報共有の手法は何か、日本サイドの窓口はどこか、等をしっ
かりと定義・確立しておくことが重要であろう。
中でも重要な情報は、ローカル特異の情報である。ローカル単独の開発とい
っても、メーカー毎に共通化や統一化の図られている基幹技術/システムはロー
カルでも遵守することになる。
但し、ローカルで車に求められている特性は異なっており、ローカル特異で
差別化を図る領域が存在するケースも多い。そのような情報の共有は特に重要
となる。決定権限はローカルに付与するとしても、部品表や図面等の中枢領域
を情報共有出来るような仕組みの構築が求められる。
また、車両仕様/モジュール差異/部品差異/サプライヤー差異などの設計
情報に加え、車両や部品の評価結果などについても情報共有しておくべきだろ
う。万が一ローカル開発車両に不具合が生じても、その対処方法や真因究明を
グローバルで効率的にとり進める為には必要不可欠な情報である。
これらの情報は日本で一括管理するだけでなく、ローカルの開発部隊にも共
有出来ていることが理想である。もしもベース車が日本に存在するのであれば、
ベース車とローカル開発車の何が差別化要素として特異性を持っているのか、
ローカル開発部隊は理解していることが肝要である。
<コミュニケーションの重要性>
上記情報共有と共に重要となるのが、ローカルとのコミュニケーションであ
る。
ローカルで車に求められる特性をローカルで吸い上げ、商品にフィードバッ
クさせることは、確かにそのローカルだけを見れば効率性・柔軟性に優れる。
しかしそのモデルが、全社のモデル構成の中でどのような位置づけにあるのか、
そしてその開発をどう推し進めていくのか、によってローカル独自領域の許容
範囲は異なるはずだ。
それらの情報を日本とローカルでしっかりと話合い、統一化を図る領域と、
差別化を許容する領域の認識をしっかりと一致させておくことが、製品企画段
階では非常に重要となる。
また、開発期間中においても、例えば日本の類似車両(或いはベース車両)
との情報共有を定期的に実施することによって、お互いの変化点を時系列で押
さえておくことが重要になる。開発途中での設計変更をお互いに理解しておく
ことは、グローバルでの開発/設計業務推進には欠かせない。
ローカルへの上流領域の権限委譲は、全てをローカルに任せる放任主義では
決してない。上述のように、日本でコントロールする領域とローカルに任せる
領域をお互いに合意した上で、開発期間中に亘りしっかりと情報共有をしてい
くことが、ローカルでの開発を成功に導く近道となろう。
【上流領域の現地化が進む地域】
最後に、このような上流領域における現地人材活用が最も進んでいくと思わ
れる地域はどこであろうか。皆様にお聞きした結果は以下のようになった。
・「北米地域」 :30 %
・「欧州地域」 :11 %
・「BRICs」 :25 %
・「ASEAN地域」 :30 %
・「その他」 :4 %
「北米地域」及び「ASEAN 地域」が共に 30 % を占め、最も票を集めた。冒
頭の日産自動車やトヨタ自動車の事例を見ても、この 2 地域の上流領域におけ
る現地人材活用は今後も注力されていくであろう。
また、このような上流領域の現地化は、自動車メーカーの規模によってもそ
の考え方は異なるであろう。欧州地域からの生産撤退を表明する自動車メーカー
もある中、製造/販売領域を含めた ASEAN 地域や BRICs への傾注度合は今後
より一層加速すると思われる。
また、同じ 30 % とはなっているが、北米と ASEAN の現地化の考え方も異
なるであろう。開発/設計技術の現地化が既に進んでおり、先進的な設計/製
造技術を有する北米地域と異なり、ASEAN 地域については、技術レベルの向上
を伴う現地化が将来的に進んでいく地域である。
特に ASEAN 地域においてはまず、開発/設計能力を伸ばすべく、日本からの
出向者が現地人材の教育及び技術の伝承を実施していくことになろう。ちょう
ど、世界各地の製造領域(製造工場)における、日本のマザー工場の役割と同
じ位置づけである。
世界的にみても、フォルクスワーゲンやフォードなど欧州/北米メーカーも、
中国を始めとする R&D 拠点のグローバル化には力を入れている。
当然のことながら、ローカルの人材の確保をこれら海外メーカーと競合する
ことになる。人材確保をどのように進めるかと共に、彼らの力を継続的に活用
するための所謂「囲い込み」にも力を入れなければならない。
このように、車両メーカーによって、或いは地域特性・車両特性によって、
それぞれ上流領域の現地化に対する考え方は異なると思われるが、やはり最も
重要なことは「共通化領域と差別化領域の明確化」であろう。
グローバルに開発が進むクルマに対して、どの車両或いは部位をベースとし
て設計を行っているのか、また差別化を図った領域はどこなのか、その理由は
何か、を集約し一元管理しておくことこそが、モデルチェンジのみならず、新
規設計車両に対してもより一層重要になってくる。
メーカー規模の違いや組織的な制約はあるものの、日本人を含めたグローバ
ルな人材をどの役割に配置するのか試行錯誤していくことは、競争力の維持・
拡大の為には最も必要な行動であろう。
<川本 剛司>