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新興国における人事・労務管理、モチベーション・マネジメント
今回は、「新興国における人事・労務管理、モチベーション・マネジメント」
をテーマとした以下のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6551
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【新興国における労働争議】
今回は、経営資源「ヒト・モノ・カネ」の中でも、まっさきに掲示されるほ
ど重要なヒトの問題をテーマとしたい。
急激な円高や国内市場の縮小・空洞化といった時代の潮流に沿い、海外展開
を加速される日系企業が増える中で、賃金等の処遇改善や人事評価等に対する
不満を端に発する労働争議等を中心とした国際的な労務リスクに触れる機会が
増えてきていると思われる。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が纏めた「2012年国際労働比較」によ
ると、日米と比べて、インドやブラジルといった新興国では労働争議の件数や
規模は桁違いに大きい。
[2008年(最新)] 労働争議件数(件) 労働争議参加人員(千人)
日本 52 8
米国 15 72
インド 423 1,484
ブラジル 411 2,043
(※中国は同紙に統計情報がない)
インド、ブラジルに限らず、その他の新興国においても、物価上昇率に比し
て日系企業の賃金上昇率が追いついていないこと、また欧米系企業の賃金水準
と比して賃金水準が低いこと等を背景に、多くの日系企業では従業員の不満が
鬱積しているとのレポートもある。
日本政府による尖閣諸島の国有化に端を発した中国の反日デモでは、同騒動
に便乗した賃上要求の混乱も起こり、操業停止に追い込まれる日系企業が相次
いだ。また、7月には、インドでもマルチ・スズキの工場で従業員の暴動が発生
し、生産再開までに 1 ヵ月を要した。
これらは、政治的要因や、歴史的背景等に起因すると言われているが、処遇
や待遇に対する不満があったことも否めない。マルチ・マネサール工場では、
事件当時約 3,300 人いた従業員の半数強が契約工で、正規雇用の工員と比べて、
賃金は勿論、社会保障等の待遇に格差があったと言われている。暴動を受けて
マルチは、生産部門の契約工を正規工員に置き換えると発表しており、同・バ
ルガバ会長が、労働者の待遇改善の一環として、社宅の建設計画を明らかにし
ているとの報道もある。
新興国を中心とした労働争議については枚挙に暇がないが、このように随分
昔に進出した老舗においてでさえも、まだ労働争議が起きる等、新興国におけ
る労務管理は極めて難しいテーマであると言える。次章以降で、この課題につ
いてどのように対処していけば良いか考えて行きたい。
【どうして不満がたまるのか】
労働争議は、上述の通り日本でさえ発生しているし、どこの国でも必ず発生
し得るものとして、認識することが必要である。そうした認識の下、日頃から
対策を講じて、リスクを軽減させていくことが肝要だと思われる。その為には、
先ずは従業員が不満に思う点、その要因について常日頃、適切に把握すること
が重要である。
また、不満は、夫々に比較基準があって、そこから乖離していると思われる
場合に抱かれるものであり、社内の上下関係、同僚内、社外との比較等、誰と
の、何の点を基準として不満を抱いているのかを把握し、それに対して何故現
状のような状態になっているかといったことを、不満を抱いた早いタイミン
グで、論理的に説明することが大事だと思われる。
現時点でどんなに小さな不満であっても、時間の経過という横軸、他従業員
への拡がりという縦軸を掛け合わせた面積で考えれば、その不満が大きくたま
ってくることは想像がつく。以下に、一般的に現地人が不満と感じる要素につ
いて一例を挙げてみたので自社内の点検や、今後海外進出を考えておられる場
合の参考にして頂きたい。
1.現地マネジメントの日本人派遣員への不満事例:
・日本人派遣員による現地従業員を侮辱する言動
(意図しなくても、現地人にとってはそう感じられる場合もあり得る)
・日本人派遣員の能力不足
(業務を遂行しない、または遂行できる能力がない)
2.現地従業員の現地マネジメントへの不満事例:
・人事評価の公平性の欠如(同じ地域出身の部下を厚遇)
・管理者として備えるべき心構えの欠落(公衆の面前での罵倒)
3.現地従業員間の不満事例:
・従業員間の処遇格差(何故同じ仕事をしていて給料が違うのか等)
【今後取り得るべき施策】
宗教や歴史的背景、政治的要因等、国や民族、ポジションによって個別に違
いがある一方で、共通する部分もあると思われ、総じて、新興国における人
事・労務管理やモチベーション・マネジメント上、日系企業が注力しなければ
ならないことについて、弊社メルマガ読者にご意見をお伺いしたところ、以下
のような結果となった。
・「相場を適切に反映する等、賃金体系の見直し」 :21.9 %
・「より基準を明確にする等、人事評価制度の確立」 :23.1 %
・「現地人ポストを創設する等、一定の裁量権の付与」 :21.3 %
・「会社への忠誠心・帰属意識の維持・向上に繋がる
社内研修制度や福利厚生制度の拡充」:23.1 %
・「社内コミュニケーション活性化や、仲間意識を
育むことに繋がる社内レクリエーションの実施」:10.0 %
・「その他」 : 0.6 %
「賃金」、「人事評価」、「ポスト創設・裁量権付与」、「社内研修制度、福
利厚生制度」領域に対する数字が均衡する結果となった。これは、各要素とも
重要であり、複合的な対応が必要という結果と思われる。
例えば、「賃金」生活水準の引き上げだけでは、折角時間とコストを掛け
て育成した従業員も、より金払いの良い方に流れていくこともあると思われる。
中長期的には、会社への帰属意識を持たせ、自律的な姿勢を持って貰うような
取り組みが必要になってくるのではないだろうか。
それが、現地人ポストを創設することなのか、社宅や社食等の福利厚生制度
の充実なのか、従業員のやる気スイッチは国・地域、や個社毎に違うと思われ、
そういった声を職制を通じて確かに吸い上げられる仕組み、また、それを違っ
た角度から検証する仕組み(現場の不満を自身の評価ダウンに繋がることを恐
れて、現地マネジメントが止めるケースも想定される)が必要だと考える。
また、従業員の声を吸い上げるだけの一方通行ではなく、会社の歴史やビジ
ョンの共有、その従業員の仕事が会社の中でどのような役割を果たしているか
等のメッセージを粘り強く継続して発信していく必要があるように思われる。
良く言われることではあるが、やはりコミュニケーションを通じた良好な人
間関係を構築することが、従業員の不満の解消や、仲間意識等一体感の醸成に
繋がり、従業員、ひいては現地拠点の生産性向上や、帰属意識に繋がると思わ
れる。
良好な人間関係は、個人によって差はあるものの一朝一夕では構築できず、
日本人派遣員のローテーション期間の見直しや、後任者とのオーバーラップ期
間の長期化等も視野に検討していく必要がある。また次の派遣員育成の為に、
自社の状況のみならず、他企業の労務担当者との情報交換等も積極的に行い、
日本人派遣員の赴任前教育等で活かしていくことも重要であろう。
日本国内を取り巻く環境等を踏まえても、今後も更に多くの企業で、海外事
業に注力するところが増えると考えられる。真のグローバル企業になる為には、
上述したような日本側の人事制度の見直し等も必要になってくるであろう。
<横山 満久>