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小排気量ターボ化について
今回は、「小排気量ターボ化」をテーマとした以下のアンケート結果を踏まえ
てレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/enquete/6699.html
・小排気量ターボ化エンジンに対する、日系メーカーの将来的な取組み
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ターボチャージャー/スーパーチャージャー。20 世紀後半、ハイパワーの代
名詞として各種レースでも黄金時代を謳歌したこれらエンジン過給システムが、
21 世紀に入りその意味合いを変えて勢力を拡大している。
「過給ダウンサイジング」。皆様どこかで耳にしたことのある言葉であろう。
ダウンサイジングとは、既存の 6 気筒を 4 気筒へと少気筒化したり、2L を
1.4L にするなど、同規模の車格に対し気筒数/排気量を低減する技術である。
最終的な車両重量低減だけでなく、気筒数減少に伴う摩擦抵抗低減効果もあ
り、燃費性能も向上するなど様々なメリットを享受することが出来る。一方で、
ダウンサイジングによる低出力化/低トルク化のデメリットも存在する。その
デメリットを過給によって補填しようとする考え方が、過給ダウンサイジング
ユニットの根底である。
このような欧州メーカー発の過給ダウンサイジングエンジンに対し、日系メー
カーは将来的にどのように取り組んでいくのだろうか。まずは、欧州/北米他
社動向について整理してみたい。
【欧州メーカーの取組み】
<フォルクスワーゲングループ>
ガソリンエンジンで過給ダウンサイジングの口火を切ったのが 2005年、ゴル
フに搭載された 1.4L TSI (Turbocharged Stratified Injection)エンジンで
あろう。この直噴エンジンには、スーパーチャージャーとターボチャージャー
の 2 種類の過給器(ツインチャージャー)が組み合わされた。
最高出力はターボチャージャーで稼ぎ、低速域トルクをスーパーチャージャー
で補いながら、燃費向上のみならずターボラグ減少などのドライバビリティ向
上も達成している。
フォルクスワーゲンの TSI エンジンは現在、ターボチャージャーのみのシン
グルチャージャーのバリエーションも増加している。日本発売モデルに限って
も、1.2L / 1.4L / 1.8L / 2.0L とそのバリエーションを増やしており、今
では全モデルの 90 % 以上が TSI エンジン搭載車である。
勿論、アウディやセアト、シュコダなどフォルクスワーゲングループ各社の
車両へも TSI エンジンの適用が進められている。
<BMW グループ>
BMW グループは、昨年新型 1.5L 3 気筒ターボエンジンを発表した。ツイン
パワーと呼ばれるターボチャージャーによる過給で、燃費性能向上を図ってい
る。本エンジンにはガソリン/ディーゼルが用意されており、両者で部品の 60
%、構造の 40 % を共有し開発コストを抑えている。
この新エンジンは、2013年から BMW や MINI の市販モデルに広く採用される
予定であり、プラグインハイブリッド・ i8 用ガソリンエンジンにも採用され
る計画である。
既に BMW では、2.0L ターボと AT の組合せが 3 シリーズや 5 シリーズに
搭載されており、ワンサイズ下のクラスにも今後過給ダウンサイジングエンジ
ンが搭載されていくことになる。
<メルセデスベンツ>
メルセデスベンツで最初に採用された過給ダウンサイジングエンジンは、1.
8L ガソリン直噴ターボだ。E クラス(セダン/クーペ)及び C クラスに採用
された。先代の E250 に搭載されていた 2.5L の V6 と比べても同等の出力を
維持している。一方で、トルクは 26 % 、燃費は 27 % 向上させている。
今年日本導入された A クラスには、 1.6L / 2.0L ターボエンジンが搭載さ
れており、過給ダウンサイジングユニットのラインナップも増加傾向にある。
<フィアットグループ>
特筆すべきはフィアットの TwinAir を積んだ 500 (チンクエチェント)だ
ろう。マルチエアインタークーラー付ターボで 875cc という小排気量を達成し
ている。最大トルクは 145Nm / 1,900rpm 、燃費(JC08 モード)は 24.0km
/ L を誇る。
500 には 1240cc 過給無しエンジンの設定もあり、最大トルクは 102Nm /
3,000rpm で、燃費は 19.4km / L (同上)である。TwinAir 車は、過給無し
車より最大トルク、燃費性能共に向上させている。最大トルクがより低回転域
(1,900rpm)に寄っており、ドライバビリティ向上も図っているこの TwinAir
は、提携しているクライスラー・イプシロンにも採用されている。
以上のように、主要な欧州メーカーは一様に過給ダウンサイジングエンジン
への注力度が高い。背反となるターボラグについても、解消(感じない領域ま
での向上)に向けた技術開発が進められており、振動性能が悪化した場合にも
各種の抑制策が織り込まれている。
また、より過酷な環境に晒されるエンジンオイルへの技術開発も進められて
おり、その守備範囲は一部高級車を除き、今後も継続的に拡大していくと思わ
れる。
【北米メーカーの取組み】
上述した欧州各社の過給ダウンサイジングの流れから若干遅れてはいるが、
日系メーカーより一足早くこの潮流に乗っているのがフォードだ。
<フォードグループ>
フォードにおける次世代エンジンの中核と言えば、「EcoBoost」だろう。代
表例は、V6 エンジンを代替している 2.0L EcoBoost だ。2013年モデルのトー
ラス/フュージョン/エスケープにも搭載予定であり、既に日本で発売されて
いるエクスプローラーの一部グレードにも搭載済みだ。また、Land Rover の
Range Rover Evoque や Volvo XC60 にも搭載されている。
フォードによると、V6 を直 4 に置き換えることで、エンジン単体重量は約
161kg から約 134kg へと 27kg の軽量化が達成されたとのことだ。2015年まで
にリンカーンを含め、北米で販売するクルマの 90 % に 「EcoBoost」 を搭載
する計画であり、今後全世界展開も視野に入れた基幹エンジンとなる。
また直噴ではないが、クーガに搭載されているような 2.5L (直 5) のター
ボエンジン(呼称:デュラテック)もラインナップされており、エンジンの小
型化/ターボ化は北米メーカーの中では最も進んでいる。
<ゼネラルモーターズグループ>
ゼネラルモーターズの代表的なダウンサイジングエンジンは「エコテック」
エンジンだ。シボレー・マリブやキャデラック・ ATS に搭載されている 2.0L
直噴ターボは、米自動車産業誌「Ward’s AutoWorld Magazine」の選ぶ 2013年
ベストテン・エンジンにも選出された。
シボレー・クルーズやボルト、ソニックなどに搭載されている、1.4L エコテ
ックと並び、将来的な中核エンジンとなろう。
昨年ゼネラルモーターズは、これらエコテックエンジン増産に向け、エンジ
ン工場への 4 億ドル以上の投資を決定した。大排気量エンジンのイメージが強
い「アメ車」にも、ダウンサイジングのトレンドは確実に拡がってきている。
【日系メーカーの取組み】
このように、欧州メーカーが道筋を開拓し、北米メーカーが追随している過
給ダウンサイジングエンジンに対し、日系メーカーはご存知の通り HEV / PHEV
/ EV などの先行技術にその開発リソースを割いてきた。
HEV などは先進国において一定の成果を上げているが、新興国も含めた巨大
展開を狙う「欧州発」の過給ダウンサイジングエンジンに対して、日系メーカー
は如何に対峙すべきであろうか。日系メーカーにおける小排気量ターボ化への
将来的な取組みを皆様にお聞きした結果は以下のようになった。
・日系メーカーにおいても、より一層開発/商品化が加速していく :33 %
・特定メーカー/車種など、限定的な範囲に留まる :41 %
・小排気量ターボ化は、日系メーカーにおいてはほとんど進まない :18 %
・その他 : 8 %
結果、「特定メーカー/車種など限定的な範囲に留まる」と回答された方が
最も多く 40 % を超えた。「より一層開発/商品化が加速する」と回答された
方を含め 70 % 以上の方が、日系メーカーでも開発が進んでいくと回答された。
ここで、現在の日系メーカーの小排気量ターボ化に対する動きを纏めてみた
い。
<トヨタ>
トヨタは昨年、環境技術開発の最新取組みと 2015年までの展開計画を発表し
た。この中の一要素である、燃費向上・エミッション低減に向けた省エネルギー
化取組みとして、現在開発中のガソリン/ディーゼルエンジンと高効率トラン
スミッションが公開された。
最大熱効率 40 %を目指すガソリンエンジンは 2 基発表されたが、そのうち
の 1 基は昨年末にデビューしたクラウンハイブリッドに搭載された AR 系 2.
5L 直 4 エンジンだ。世界最高の最大熱効率 38.5 % を追求したエンジンであ
る。
そしてもう 1 基が、トヨタ初となる過給ダウンサイジング直噴エンジンだ。
上述の AR 系 2.5 L をベースに 2.0L に小排気量化し、燃費向上とターボ採用
により出力向上の両立を狙っている。このエンジンは、2014年以降に市場投入
される予定だ。
<日産>
ルノーとアライアンスを組む日産は、日系メーカーの中では比較的早くダウ
ンサイジングエンジンの採用に踏み切っている。2010年 11月にラインナップ追
加されたジュークの 1.6L 直 4 直噴ターボがそれである。昨年発売されたノー
トにも、1.2L 直 3 エンジンに過給システム(スーパーチャージャー)が搭載
されており、一部の車種/グレードへの採用が進んでいる。
ちなみにルノーでは、 1.6L 自然吸気に代わる 1.2L 直噴ターボの TCe (ター
ボ・テクノロジー・エフィシェンシー)や、0.9L ターボなどの投入が予定され
ている。
<ホンダ>
ホンダ初のダウンサイジングターボと言えば、昨年秋発売の N シリーズへ採
用された 658cc ターボチャージャー付き「S07A」エンジンであろう。1.5L 並
みの性能とドライバビリティを目指したこのエンジンは、「Earth Dreams
Technology」と呼ばれる次世代技術を投入した新エンジンの代表例と言えよう。
また、2014年秋以降に投入される予定のステップワゴンでは、2.0L 自然吸気
に代わり 1.5L ターボが採用されるとも言われている。同じく 2015年頃にモデ
ルチェンジを控えているフリードには、1.0L 直 3 ターボが載るとも言われて
おり、そのラインナップは増えていくことが予想される。
このように、基軸は HEV / PHEV / EV 等の先進技術に置きながらも日系メー
カー各社は、過給ダウンサイジングエンジン投入への準備も粛々と進めている。
前述のアンケート結果そのままに、その適用範囲はある一定程度までの拡大が
見込まれる。
【グローバルでの将来シナリオを考える】
アンケートの一部コメントに、低速域(エンジン低回転域)での使用が多い
日本市場では、過給特性が十分に発揮出来ないとのコメントを頂いた。
過給ダウンサイジングエンジンの議論に留まらず、やはり各市場でのユーザー
の使い方(クルマの使われ方)には、深い理解と洞察が必要となろう。航続距
離という課題を抱える EV の使用方法議論と、その論点は似ている。
各社とも、将来的な台数増加が見込まれる(台数増加を狙う)特に新興国市
場に対し、どのような動力源のクルマをメインに据えるかを日々喧々諤々と議
論していると思われる。
その際に最も重要なのは、地域個別での最適化のみならず、グローバルで見
た「将来的な全社シナリオ」との連携であろう。
21 世紀における過給ダウンサイジング「元祖」とも言うべきフォルクスワー
ゲンは、1.4L の TSI とリチウムイオンバッテリー及び 7 速デュアルクラッチ
を組合せた、ジェッタハイブリッドを欧州市場に投入することを発表している。
短中期的には「モーター + 小排気量ターボ化エンジン」の HEV を今後の主流
に置いてくるものと思われる。
日系メーカーにおいても、特に先進国向けに対しては HEV / EV や内燃機関
の効率向上など、地に足の着いた取組みがなされていると感じている。一方で、
これら先進技術を用いた車両の新興国導入に関しては、車両価格/技術流出の
問題など複合的且つ複雑な課題に直面しているのが現状ではなかろうか。
高い技術力を先進国のみへの適用に終わらせるのではなく、グローバルを見
据えたユニット議論(エンジン/モーター/トランスミッションなど)や、共
通化議論など一つ一つ整理していくことが肝要である。
それらがまさに「将来的な全社シナリオ」の礎となると共に、欧州/北米メー
カーの流れも横目でしっかりと確認しながら、見習う部分は積極的に取り入れ
ていくという考え方も時には必要となろう。
<川本 剛司>