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環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加での日本の立ち位置について
今回は、「環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加での日本の立ち位置」をテー
マとした以下のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6722
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【日本の環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加の現況】
安倍首相が TPP への交渉参加表明を 3月 15日に参加国へ通知してから早く
も 1 ヵ月が経った。これまで農産物を中心に日本が保護してきた等の経緯があ
り、TPP への交渉参加は国民の中でも賛否両論があったが、2月 22日の日米首
脳会談において「全ての品目の関税撤廃を前提としない」ことの確認が取れて
以降、事態は急速に進展した。4月 9日 に発表された NHK の世論調査によると、
TPP への交渉参加表明の評価は「評価する」が 64 %となり、過半数の国民か
ら支持を得る結果となった。
日本の TPP への交渉参加は、既に交渉に参加している 11 ヵ国全てからの承
認を得る必要があるが、現時点での状況は以下の通りとなっている。
[支持]
米国、メキシコ、ペルー、チリ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、
ブルネイ
[保留]
カナダ、オーストラリア、ニュージーランド
日本が目指している 7月の TPP 交渉参加入りに向けては、先週のはじめ時点
では米国含め未だ 4 ヵ国からの支持が得られておらず、厳しい状況が続いてい
た。然しながら、新たな交渉参加国を認める場合には議会が 90日間議論する必
要があり、遅くとも 4月中に事前協議を決着させる必要があった米国とは先週
末時点で、議論先延ばしのものも含めて事前協議は合意に至った。
米国との調整における主な焦点は、「自動車」、「保険」、「食の安全」の
3 点となっていた。
「自動車」については、日米両政府の事前協議において米国が日本からの輸
入車に課している関税(乗用車:2.5 %、トラック:25 %)を当面維持するこ
とで大筋合意をした、との報道がある。
「保険」については、日本政府が出資している日本郵政傘下のかんぽ生命保
険事業が民間保険事業の公正な競争を阻害する、との米側主張があった。これ
については、かんぽ生命保険として新商品の投入は行わずに現在の事業を継続
維持ということで大筋合意した、との報道がある。
「食の安全」については、日本側の安全性に関する独自基準(食品添加物等)
の緩和が対象。これについては、引き続き調整が必要であるが、本交渉に議論
を持ち越すことで大筋合意した、との報道がある。
上述の通り、日本側が一部譲歩する形で米国からは事前協議において大筋合
意を得た。他に対応を保留している 3 ヵ国も最終的には米国に追随することが
期待され、このまま順調に事が進み、事なきを得れば、7月の日本の交渉参加は
現実的なものとなるであろう。
【日本の自動車業界から見たTPPへの参加意義】
前章で述べた通り、TPP 交渉参加は過半数の国民からの支持を得ており、日
本自動車工業会としても支持する声明を発表している。
一方で、日米の事前協議においては、米国が乗用車を日本から輸入する際に
掛けている 2.5 %の関税を 5年超、トラックの 25 %は 10年超残すことで大
筋合意しており、自動車業界にとっては特段の恩恵を受けていないとも捉えら
れる。
また、オーストラリアとは個別に経済連携協定(EPA)の締結交渉を推進して
きているが、日本が米国の輸入車への関税維持を容認したことを受け、オース
トラリアも現状の関税 5 %を維持すると主張し出している。これは元々、協定
発効から三年後に関税をゼロにする案を軸に調整が進んでいたとされている中
で、事態が後退する話であり誠に残念である。
TPP 参加各国への輸出台数を見てみても、米国やオーストラリア向けが大き
な割合を占めており、この 2 ヵ国との調整が非常に重要な位置づけとなる。
[日本からの乗用車新車輸出台数(千台)]
1980年 1990年 2000年 2010年 2012年
米国 1,819 1,876 1,642 1,516 1,678
オーストラリア 129 145 258 339 360
ニュージーランド 50 48 25 30 31
カナダ 158 238 167 195 186
メキシコ 0 1 6 63 54
ペルー 8 1 4 21 28
チリ 36 17 18 60 37
シンガポール 30 25 38 6 4
マレーシア 81 45 38 32 41
ベトナム 0 1 3 1 1
ブルネイ 6 6 3 4 4
小計 2,317 2,401 2,200 2,267 2,423
全世界合計 3,947 4,482 3,796 4,275 4,196
(TPP参加国向けの割合)59% 54% 58% 53% 58%
[日本からのトラック新車輸出台数(千台)]
1980年 1990年 2000年 2010年 2012年
米国 589 361 27 15 21
オーストラリア 93 103 59 38 36
ニュージーランド 14 18 7 3 5
カナダ 27 47 1 1 2
メキシコ 0 0 1 15 13
ペルー 7 2 2 7 3
チリ 34 16 23 15 3
シンガポール 11 7 18 3 2
マレーシア 30 70 24 18 21
ベトナム 0 0 3 7 4
ブルネイ 1 1 0 0 0
小計 805 625 167 123 110
全世界合計 1,954 1,309 618 450 477
(TPP参加国向けの割合)41% 48% 27% 27% 23%
<出典: 日本自動車工業会データベース>
また、各国から日本の TPP への交渉参加が支持されたとしても、本交渉にお
いてはまだ多くの調整事項が残る。米自動車業界は日本の TPP 参加に対して反
対姿勢を崩しておらず、本交渉で軽自動車規格の撤廃等、更なる妥協を迫って
くることも想定される。
そうした状況下、本格的な交渉を通じ、農業等他産業への影響も考慮した上
で、日本の自動車業界としては、最終的にどのような落としどころに持ってい
くのが現実的か、弊社メルマガ読者の皆様にお伺いした。
[TPP交渉における自動車分野での解決策について]
1.日本の農産物への輸入関税において一部譲歩することを見返りに、
米政府が現状設けている自動車輸入関税の“早期”撤廃を実現 :20 %
2. 軽自動車規格撤廃・見直し(※)の見返りに米政府が現状設け
ている自動車輸入関税の“早期”撤廃を実現 :35 %
(※登録車も含めてCO2排出量等を軸に税制等を改訂)
3. 事前協議で大筋合意した米国の輸入関税、乗用車:5年超、トラック
:10年超の“超”の具体的なスケジュールの明確化のみに専念 :10 %
4. 米政府が設けている自動車輸入関税の継続を予定期間容認する
代わりに、日本の農産物への輸入関税や軽自動車規格を守る :30 %
5.その他 : 5 %
結果として、「2.軽自動車規格の撤廃・見直し×自動車輸入関税早期撤廃」、
「4.軽自動車規格の維持×自動車輸入関税の当面の維持」が二分する形となっ
た。
日本の自動車輸出が今後どうなるかというのが一つの論点になるであろう。
筆者としては、地産地消が進む中で日本からの輸出台数は減少するものの、各
国へ生産移管するには非効率な少量多品種の車種や、電気自動車、燃料電池車
等の高付加価値車、中大型の商用車を中心に一定数は保たれると考えている。
また、国内工場の位置づけを世界のお手本となるマザー工場とする為にも一
定の生産台数の確保は必要であり、人口動態等からも国内需要の縮小が確実視
されている中で、一定の輸出台数の維持・確保は必要になるであろう。
昨今の円高是正が進んだ状況下、日産のローグや、ムラーノ等、海外への生
産移管を延期する向きも出てきている。
マーケットの拡大や、グローバルプレイヤーとの競争環境の激化に伴う現地
生産や部品の現地調達化の流れは今後も進むと考えられるが、日本からの部品
輸出も未だ基幹部品を中心として一定の規模があることや、その生産移管の進
捗速度も念頭に入れておく必要がある。
<<日本の主な輸出先(2012年のTOP 10)>>
[自動車部分品]
総額 : 32,050 億円
1.アメリカ : 24.0 %
2.中国 : 18.5 %
3.タイ : 10.1 %
4.インドネシア : 5.1 %
5.メキシコ : 4.8 %
6.カナダ : 3.9 %
7.オランダ : 3.2 %
8.イギリス : 3.1 %
9.ドイツ : 2.6 %
10.マレーシア : 2.3 %
[原動機(エンジン等)]
総額 : 22,603 億円
1.アメリカ : 24.9 %
2.中国 : 13.0 %
3.タイ : 10.2 %
4.韓国 : 4.8 %
5.インドネシア : 4.7 %
6.イギリス : 3.9 %
7.台湾 : 2.6 %
8.ドイツ : 2.6 %
9.インド : 2.5 %
10.シンガポール : 2.4 %
※自動車用途以外も含まれる
[自動車(参考)]
総額 : 92,249 億円
1.アメリカ : 32.8 %
2.オーストラリア : 8.1 %
3.ロシア : 6.7 %
4.中国 : 5.2 %
5.UAE : 3.5 %
6.サウジアラビア : 3.2 %
7.カナダ : 3.2 %
8.オマーン : 2.3 %
9.インドネシア : 1.9 %
10.タイ : 1.6 %
<出典: 一般社団法人日本貿易会>
また、TPP におけるルール作りは、現在並行して進めている日中韓自由貿易
協定(FTA)や、日 EU 経済連携協定(EPA)に与える影響も決して小さくはな
いであろう。中国は乗用車に 25 %、EU は 10 %の関税を設定しており、これ
まで日本の輸出品の競争力が削がれきたと言える。中国、EU 共に日系勢が比較
的、他地域程食いこめていないことや、韓国が EU と FTA を締結したこともあ
り、日本としても何とか活路を見出したいところである。
【TPP本交渉において期待すること】
前章までの点を踏まえ、やはり各国で設定されている自動車輸入関税につい
ては、本交渉においてもう一歩突っ込んだ議論を行い、撤廃、乃至は見直しに
まで持ち込みたいところではある。
その見返りが軽自動車規格の撤廃かと言われると、そう言うつもりはない。
軽自動車は、日本の道路事情(隘路等)に合わせた設計となっていることや、
高齢者や女性等が利用するセカンドカー需要、また、交通の便がそれ程良くな
い地方の足としての需要に対応するものであり、日本の市場特性に合致させた
ものとなっている。また、軽自動車の生産・販売は日本勢にのみ許可を与える
ことになっている等の閉鎖性はない。この点を踏まえれば、米国が指摘するよ
うな非関税障壁という主張は理解できないし、仮に軽自動車規格を撤廃したと
しても、現在の軽自動車ユーザーが軽自動車の代わりに現状の米国車に乗り換
えるという需要は想定し難いであろう。
寧ろ、慎重な検討が必要であるが、ただ単に軽自動車規格を撤廃するのでは
なく、これを契機に過去からあった軽自動車規格見直しの議論(※)を再燃さ
せ、日本の自動車業界が望む形での一定の方向性を見出すことが必要となるか
もしれない。(例: 登録車も含めた CO2 排出量等を軸に税制等を改訂、等)
※詳細は過去に配信した弊著レポートをご参照方
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6364
今回の日本の TPP への参加では、ただ単に参加したということに留めず、日
本政府には日本の産業競争力が向上するように是非有利な条件を勝ち取れるよ
う、引き続きのご尽力に期待したい。
<横山 満久>