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第 43 回 東京モーターショー 2013 開催に向けて
今回は、「第 43 回 東京モーターショー 2013 開催に向けて」に関する以下
のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6892
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いよいよ、東京モーターショーが今週末 22日(金)より、12月 1日迄、東京
ビッグサイトにて開催される。筆者を含め、自動車好きはこの 2年に 1度の催
しに熱い期待と思いを抱く。開催直前ではあるが、「もう待ちきれない」。そ
こで、読者の皆様と一緒に未来へ想いを巡らせてみたい。
【「世界にまだない未来を競え。」”Complete! And shape a new future.”】
主催者(日本自動車工業会)は、このテーマに「クルマやバイクとその技術。
それは世界中の人をあっと驚かせたい、楽しませたいという想いのもと、製品
づくりに関る全ての人たちが競い合った結果、生まれるもの。美しさ、技術、
夢など多様な価値観を競う中で生まれる『世界にまだない未来』を体験して頂
きたいという想いを込めました」と謂う。
自動車産業は昨今、大きな転機を迎えている様に思える。現在の自動車の原
型は既に 1908年に導入された T 型フォードでほぼ確立された。「クルマ=内
燃機関駆動+シャーシ車体」、今日まで続いてきた基本構造は、昨今の技術進
化の中、大きく変わろうとしている。
駆動方法は従来型内燃機関に加え HEV、PHEV、EV、FCV が本格導入されてい
る。また、車体構造も、先進モジュール方式が導入され、メーカーによっては
「将来は脱シャーシ」を唱えている。百年の歳月を経た今、将に「『再発明』
の時代」を迎えた。そして我々は、モーターショー会場にて、「世界にまだな
い未来」を目の当たりにするであろう。
【一般来場者が期待するクルマ】
今回、メルマガ寄稿に当り、「モーターショーで特に関心を持つクルマ像」
についてアンケートを実施した。因みに、弊社は前回 2011年にも同様のアンケー
トを実施した。これら突き合わせた結果は次の通り。
前回(2011) 今回(2013)
・「安全性を重視したクルマ」 12% 27%
・「環境性を重視したクルマ」 32% 23%
・「走行性を重視したクルマ」 23% 18%
・「快適性・利便性を重視したクルマ」 16% 17%
・「デザイン性を重視したクルマ」 14% 11%
・「その他」 3% 4%
もし、上記結果を鵜呑みするのであれば、僅か 2年の間ではあるが、クルマ
に対する想い・関心は次の様に変化したことになる。
2011年 ①環境 ②走り ③快適 ④安全 ⑤デザイン
2013年 ①安全 ②環境 ③走り ④快適 ⑤デザイン
つまり、「安全」が大躍進した。これは、自動ブレーキ等の安全技術が進化
し普及したことを意味すると共に、「環境」については、HEV、PHEV、ダウンサ
イジング技術により、「一先ずは実用化・一般化された」ことを反映しての結
果と思う。
加えて言えば、これら 2 つの要素が逆転したこと以外は、各要素の順位変化
はない。つまり、安全で、環境性能がよければ、人々は次には「走り」を求め
る、ということだろうか。
【テクノロジーの進化】
モーターショーを目前にして、各種ビジネス誌は「次世代自動車」関連の特
集を取り上げている。東京モーターショーの目指す姿、「世界一のテクノロジ
ー・モーターショー」を盛り上げている。本メルマガは誌面の都合上、概観を
舐める程度ではあるが、昨今のテクノロジーの進化をレビューしてみよう。
まず、「環境」について。日本では「排ガス」問題はほぼ解決済と言える。
昨今の日本車は規制水準の 4分の 1 未満しか、問題となる成分を排出していな
い。残された課題は燃費技術であるが、これも 2015年規制は既に前倒しで対応
済、目下の課題は昨年末公表された 2020年企業平均燃費(CAFE)目標「2020年
までに 2009年実績比 24.1 %の燃費改善」への対応である。
燃費改善に向けて、各社は「電気化」や「軽量化」に取り組む。後者につい
て言えば、軽量化材料として高張力鋼・軽金属・ CFRP 含むプラスチックの活
用が進む。特に高張力鋼活用と設計の見直しにより、車体重量を 35 %減らす
技術も実現している。
一方、安全については、センシング技術とパワートレイン/ブレーキの融合、
更には、GPS /テレマティクスとの融合が急速に進化している。これら機能を
搭載した場合、クルマは可也「ぶつからなくなる」らしい。翻れば、IT を駆使
してそもそもぶつからなくなったら、将来的には車体安全基準の見直しも有り
得る、と思う。
何れにしても、これら、テクノロジー進化を満載した「次世代自動車」は従
来のモノづくり概念では、可也高価なものになろう。そこで、アーキテクチャー
&モジュール工法による画期的なコストダウンを各社ともに目指している。そ
してアーキテクチャー&モジュール工法は単なる技術的な問題としては収まら
ず、自動車産業そのもののあり方を変えていくだろう。
【創造的破壊と経営の課題】
これらテクノロジーが及ぼす変化は単にテクノロジーには収まらないであろ
う。日本の自動車産業は、今、「創造的破壊」のプロセスに入ろうとしている
のではなかろうか?。
90年以降、日本経済は、「失われた 20年」を歩んだ。更には、2008年のリー
マンショックにより、グローバル経済は「大いなる安定」を終え「破壊的ボラ
ティリティ」の時代を迎えた。経済の不確実性は急速に高まっており、この状
況は暫く続くであろう。5年先ですら、先を見通すことは難しくなっている。
90年代初頭、自動車と電気は日本経済のリード役であった。そして、半導体
はその後、苦境に陥り、未だ困難が続く中、日本の自動車産業は一貫して日本
経済全体をリードしてきた。
日本の産業構造は、「自動車の一本足打法型産業構造」(経済産業省「産業
ビジョン 2010」より)とも言われた程である。クルマの持つインテグラル型商
品特性の下、国内で開発された商品のローカル化、高度なモノづくりによる商
品付加価値の向上、暗黙知の交換による持続的イノベーションの追求、グロー
バルネットワーク網の拡充(但し、主体は日本人)、同質性の高い集団的経営
による組織の求心力確保と現場突破力の最大化、等々の日本型経営手法を最大
限駆使することでこれ迄、荒波を幾度と無く乗り切ってきた。
「まだない未来」はまだ見えない。然し、徐々にその姿は現れてきている。
例えば、クルマの安全化や、自動運転への関心の高まりは、日本の高齢化の進
行、特にそのことに対する消費者の関心の高まりを表している。翻せば、日本
は、世界のどの国よりも「自動運転先進国」になりうるニーズと現場を持って
いる。
また、日本は少子高齢化に加え、人口は減少し、国内市場は縮小する一方で、
アジアは中間所得層が現状の 5 億人から 2020年には 13.5 億人へ急増すると
予測されている。日本はアジアの一員である。近いことは経済的にも絶対的な
優位性を持つ。
これらを現実のものとすることが、今後の我々の課題であり、その為には、
新たな商品開発・マーケティング戦略の開発、水平分業によるローコストで機
動的な製造開発体制への移行、時には M & A を駆使した事業構想の抜本的な
組替え、更に、IT ・ネットワーク技術を駆使した新たなビジネスモデルの創造、
等々の課題に勇猛果敢に取り組み成果をあげなければならない。
【そして「未来」へ】
「再発明」はプロダクトに留まらない、ビジネスにも然りであろう。もし、
「再発明」が本物であれば、それは、自動車業界に「創造的破壊」を齎し、業
界随所で種々の変革が起こり、時には荒波が押し寄せることもあるだろう。然
しそうしたものを経て、日本の自動車産業はより大きな成長を遂げ、日本経済
そのものの成長をもリードし続けるのである。それが「まだない未来」が暗示
することだと思う。その予兆を、この週末にお台場で掴みたい。
そう私は考えている。
<大森 真也>