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軽自動車税見直しによる自動車メーカーの戦略への影響について
今回は、「軽自動車税見直しによる自動車メーカーの戦略への影響について」
をテーマとした以下のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6925
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【国内新車市場における軽自動車の存在】
国内新車販売台数における軽自動車の販売比率が拡大しており、2013年の販
売台数では 4 割に迫る勢いである。
[軽自動車販売台数推移]
(単位:千台) [新車販売台数] [内、軽自販売台数] [軽自比率]
2013年 5,375 2,113 39.3 %
2012年 5,370 1,979 36.9 %
2011年 4,210 1,521 36.1 %
2010年 4,956 1,726 34.8 %
2009年 4,609 1,688 36.6 %
(出典: 社団法人日本自動車販売協会連合会)
自動車メーカー各社が国内雇用を維持しつつ、国内をマザー工場としての役
割を果たす為には国内市場においても一定台数の販売が必要であり、そうした
観点からも国内市場で大きな部分を占める軽自動車開発・生産に注力するメー
カーが増えてきている。
一方で、このような状況下、2014年度税制改正において軽自動車税が 2015年
度新規購入分から、現行の年 7,200 円から 1.5 倍となる年 10,800 円となる
こととなった。この軽自動車税増税が国内総市場(新車販売台数)と軽自動車
の販売割合にどのような影響があるか、メルマガ読者の皆様にお伺いした。
[軽自動車税の見直しによる国内市場への影響について]
1.国内総市場(新車)が縮小することに加えて、
軽自動車の販売シェアも低下 :29 %
2. 国内総市場(新車)は軽自動車税増税による影響をそれ程受けないが、
軽自動車の販売シェアは低下(軽自動車から小型車への乗換等):15 %
3. 国内総市場(新車)は増税による影響をそれ程受けず、
軽自動車の販売シェアもそれ程変わらない :49 %
4. その他 : 7 %
結果として、「3.国内総市場(新車)は増税による影響をそれ程受けず、軽
自動車の販売シェアもそれ程変わらない」が約半数の票を集めた。軽自動車税
が増税になっても、未だ小型登録車と比べ経済的メリットが大きく、筆者も同
じ意見である。また、燃費が良く、環境に優しいクルマの税率を引き下げる
「軽課」についても検討されることとなっており、これも上記ご選択を後押し
する要素の一つとなったものと考える。
そもそも軽自動車は小型ならではの運転・操作面の容易性に加えて、税金の
安さ、燃費の良さ、車両価格の安さ等の経済合理性が総合点として相対的に高
いことが選択される理由となっている。そうしたメリットからも、軽自動車は
特に公共交通が乏しい地方居住者を中心に、高齢者、女性の日常移動やセカン
ドカーとして必需品となっており、今回のレベルでの軽自動車税増税では市場
構造を変える程の影響はないと考える。
【ファーストカーとしての軽自動車需要の拡大】
上述の通り、軽自動車は地方の足としての地位を確立している。少子高齢化
による人口減少は言われて久しいが、下記国連の人口統計データによれば、そ
の多くは地方人口が減少すると見込まれている。
[日本における地方人口将来予測]
(単位:千人) [総人口] [内、地方人口] [地方人口比率]
2000年 125,720 26,843 21.4 %
2005年 126,393 17,723 14.0 %
2010年 126,536 11,969 9.5 %
2011年 126,497 11,044 8.7 %
2015年 126,072 8,180 6.5 %
2020年 124,804 5,927 4.7 %
2025年 122,771 4,581 3.7 %
2030年 120,218 3,795 3.2 %
2035年 117,349 3,379 2.9 %
2040年 114,340 3,097 2.7 %
2045年 111,366 2,837 2.5 %
2050年 108,549 2,600 2.4 %
(出典: 国連人口統計データの Urban and Rural Populations)
都市部(Urban)と地方(Rural)の定義のあり方はあるが、上記データから
今後は地方を中心に人口が減少していくことが見込まれる。この前提に立てば、
地方の足としての軽自動車需要は減少していくようにも見える。
一方で、一般社団法人日本自動車工業会著の「軽自動車の使用実態調査報告
書」(2012年 3月発行)の下記データを見て頂きたい。
[軽自動車との併有有無と併有車の車種]
[登録車との併有][軽自動車のみ2台保有][軽自動車1台のみ]
2005年度 68 % 9 % 23 %
2007年度 65 % 11 % 24 %
2009年度 64 % 11 % 25 %
2011年度 59 % 14 % 27 %
このデータによれば、軽自動車はファーストカーとしても購入する層が増え
てきているということが分かる。つまり、地方の足としてのセカンドカー需要
以外にもニーズが広がってきていると言える。「軽自動車のみ 2台保有」と
「軽自動車 1台のみ」を合算して考えれば、2005年度は 32 %だったのが、2011
年度では 41 %まで拡大している。本レポートは隔年での発行となっており、
2013年度においてはこの傾向が更に顕著に出ているのではないかと考える。
今後、少子高齢化の進展により社会保障費が拡大していくことが想定されて
いる。それを支える若者の懐事情は益々厳しいものになっていくだろう。そう
した中、若者のエントリーカーとしての軽自動車の役割も大きなものになるの
ではないだろうか。
最近では、スズキが街乗りとオフロード走行性能を両立した遊び心たっぷり
の軽 SUV 「ハスラー」を今月 8日に投入し、既に月販目標の 5 倍の受注に至
っている。また、ダイハツも 2012年に生産を終了した軽スポーツ車「コペン」
を 5月を目途に再投入するとの報道がある。先の東京モーターショーでも、
「コペン」は着せ替えボディ等、若者心をくすぐるような魅力的な発表をして
いた。今後も、経済合理性の追求に加えて、このような若者を魅了する「遊び」
のあるモデルの継続投入が望まれる。
また、年金の支給額も減少していくと想定される中で、年金受給者である高
齢者にとっても、軽自動車をファーストカーとして購入される方も増えるであ
ろう。
このように、自動車メーカー各社が国内雇用を維持しつつ、国内をマザー工
場として機能していく為には国内市場においても一定台数の販売が必要であり、
これまでの地方の足としてのセカンドカー需要に加え、ファーストカー需要も
取り込んでいく必要があろう。
【軽自動車のあり方】
上述の通り、軽自動車は国内市場にとっては必要不可欠なものとなっており、
今後もこのポジションは揺るがないものと考える。
一方で、海外市場を見た場合はどうであろうか? 三菱自動車がアフリカ市
場で軽自動車や軽自動車技術をベースとしたクルマの投入を検討するとの報道
があったり、インドネシアでダイハツが軽自動車の技術を活用した車両を投入
するといった動きがあるが、軽自動車をエンジン(排気量)も変えずにそのま
ま海外で販売するには至っていないと思われる。
軽自動車と、新興国を中心としたグローバル市場向けの小型低価格車の開発
と結び付けていく取り組みは、自動車メーカーにとって経営資源の有効活用の
観点からも今後重要な検討テーマとなるであろう。
この点については、過去の下記筆者記事も合わせて参照頂きたい。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6364
その為には、今回の課税強化を機に、軽自動車の規格のあり方(660cc とい
う軽自動車の排気量や車格規制の見直し等)についてもより一歩踏み込んだ議
論、検討が必要ではないだろうか。
<横山 満久>