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「インテリジェント・パーキング・アシスト」に見る自動車業界の技術開発
◆トヨタ、9月19日発売の「レクサス LS460」に採用する新安全技術など発表
◆トヨタの新型「カローラ」、「バックガイドモニター」を標準装備に
<2006年08月24日号掲載記事>
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【はじめに】
トヨタが 2003年 9月に市場投入した現行プリウスの先進的なイメージは、3年経った現在でも色あせず、順調な販売を維持している。その装備の中で発売当時に最も注目を集めたのが、車庫入れや縦列駐車をサポートする「インテリジェント・パーキング・アシスト」である。ステアリングが自動で回転し、運転手はブレーキペダルを操作するだけで駐車できてしまうこの機能はマスコミでも大きく取り上げられた。手を離して驚きながら車庫入れするレポーターの映像がテレビでも頻繁に流れたのを記憶している方も多いだろう。
今回のコラムでは、この「インテリジェント・パーキング・アシスト」に代表される駐車支援技術の動向から、新技術を導入する際の留意点について考えてみたい。
【カーナビ普及の波に乗ったリアビューモニター】
「女性のための運転講座」といった特集で、必ずといって良いほど取り上げられるのが車庫入れや縦列駐車などの駐車に関する運転操作である。実際、いくつかのアンケートでも、苦手な運転操作の中で上位にランキングされており、一般男性が想像する以上に駐車が苦手な顧客層が存在する。
こうしたニーズを取り込むべく、かなり昔から自動車メーカーは駐車支援技術の開発を進めている。その代表例が、バックソナーやリアビューモニターである。バックソナーは単体でもさほど高価なオプションではないが、リアビューモニターは、CCD カメラやハーネス類に加え、表示用のディスプレイが必要となるため、積み上げると高額になってしまう。これを打破し、普及するのに大きく貢献したのがカーナビゲーションシステム(カーナビ)の存在である。いまや累計 22 百万台(2006年 3月時点)を突破したカーナビの普及により、そのディスプレイを活用する形で、最低限のコストで市場投入が可能となったからである。カーナビに追加する形であれば、比較的安価なオプションであり、ディーラー等で取り付けることも可能であるため、カーナビと共に新車購入時の装着を薦められる定番オプションとして定着している。
現在では、後方だけでなく、前方や側方の視界を補助する車載カメラや車室内を監視するカメラも実用化されており、最近では視界基準確保の法制化の後押しも受け、車載カメラの需要は急速に増加している。1990年代後半から急速に拡大し始めた車載用 CCD カメラ市場は、現在年間 150~ 200 万台規模であり、2010年には 400~ 600 万台規模にまで成長すると言われている。
【駐車支援システムの進化】
このリアビューモニターの高度化にいち早く着手したのがトヨタである。2000年に発売した 2 代目(先代)エスティマに搭載された「バックガイドモニター」は、ステアリングの操舵角を検知し、車両の進路予測ラインをディスプレイ上に表示する機能を搭載した。その後、縦列駐車時のステアリングの切り返しタイミングを音声で案内する機能を付加し、ブレビス、クルーガー、アルファードなど、多数の車種に展開した。
こうした駐車支援技術を革新的に進化させた形として、 2 代目(現行)プリウスに搭載された前述の「インテリジェント・パーキング・アシスト」が登場することになる。
この技術が注目を集めた大きな理由は「わかりやすさ」と「先進性」の二つにあると考えられる。まず、「わかりやすさ」であるが、昨今の自動車業界の先進的な技術の中には、消費者がメリットを実感しにくいものも少なくない。特にエアバッグやプリクラッシュセーフティなどの安全性能に関わる技術においては、いざという時がなければ、その価値を体感できるものではない。ところが、快適性能に関わる技術は使用頻度が高く、特に駐車支援システムともなれば、クルマを動かすたびに使用機会があり、消費者もその価値を体感しやすい。前述の通り、駐車が苦手な運転者も少なくなく、この機能だけでも大きな購買動機になると考えられる。実際、現行プリウス購買者の 8 割以上がカーナビとセットの「インテリジェント・パーキング・アシスト」をオプション選択しているという。
そして、「先進性」についてであるが、自動車メーカーの先進技術の方向性として、将来的には自動運転を実現するということが視野に入っており、ASV (先進安全自動車)のような先進技術を搭載した試験車両の開発に取り組み、完成度が高められた技術が順次実用化されつつある。しかしながら、現在市場で実用化される先進技術は運転支援技術が中心である。すなわち、走行車線や障害物をカメラ等にて認識することで、車線の逸脱や前方障害物を検知して警告することは実用化されているものの、ステアリングから手を離し、自動で操舵・回避してくれるような機能は、技術面では可能であったとしても、安全性の確保という観点からも、商品化が難しい。ところが、この「インテリジェント・パーキング・アシスト」は、駐車という限定された状況ではあるが、ステアリング操舵の自動化を実現したものであり、その「先進性」を大きく消費者にアピールすることになり、ハイブリッドカー「プリウス」のイメージ向上にも大きく貢献した。
しかし、これで完成というわけではない。2005年 11月のプリウスのマイナーチェンジでは、リアビューカメラの映像を画像処理することで駐車区画線の自動認識し、目標駐車位置を設定する駐車枠認識機能が追加となり、操作性を向上させた。この第二世代の「インテリジェント・パーキキング・アシスト」は、2006年 1月に発売となった 3 代目(現行)エスティマにもオプション設定された。
そして、今回、9月に発売するレクサス LS に、第三世代の「インテリジェント・パーキング・アシスト」が搭載されることが発表となった。今回のシステムでは、車両前部に取り付けられた世界初の超音波センサーにより、駐車中の他の車両の位置を検出し、その結果を基に駐車が可能な空間を推定し、目標駐車位置を設定する。第二世代で実現した駐車区画線の自動認識機能と合わせて、ドライバーによる駐車位置の設定・調整操作を大幅に簡略化し、使用性を向上させたという。
また、10月に発売予定の次期カローラでも、購入者の平均年齢が 60 歳と比較的高いことに配慮し、安全・快適性能と高めることを狙っており、前述のバックガイドモニターが標準搭載されるだけでなく、「インテリジェント・パーキング・アシスト」もオプション設定される予定と報道されている。
【量産車種に展開するまでのプロセス】
ここで、これまでのトヨタの「インテリジェント・パーキング・アシスト」の展開状況を振り返ってみる。
第一世代
2003年9月~: プリウス(月間販売台数目標3,000台)
第二世代
2005年11月~: プリウス(同3,500台)
2006年1月~: エスティマ(同7,000台)
2006年10月~: カローラ(同18,000台)※推定
第三世代
2006年9月~: レクサスLS(同1,500台)※推定
※販売台数目標は国内のみであり、海外輸出分も含めた生産台数はもっと大きくなる。
また、この対象車種全てに標準搭載されるわけではなく、オプションとして用意されていることも考慮すると、実際に「インテリジェント・パーキング・アシスト」の出荷台数は、これよりも小さい。
この「インテリジェント・パーキング・アシスト」の構想は 1996年に始まったといわれており、量産開始までに 7年間を費やしたことになる。そして量産以降も、開発が完了したわけではなく、更なる快適性・利便性を追求し、技術レベルの向上を図ってきた。その結果、当初は月 3,000台レベルで導入した技術を、2年後に月 1 万台レベルまで、そして 3年後に月 3 万台レベルまで拡大するというステップを踏んでいる。つまり、革新的な技術を低価格の量産車種に適応させるまでに約 10年かけていると言える。
そして、この開発は、トヨタだけで成り立っているものではなく、世界的にもトップレベルの規模を誇るサプライヤであるアイシン精機との共同開発であることも重要である。他社も同様のコンセプトの技術を開発しているという話もあり、トヨタ、アイシンという体制だからこそ、他社に先駆けて実用化できたとも言える。
【各社の技術開発リソースの分析】
今回の技術は、安全にも大きく関わるものであり、慎重を喫したところも大きいと考えられるが、一般的に革新的な技術を量産車種に展開するまでには、5~ 10年の期間がかかると言われる。開発期間が長くかかれば、当然開発コストも膨らむ。
また、リコール問題とその対応が大きなテーマとなっている中、導入した技術に問題が発生すれば、大きな損害を被ることになる。そのため、生産台数の少ない車種から実用化を始めることが多く、コストとの兼ね合いからも高級車から始めて、技術の完成度や量産効果を向上させてから量産車に展開するというのが一般的である。結果、研究開発費、生産台数・車種ラインナップ、開発力のあるサプライヤが充実している自動車メーカーの方が新技術導入に有利ということになる。
ここで、国内で乗用車を生産する主要 8 社の 2006年 3月期の販売台数、売上高、研究開発費はまとめてみると、以下の通りとなる。
<乗用車メーカー各社の販売台数・売上高・研究開発費>
販売台数(うち国内) 売上高 研究開発費
トヨタ: 797万台(236万台) 210,360億円 8,120億円
日産: 357万台(84万台) 94,283億円 4,476億円
ホンダ: 339万台(70万台) 99,080億円 5,103億円
スズキ: 207万台(71万台) 27,465億円 899億円
三菱: 134万台(26万台) 21,201億円 603億円
マツダ: 115万台(29万台) 29,198億円 957億円
ダイハツ: 114万台(75万台) 13,480億円 478億円
富士重工: 57万台(23万台) 14,764億円 469億円
<出典: 各社財務資料より>
こうしてみると明らかであるが、トヨタの研究開発費は、日産・ホンダの約2 倍、スズキ以下各社の 10 倍程度の規模である。生産台数や投入車種数の違いもあるので、一概に比較するのが良いとは言えないが、リソース負担が大きくなる大規模、革新的な技術開発になればなるほど、トヨタが優位にあることは間違いないだろう。
【効率的に新技術開発を行うために】
では、トヨタ以外の他社は、どうやって新技術開発を進めるべきであろうか。勿論、開発リソースと開発した新技術がもたらす販売面での成果は必ずしも比例するわけではないから、キラリと光るコロンブスの卵的な技術開発ができれば、ヒット商品につなげることができる可能性もある。しかし、継続的な商品開発が求められる自動車業界において、毎回この手のヒットを期待するのは難しいであろう。
そこで、自社や系列サプライヤのリソースやシーズだけに頼らず、これまで以上に外部のリソース活用を検討すべきではなかろうか。同業他社との技術提携というのもあるだろうが、お互いに Win-Win になる関係を維持できなければ、長続きは期待できない。そこで、異業種やベンチャー企業が持つ技術シーズや、これまで取引していなかった系列外や海外のサプライヤのリソースを活用することに注目すべきだと考える。特に自動車業界に参入してきてない企業の中には、これまで自動車業界では考えられなかったような技術・アイデアを持つ会社も期待でき、これまで以上に開発効率を上げることができるのではないかと考える。
すでに外部への門戸を広く開いているという方も多いだろう。しかしながら、外部から見れば、長年限定的なサプライヤとの取引を重視してきた自動車業界は参入障壁が高いと見られているのは事実である。また、他の業界に比べて長い開発サイクルも、ベンチャー企業等にとっては大きな負担となるため、ある程度の事業基盤がないと参入が難しいという側面もある。
しかし、こうした問題に対する取り組みは始まりつつある。すでに、一部の地方自治体では、ベンチャー・中小企業の自動車業界との共同開発をアレンジし、開発が進んでいるケースも見受けられる。当社としても、こうした異業種・ベンチャー企業の技術を活用し、自動車業界の持続的な成長に貢献することに努めたいと考える。
<本條 聡>