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国内市場における群雄割拠の体を成す自動車パワートレイン
今回は、「国内市場における群雄割拠の体を成す自動車パワートレイン」をテー
マとした以下のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7167
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【自動車パワートレインの現状】
国内自動車市場におけるパワートレインの人気はトヨタ「プリウス」を筆頭
としたハイブリッドに集中する状況が続いている。過去 5年あまりの月間新車
販売ランキング上位はハイブリッド車(もしくはハイブリッド車の販売比率が
多い車種)が多くを占めており、また、今年度上半期(4-9月)の新車販売では
登録車におけるハイブリッド車のシェアが 32.1% と 3 割を超え昨年同期の 27.
7% から大きく伸びるなど、その伸びは今なお続いている。
一方で、同じく今年度上半期には、国内メーカー車ではあまり馴染みのなか
った種類のパワートレインを搭載するモデルが続々市場投入されている。日産
「スカイライン」やスバル「レヴォーグ」のダウンサイズターボエンジン採用
や、マツダが最量販車種の「デミオ」にまでディーゼルエンジンのラインナッ
プを拡大したことなどである。海外メーカー車においてはダウンサイジングター
ボエンジンやクリーンディーゼルエンジンは数年前から珍しくなくなっている
ものの、日本市場においてシェアの大部分を占める国内メーカーがそれに参入
する意味は大きい。弊社でもこの数ヵ月間、新発売される国内メーカーのダウ
ンサイジングターボエンジンやクリーンディーゼルエンジンに関するお問い合
わせや取材依頼を多く頂いており、自動車業界だけではなく一般消費者もこの
動きに大いに注目していることが伺える。
更に、既に一部メーカーは市場投入済みのプラグイン・ハイブリッド車やレ
ンジエクステンダー EV なども、そう遠くない数年後には各社の販売店店頭に
ズラリと並んでいてもおかしくない。
【各パワートレインの特性】
上述の通り、自動車パワートレインはそう遠くない未来に群雄割拠の体を成
すことが予想されるが、これらのパワートレインの中で、いずれかが主流を勝
ち得るのだろうか。それを考察するにあたって、まず各パワートレインの特性
について、以下のように簡単に触れてみる。(なお、ここでは網羅的かつ詳細
な評価ではなく、市場および一般的な消費者の認識がどうかという観点で記す。)
[発生する出力および燃費の特性]
ターボエンジンやクリーンディーゼルエンジンは(自然吸気ガソリンエンジ
ンに比して)、停止状態からの発進時にはレスポンスや瞬間燃費で劣るが、同
一排気量の高いトルクを低回転で発生するため、高速道路など停止・発進や加
減速が少ない走行状況で優れた燃費を発揮する。
一方、EV (レンジエクステンダーエンジン搭載のものを含む)のようにモー
ターを駆動の動力源としているパワートレインに関しては、モーターの出力特
性により停止・発進時の燃費に優れるため、信号や渋滞の多い市街地走行に適
している。
また、ハイブリッド(プラグイン含む)は、前述のモーターとエンジンの特
性の得意領域を組み合わせたものとなる。
[給油および充電インフラ]
エンジンを搭載するパワートレインの燃料を補給できる給油所は 2013年時点
で全国約 3 万 5 千存在するが、これは 10年前の 2003年から約 3 割が減少し
た結果であり、今後も年々減少していくものと予測される。
一方、プラグイン・ハイブリッド車や EV に外出先で電力を補給する充電イ
ンフラについては、地域差を伴いつつ今後急速に増加する見通しではあるもの
の、ガソリンスタンドと同等の普及レベルに追いつく時期の見通しは諸説入り
乱れている。ただ、一般的な電源を引くことができる環境であれば、自宅内や
社内の駐車場自体が充電インフラとなる点には留意したい。
以上のように非常に簡単に触れただけでも、各種パワートレインの得意領域
と不得意領域はそれぞれに異なっていることが見て取れる。また、その得意領
域が発揮されるか否かは、走行状況や補給インフラ環境などの使用条件に大き
く依存している。
【主流となるパワートレインの見通し】
上述の通り、一筋縄な評価指標でこれらのパワートレインに単純な優劣をつ
けることは非常に難しいことは承知しているが、敢えて「主流となるパワート
レインはいずれになるか」についてメルマガ読者の皆様にアンケートにてご意
見を頂戴したところ、結果は以下の通りとなった。近くも遠くもない 10年後と
いう未来予測であり、また前述のように簡単に優劣をつけがたい選択肢を並べ
たため、明快に回答するのが難しい設問ではあったが、多くの方に回答および
コメントをお寄せ頂き、ここで深い謝意を表したい。
1. レンジエクステンダー EV (電気モーター + 発電用エンジン):23%
2. プラグイン・ハイブリッド:15%
3. フルハイブリッド:11%
4. クリーンディーゼルエンジン:15%
5. ダウンサイジングターボガソリンエンジン:16%
6. コンベンショナルなガソリンエンジンの高効率化(マイクロ・マイルドハイ
ブリッド含む):18%
7. その他:2%
まず、突出していずれかの選択肢に回答が集中する結果とはならなかった点
に着目したい。これは前述のように、各パワートレインごとに得意領域が発揮
される使用条件が異なるため、それぞれが適材適所な普及が進むであろうとい
う見方を、読者の皆様もされている結果かと思う。
また、回答数としては突出した選択肢が無かったものの、回答とともに寄せ
られたコメントについては、若干傾向に違いがあった。「10年もあれば充電イ
ンフラは既に充実しているだろうから、電気を主な動力源とし燃費に優れるパ
ワートレインが主役になるであろう」とお考えの方は 1./2.を選ばれているよ
うであった。一方、「10年後という近い未来であれば、充電インフラがまだ充
実していないであろうから、電気を主な動力源とするパワートレインのメリッ
トが日常使用で生きることは少ないであろう」とお考えの方は 3./4./5./6.を
選ばれているようであった。
長期的には、プラグイン・ハイブリッドやレンジエクステンダー EV、更には
ピュア EV や燃料電池車に主流が移行していくであろうことは読者の皆様のほ
とんどがお考えのようだが、このアンケート結果は、その移行時期が 10年とい
う微妙な未来よりも近いと想像するか遠いと想像するかが分散した結果のよう
である。
そして、突出した回答を集めた選択肢が無い中、上位の回答数を集めたのが
1.「レンジエクステンダー EV」と 6.「コンベンショナルなガソリンエンジン
(の高効率化)」であった点にも着目したい。前者は次世代技術に対する期待、
後者は既存技術に対する飽く無き研鑽に対する信頼感に基づくものと解釈して
いるが、普及に時間を要するものと既に普及しているものの両極端である二者
に回答が集まるほど、主流パワートレインの移行の時期予想が幅広くばらつい
ているのは印象的である。
【主流となるパワートレインの見通し】
上述のような市場の認識に対して、自動車業界は各パワートレインのライバ
ルに対する優位をどのように消費者にアピールしなければならないのだろうか。
また、自動車業界と消費者の両者を含む社会全体の利益のためには、どのよう
な点が留意されなければならないのだろうか。
各パワートレインごとに適材適所な普及が進むことが予測される中、例えば
「モード燃費」のような単一の指標でお互いの優位性を競うことは、次第にそ
の意味を失っていくことであろう。それよりも、得意領域が異なるパワートレ
インの選択肢が広がる中、消費者一人ひとりの使用条件や環境によりフィット
した選択が重要となる。いかに他のライバルより優れているかよりも、どのよ
うな消費者に適しているかにアピールの重心が移っていくべきである。
また、来るべき主流パワートレインの移行時期を消費者が予測しづらい中、
トレンドを先取りしたい消費者層と、トレンドに対して慎重な消費者層で全く
異なる志向を示す可能性がある。これは、自動車業界の商品展開計画を難しく
する可能性があり、社会全体の損失を生みかねない。
いつ頃、どのレベルまで充電インフラが整備されるのか、どのレベルまで販
売価格が落ち着くのか。それについて、自動車業界だけでなく消費者も含めた
認識を浸透させたうえで、消費者が自分にとって適材適所なパワートレインを
選択できるという状況が、社会全体にとって望ましいのではないかと考える。
<宋 太賢>