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燃費向上技術の持続的開発のためには
◆「燃費改善」を装う商品販売詐欺が急増、米環境保護局が調査。販売中止も
米環境保護局(EPA)は過去30年間、燃費が改善されると称する100種類以上の商品を試験してきたが、大幅に改善されたものは1つもなく、少し改善された8点のうち3点は排ガス中の有害物質が増えた為、販売を中止させた。
燃費を30%以上改善し、有害ガスを50%以上削減できると宣伝しているバイオパフォーマンス社は、全米で販売業者のための講習会を開き、多くの会員から入会費を集めているが、商品の成分は防虫剤と同じで有害であり、テキサス州の司法当局が訴訟を起こした。連邦取引委員会(FTC)も、1990年代から同様の販売業者などに対し12件の訴訟を起こし、販売を差し止めている。
<2006年06月21日号掲載記事>
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【「燃費改善」の意義】
「燃費改善」は、自動車業界の永遠のテーマである。燃料は、これを消費して動力に転換し、移動体として機能するというクルマ自体の存在定義の源であると同時に、以下のような問題を抱えており、燃料消費を削減すること、即ち「燃費改善」が持続的に追求されてきた。
(1)まだまだ低いクルマ自体の総合効率
現在の内燃機関のエネルギーの総合効率(燃料の原料を採取してからクルマとして機能するまでのエネルギーの流れ全体の効率)は決して高くない。
モデルによる差も少なくないが、一般的にガソリンエンジンの総合効率は14 %程度、ディーゼルエンジンは 20 %程度、ハイブリッド車は 26 %程度と言われている。つまり、原料が持っていたエネルギー自体の 2 割前後しかクルマとしての機能に活用できていないことになる。
(2)高まる環境面での期待役割
ご承知の通り、現在主流となっているガソリンを始めとした化石資源には限界がある。クルマが排出する CO2 が地球温暖化にも大きな影響を与えると考えられており、CO2 排出量の削減、即ち燃料消費の削減が求めらている。
日本の CO2 排出量の約 2 割が交通機関などの運輸部門から排出されており、そのうちの 9 割がクルマからの排出と言われている。昨年京都議定書も発効となり、業界全体を挙げて CO2 排出量削減に取り組んでおり、自動車業界に期待される役割も大きい。
(3)安くない燃料費
消費者がクルマを保有・使用するために払うランニング費用のうち、燃料費は大きな割合を占めている。
例えば、1年間に走行距離 1 万 km、平均燃費が 8km/L、ガソリン単価が 130 円 /L という消費者を想定すると、その年間の燃料費は 16 万円を超え、税金、保険代等と比べても大きい。昨今、高等した原油価格も、当面下がる見込みは低く、今後の原油相場次第では更にコスト負担が増大することも予想される。
燃費が 10 %改善するとなると、この消費者の場合、年間 1.6 万円コスト削減できることになり、そのインパクトは大きい。
【自動車メーカーの取り組み】
自動車メーカーは、こうした問題を解決すべく、真摯に研究開発を進めており、様々な「燃費改善」技術を実現してきている。燃料噴射や吸排気の高度な可変制御、アイドリングストップや気筒休止制御など、高度なエンジン技術を開発・実用化することで、近年ガソリンエンジンを始めとする内燃機関の燃費は飛躍的に向上してきた。ガソリンエンジンの乗用車の平均燃費(10 ・ 15 モード)は、1996年の 12.4km/L から、2003年には 15.1km/L まで向上しており、この 7年間で 2 割以上向上している。
また、ハイブリッド車、バイオ燃料や天然ガスなどの代替エネルギー、そして高い総合効率を誇る燃料電池自動車といった抜本的な技術革新にも注力しており、実用化が進められている。
「燃費改善」のための飛び道具とも言えるこのハイブリッド車であるが、現時点の技術と市場規模では、現在のガソリンエンジン車との価格差はまだまだ大きい。長期間乗ることを前提にしないとコストメリットは見出しにくく、問題意識の高い消費者が、環境負荷が低いというイメージにお金を払って買っているというのが実態であろう。勿論これだけでは市場規模に限界もあり、最近では走行性能・快適性能上のメリットを謳うハイブリッド車も出ており、今後は更に多様化が進むことは間違いなかろう。
現在、このハイブリッド車の普及に大きく貢献しているものの一つが、税制面での優遇策である。国内では、一定基準を満たす排出ガス・燃費性能を確保していれば、購入時の自動車取得税が減税される。米国ではさらに進んだ形の優遇策を導入している地域もあり、ハイブリッド車の普及に貢献している。
自動車メーカーを中心に、自動車業界全体で様々な技術開発に取り組んでおり、今後も「燃費改善」が着実に進むことが期待される。
【「燃費改善」グッズに関する疑問】
「燃費改善」に商機を狙うのは自動車メーカーだけではない。世の中には実に多様な燃費改善に関する商品があり、自動車用品店に行けば、その量と多様性に驚かされる。プラグ、エンジンオイル、タイヤといった直接的に燃費改善に影響しそうな商品から、添加剤や磁石など、原理が良く理解できないものまで、所狭しと並べられている。
こうした「燃費改善」グッズの中には、本当にその効果があるのか疑わしいものも少なくない。今回のニュースにおいて、販売中止となった米国の商品と同じ問題を抱えている商品が日本で売られていても不思議ではない。
実際、店頭に行くと、「燃費が 20 %アップ!」などと魅力的なキャッチコピーが謳われているものも少なくない。そのグッズを購入に至るまでに、多くの消費者が以下の二つの疑問を抱くであろう。
(1)「自分のクルマでも効果が発揮されるのだろうか?」
自動車メーカーでもない限り、あらゆるクルマで信頼性の高いテストを行うというのは難しく、「どんなクルマでも効果を発揮!」と書いてあればあるほど疑わしくなるものであろう。
クルマが 2 万点とも 3 万点とも言われる部品を組み合せて性能を発揮する複雑な構造体であることに加え、燃費性能自体、走行状態、運転の仕方等々複雑な要素に大きく影響を受けるため、燃費性能を定量化することは難しい。国内で販売されるクルマ自体の燃費性能については、旧運輸省が制定した「10 ・ 15 モード」という測定基準があり、現在でもこれにより計測した燃費性能がカタログに表示されている。
ただ、この「10 ・ 15 モード」自体、そのクルマの実使用の燃費とは乖離していることも、多くの消費者が実体験を元に認識しているところであろう。実際、この測定には、自動車メーカーが、専用のプロのドライバー、市販品とは異なる特注の燃料、最適にセッティングされた車両を持ち込んで、公差範囲ギリギリのアクセルワークで行うため、良い結果が出るのも頷ける。そもそも、この測定パターン(加速、一定走行、原則、アイドリング等のサイクル)自体が現在の交通状況にマッチしていないということも言われており、2008年からは「JC08」と呼ばれる新モードの導入も噂されている。
いずれにしても、自動車用品店で売られている多様な燃費改善商品の性能を定量化する基準はまだ議論に至っておらず、消費者は店頭の魅力的(?)なキャッチコピーと価格だけで購入するかどうか判断せざるを得ないのが現状である。
(2)「そんなに効果があるなら、なぜ自動車メーカーが各社のクルマに採用しないのだろうか?」
実際に発売されてから自動車メーカーが目をつけ、採用に至るような商品・技術もあるだろうが、決して多くはない。自動車メーカーが採用するにあたっては、その燃費性能上の効果だけではなく、品質に問題がないか、費用対効果に見合うか、副作用がないか、等々、実用化に向けた試験が必要となり、採用までに時間がかかる。それに加え、そもそも検討の土俵に乗るまでに、仮に適切な担当者を紹介してもらえる自動車メーカーへの人脈も必要だろうし、適切な担当者に巡り合えたとしても、サンプルだけでなく、信頼性のあるデータの提出も要求される。
結果、量産に至るまで根気良く付き合える会社でなければ対応できないし、従来から取引がある部品メーカー等ならともかく、新規参入する企業にとってはその慣習もわかりにくいものがあり、さらにこれが中小企業やベンチャー企業となれば、体力的にも早々対応できるものではない。自動車メーカーへの採用が進まない最たる理由がここにある。
【政府や業界の果たすべき役割】
今回のニュースで紹介されている通り、米国では、政府主導で燃費改善商品を試験し、悪質なものについては販売停止にしている。訴訟が多い同国らしい取り組みであるが、日本も見習うべきところがあるはずである。
本当に燃費改善に貢献する技術を開発・育成するためにも、政府・業界主導での試験の実施や明確に定量化した基準の設定は必要ではなかろうか。悪質な商品が市場に氾濫することで、消費者のイメージが低下すれば、真剣に取り組んでいる人が開発した本当に効果がある商品も同様に打撃を受け、新たな技術は育たない。
また、現在、好調を維持する自動車メーカーの開発リソースは決して充分ではない。環境分野だけでなく、安全や走行性能など様々な技術テーマがあり、各々のテーマが高度化している中、自動車メーカーとしても良い技術があれば積極的に採用を検討したいと考えているはずである。特にクルマが誕生してから 100年、基本原理としては確立し、技術的にも熟成の域に達している内燃機関を始めとする機械工学の領域だけでなく、電子工学、材料工学から生物工学まで、これまで経験が少ない他領域から新しい技術が導入できないか模索している。市場に出回る技術を定量化できれば、効率的に採用を検討することもできると考えられる。
そして、燃費改善技術の定量化によって、クルマだけではなく、「燃費改善」グッズについても前述のハイブリッド車同様に税制面での優遇策を導入することも可能となるかもしれない。こうした取り組みができれば、消費者への訴求力とそれによる普及促進を期待できる。
こうした燃費改善技術に関する整備を進めることで、自分のクルマにあった最適な商品を選択できる消費者も、新技術の開発に注力し、更なる燃費向上に向けた開発を行う自動車メーカーも、大きなメリットを享受できるであろう。そのためにも政府・自動車業界が協力してこうした技術を評価・保証する体制の整備が期待される。これにより、環境面、経済面で得られる効果からすれば、十分なリターンが得られると予想される。自動車の性能の中でも、多くの消費者に訴えやすい性能であり、「クルマ=環境破壊」というイメージを脱却し、自動車業界の持続的な成長を促進する上でも、是非とも検討をお願いしたい。
<本條 聡>