FCV (燃料電池自動車)についてどのようなイメージを持っていますか?

 今回は、「FCV (燃料電池自動車)についてどのようなイメージを持ってい
ますか?」をテーマとした以下のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致
します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7532

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 トヨタ自動車は 2014年 12月に FCV “MIRAI”の販売を開始しました。先ごろ
行われた東京モーターショーで ホンダ は”CLARITY FUEL CELL”を披露し来年 3
月から日本でリース販売を開始すると発表しました。FCV は今まさに日本で走
り出しました。しかし、私たちが今すぐ FCV を買うにはまだ躊躇せざるを得な
いのが実態と思われます。そこでアンケートでは、この躊躇の背後にある理由
について 6 つの選択肢の中から選んでいただきました。
早速アンケートの結果をご報告いたします。

【ワンクリックアンケートの結果】 

1.(補助金を考慮しても)車両価格が高い。         :24 %
2.燃料である水素の価格が心配である。           :8 %
3.水素ステーションの数が少ない。             :39 %
4.水素は発火すると爆発する危険があり安全面で心配である。 :9 %
5.燃料電池や高圧水素タンクの耐久性が心配である。     :9 %
6.その他                         :11 %

 このアンケート結果を基に、トヨタ自動車で責任者の一人として FCV の開発
をされ、現在は技術研究組合 FC-Cubic の専務理事でいらっしゃる大仲英巳様
にお話を伺うことが出来ました。そこで今回のレポートでは、アンケート結果
やコメントに対する大仲様のご教示をまずご紹介し、最後に筆者の考察をご紹
介させていただきます。

【水素ステーションの数について】
 今すぐの FCV 購入に躊躇する理由として一番多かったのが、水素ステーショ
ンの数についての不安です。コメントには、「FCV の普及には、今のガソリン
スタンドのように自宅や職場の近くに水素ステーションがあまねく立地するこ
とが必要」というものが多数寄せられました。これについて大仲様のコメント
は次の通りです。

 「現在、4 大都市圏に移動式を含めて約 80 基の水素ステーションが建設中
であり、順次稼働してきています。来年中には 100 基まで増える見込みです。
今のところ MIRAI の 1日当たり生産台数は 3台で、販売台数も限られており、
水素ステーションに燃料補給に来る FCV も日に数台という状況です。ステーシ
ョンの数や地域的な広がりが限られ、ご不便をおかけしている状況であること
を十分承知しています。トヨタの FCV については、2020年頃に年間 3 万台生
産(世界)を目標としており(うち日本は 1 万数千台の目標)、ステーション
の数も FCV の販売台数が増えるにつれて、地域的な広がりと共に徐々に増えて
行くものと見ています。また水素ステーションのコストが高いのも事実ですが、
これについては現在、建設費と維持費の両方に対して国から、また自動車会社
からも維持費に補助金が出て、運用をサポートしています。FCV の販売台数が
増えるにつれて、水素ステーションが事業として成り立つよう、時間はかかり
ますが、自動車会社とインフラ会社が協力しながら取組んでいる状況です。」

【FCVの車両価格について】
 2 番目に多かったのが、FCV の車両価格の高さです。これに対して大仲様の
お考えは次の通りです。

 「すべて新製品はスタート時点で値段が高いものです。FCV は今初めて市場
に出た新製品です。どうしても高い価格となりますが、まずはこの価格でもご
購入いただける方からお買い上げいただくしかありません。技術開発による低
価格化の必要性は十分認識しています。生産台数は現在の一日 3台から、来年
1月には一日 9台とし、2020年頃には年 3 万台の規模まで増やしていくのが目
標です。量産化と技術開発により価格の低減への取り組みがされて行きます。
ところで、経済的な観点から見れば現在 FCV は高いわけですが、車の走りとい
う観点からも見てほしいと思います。MIRAI の走りの性能は従来のエンジン車
よりうんといいのです。スタートから一気に立ち上がるレスポンスと圧倒的な
加速感、そして静かでなめらかな乗り心地の良さ。この素晴らしい走りを多く
の方に知ってほしいと思います。」

【水素タンクの耐久性と水素発火の危険について】
 この 2 点に関する懸念がいずれも同率でした。コメントでは、「新素材や複
合材のデータが不足する中、タンクの耐久性が心配」、「水素の取扱上の安全
性に不安が多い」、「小学校の理科実験が規模が大きくなって現実になるので
は」等がありました。大仲様のご指摘は以下の通りです。

 「水素は勿論、取り扱いには慎重を要します。しかし、ガソリンもプロパン
も危険性は持っています。試験管に貯めた水素に火を近づけるとポンと燃える
という小学校の理科の実験。実はあれは水素だから出来るのです。同じことを
ガソリンやプロパンでやればもっと危険ですからやっていないのです。ガソリ
ンにはガソリンの安全対策が取られているように、水素には水素の特性に応じ
た安全対策が取られています。基本的には同じことですが、水素であれガソリ
ンやプロパンであれ、密閉したところに火を近づければ爆発します。そこで水
素の場合は、まず漏らさない、万一漏れても検知してすぐ止める、漏れた水素
がたまる窪みをつくらないとか、水素が空気中に逃げやすいようにするなどの
溜めない工夫もされています。水素ステーションでも、万一、水素が漏れた時
には、溜まらずにすばやく空気中へ拡散するよう設計上の工夫が施されていま
す。また水素タンクについては、高圧ガスタンクの基準が十分な安全率を考慮
して厳格に決まっており、これに準拠してつくられています。」

【水素の価格について】
 アンケートでは、「今の水素価格はバーゲン価格と聞いているので、将来、
お得になるか心配です」等のコメントが寄せられました。水素価格についても
お話しを伺いました。

 「インフラ会社さんには特別価格をご提供いただいており、まだまだ採算面
では厳しいところがあるのは確かです。FCV の普及、そしてステーションの普
及のためには、平均的な HV と等価となるような水素の価格設定にしてくださ
いとお願いし、御了解いただきました。自動車会社もインフラ会社も、ここを
出発点として、技術開発を通じて車両価格や水素価格を今後、低減して行かね
ばならないわけです。」

【その他について】
 その他を選択された方は 11% いらっしゃいました。ご意見の中で多かったの
は、「FCV はクリーンでも水素製造のときに CO2 を発生するので、真のゼロエ
ミッションとは言えないのでないか?」というものです。これについて大仲様
のコメントは次の通りです。

 「確かに今の水素は化石燃料に由来しますが、今のところ、市場に出回って
いる FCV の数が限定的であることから、無理に CO2 フリーの水素にこだわっ
ても意味がありません。勿論、将来もこれでいいということはありません。FCV
の量の拡大に合わせて水素を再生可能エネルギーからつくる等、環境への負荷
がゼロとなる水素製造法が確立されなければいけません。もし将来、水素が環
境への負荷がないやり方でつくられないなら、FCV 普及の意味はほとんどなく
なってしまいます。環境に対する配慮は極めて大事なものと受け止めていま
す。」

 以下、筆者の考察です。

 大仲様のお話しを伺って、強く感じたことの一つが、車 (FCV)はインフラ
(水素ステーション)と共に手を携えてながら進んで行く運命にあるということ
です。これは内燃機関を利用する車が世に出た時と同じことが現在新たに起こ
りつつあるということです。HV のプリウスの登場も画期的なことでしたが、HV
には今まで通りのガソリンスタンドがあれば足りました。今度は車両側の頑張
りだけでは足りず、インフラにおいてもイノベーションが求められているわけ
です。

 車両価格も水素ステーションの価格も一層の低減化が求められるのは確かで
す。また CO2 を排出しない水素の製造法も確立されなければなりません。これ
らを実現するのは、政府による補助金など制度面のサポートも大事ですが、何
よりも技術開発を通じた取組みが重要であり、決め手になると思います。

 燃料電池の触媒に使われる白金の値段が高いことがよく指摘されますが、大
仲様によれば、2008年モデルに比べ、MIRAI では使用する白金の量を 3分の 1
まで低減したということです。いかに技術開発が重要かの証しと思います。FCV
及び水素ステーションの普及に向けて、日本の技術開発の総力が試され、関連
する産業もここに新たなビジネスチャンスを見出して行く。そして、モビリティ
のゼロエミッションがついに実現した時、日本の技術力・産業力の環境への
貢献は世界から称賛されるに違いありません。自動車会社やインフラ会社の頑
張りだけでなく、私たちも、そのような望ましい未来、あるべき姿に向けて、
FCVの持つビジョン実現に向けて参加して行くことが求められる。そんなことを
思いました。

<薄井 徹太郎>